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棚橋衣奈の心労 均衡編  作者: TNネイント
第十四話「事故と反省と学習と」
6/6

14-3.撤去するか、丸くするか、あるいは?

 普通は「どうでもいい」で片付けるような話にも付き合ってきたのだが、それに終わりがやってきたのは、靴箱の前まで来た時の事。


 私と三条くんではクラスが違うため、下駄箱で別れる事に。

 上履きから靴に履き替えて、一分ほど彼を待ってみたが、それらしい姿がない。

 もたついているのかと思い玄関を軽く回ってみたが、それでも彼の姿がない。

 私は行き違いがあったと判断し、そのまま校舎を出て一人で校門へ。

 バッグも運動部のそれではない普通のものだったので、部活動か何かがない場合はそこに向かっているはずだと思っていた。


 帰りのバスはほぼ普段通り。

 下校時のやり取りについて、美佐さんが言うには「気持ちは不安みたいなのと納得みたいなのが半々」だったようで、謝らせたいとまでは思っていなかったようだ。

 これは私の「日頃の行い」によるもの、と言えばいいのだろうか……?


 それでもこちらの不安は尽きず、帰宅後にもSENNを使って彼女とやり取りをしていた。


 翌日の登校時は、バス車内での挨拶がいつもよりかは元気になり、美佐さんと美来さんを戸惑わせてしまった。

 その分と言っていいかは分からないが、他の人からの反応はいつもよりかは良かった。

 この謎の元気は、結局二時限目辺りまで続いた。

 教室に来るまでの移動中には、挨拶をした相手と少しの会話になったりもした。

 その間の美佐さんについても不安だったが、結局こちらが気にしすぎただけだったようで、緊張気味ではあったが、軽く相手の方に片手を振ったりしていた。


 昼休みに向かったのは、三年四組の教室。

 瀬戸さん達にも、井原さんにも用があった。

 最初に前者の方に近寄り軽く話をして、美佐さんを同行させた状態で井原さんの席に。


「棚橋さん……と瀬戸さん? どうして?」

 こちらを見た彼女は、困惑からか一度眉をひそめた。


「ちょっとでも話し相手になってくれればと思って……」

「それだったら私じゃなくて、友希か拓海の所に連れて行けばいいでしょう?」

「それはそうなんですけど……あなたのクラスメイトですし、人との繋がりについてもよく知ってるんじゃないかと……」

「繋がりねえ……。 それだったら、コツを一つだけ教えてあげる。 『チカラを見せろ』、以上」

 私が理由について話したのに対しても、彼女は冷たく応対していた。

 そんな状態でのアドバイスも、いい加減な内容のようにしか思えなかったが、的外れとも言い切れなかった。


「強くなれ……って事でいいか?」

「大体はそんな感じ。 人に向けて使える力がない人は頼りないし、信じられないでしょう? だから、人から信頼できると思わせられるものを見せてあげればいいの。 きっかけも手段も、基本的には何でもいいから」

「言い方……」

「適度に力を持っておいて、適切な機会で見せればいい。 これでいい?」

「まあ……そんな感じなら」

「そう。 それはどうも」

 ただ、そんな彼女の話も美佐さんは真面目に聴いていて、彼女に質問もしていた。


 私に思う事もあり、ここまでの生き様も普通とするには複雑だった二人。

 それ故に、相互理解も意気投合等も出来ない事もないとは思うが……それが互いにとって良い方に向くのかは、私には分からない。

 


 その後二組教室に戻り、午後の授業も終わって下校する時。

 今日は六島さんと二人で、井原さんと合流しようという話になり、四組の方に向かったのだが……彼女は当然のように瀬戸さん達の中に混ざって、会話を楽しんでいた。


「あれ、さのりん? 何してるの?」

「別に? あっちから今日は一緒に、って」

 気にした六島さんからの質問にも、彼女は涼しい顔で答えていた。


「いや……棚橋の繋がりなら、ある程度は知ってると思ってたけどさ……」

 私を含めた三人から視線を向けられた美佐さんの方は、恥ずかしそうにしていた。

 結局私と六島さんも彼女達に合流。

 校門を通るまで、一緒に会話をしながら移動した。


「はしえな……。 本当に何してるの?」

「少しでも人のために、と手伝ってるだけですよ」

「そうならいいけど……」

 途中、六島さんから怪しまれた。

 普段あまり彼女が見せないネガティブ寄りな表情に、私も不安になった。


「作戦を差し置いて勝手にやってる」と思われても、帰宅後には更に彼女から追及されたりしても文句を言えない。

 彼女からすれば、目標に進んでいるとは信じ難いし……。

 そもそも、瀬戸さん達は誰も笠岡くんとの関係はなかった訳で、好意を寄せる女子達の中に仲間入りする可能性を見出した上で警戒するようになるのも無理はない。

 そういう存在の人が増えれば、笠岡くんの心の負担だって更に重くなっていくだろう。

 私も私で、前々からその辺りについての危機感()あったのに、それだけで回避するためにやった事は何もなかったというのは、反省するしかないだろう。


 帰りのバスの車内でも、たまに暗い表情を見せたようで、一緒にいた瀬戸さん達を心配させてしまった。

 これでは、「井原さんとは繋がらない方が棚橋のためになる」等と勘違いさせる事にもなりかねない。

 しかし、事情についての説明によっては、「作戦」の事が彼女達に認知されてしまう恐れもあった。

 結局明日についてだったり、漫画やアニメの事だったりの話題で切り抜けたが、その明日というのが彼女達の十八歳の誕生日。

 その日と彼女達の母さんについての話も聴いた事があっただけに、話の途中で思わず感傷的になり、気を遣わせたりもした。

 私の誕生日についても話題になったので、「五月十七日」だと話した。


 家に帰ってからは、夕飯や風呂を挟みつつも勉強に集中。

 それが終わった所からは、いつものように端末を使い、友達と会話をしたりしていた。


 結局、その翌日もほぼ普段通りで、四つ子達にも何も言わず。

 余計な事を言って気分を損なわせるよりかは良いのだが、それはそれで彼女達に嫌な思いをさせる事になったりもしないのだろうかと不安だった。

 他の友達への相談も、『そうするまでの事なのか?』と思ってしまって出来なかった。



 日曜は特に何も変化はなく、月曜日の朝。

 私はいつものようにバスに乗り、車内にいた人達に挨拶をしてから瀬戸さん達と合流していた。


「分かってたのか、あの事。 正直、何か一言は欲しかったんだが……」

 彼女達にも挨拶をしてすぐに、美佐さんから土曜日の事について触れられた。

 彼女はそれを話した時、顔をこちらから見て左に逸らしていた。


「予想でしかないんだが……『そういう言葉』以外、思い付けずにいたんだろうな」

「……その通りです。 すみません」

 その状態からの、呟くような彼女の言葉もまた、私の心に鋭く刺さっていた。


 直後の彼女の姉妹からのフォローでもあったように、祝う旨と弔う旨のメッセージを同じ一つの投稿に入れるというのは、とても気難しい事だ。

 この場合に原因となるのは、どちらを優先するかとなって、瀬戸さん達は「弔う」方が先だったのに対して、こちらは「祝う」方が先にあった事だろう。

 弔うにしても、私のような赤の他人がわざわざ人の家の事に首を突っ込んだら、それはそれで人によっては無礼だとか、嫌だと思うかもしれないと判断していたが……彼女達の場合はそうでもないのだろうか?

「私だけは例外」、なんて事をする程の交友関係ではないだろうし……。


 そこから教室に向かうまでは、ほぼ普段通り。

 違いは軽く会話になった相手と、負の感情を誤魔化すようにしながらの移動になった事くらいだし、それも初めてという訳ではない。

 相変わらず、相手から「出た」とか言われたり、崩すような笑い方をされたりすると恥ずかしくなってしまう。


 一度二組教室前で別れて、そこの中の私の席で一度荷物をまとめてから向かったのは、一年六組の教室。

 授業が始まるまでの時間潰しのつもりだった。


 そこで担任教師を含めた、教室内にいた人達と軽く会話をした。

 室内にいた中の一人に「(あさ)りに来たんですか?」と声をかけられた時は緊張したが、それ以外はこれといった異変とかはなかった。


 昼休みに弁当を食べ、整理してから向かった先は、二年五組の教室。


「朝に挨拶してる人?」等と言われたり、生徒会役員の人と間違われたりしたが、そこで出来た他人との会話自体は、あまり不穏な感じとはならなかった。


 自身のクラスに戻っての午後の授業も終わって、一緒に下校した相手は笠岡くんと六島さん。

 途中からは井原さんも合流して、いつものように会話をした後、校門を通った所で別れた。


 それからも、しばらくの間はほぼいつも通りに過ごした。

 木曜日の昼休みには、福山さんにリクエストしていたイラストも完成。


 私と彼女の友人達の前に、スケッチブックに描いていた絵を見せてくれた。

 三つほどのコマ分けもなされ、まるで漫画の一ページのように仕上げられていたそれに描かれていたのは、明らかに私がモチーフの女子のキャラクター。

 こちらからは何も文句を言えないその出来に、思わず涙を流しそうになった。

 周りからは、軽いどよめきさえも聴こえていた。


「どう?」

 福山さんから感想を訊かれたが、その出来栄えに対してはどんな言葉を使っても足りないか合わないと不安になり、最初は両手で口を隠して頷く事しか出来なかった。

 こちらの顔を見た彼女が、照れ気味に微笑んでいた辺り、相当感情的になっていたのかもしれない。


「あの……最高です。 リクエストして正解でした」

「良かった。 こちらとしても、そう言ってくれて嬉しいよ。 念の為確認するけど、この絵って、ネットにも上げていいかな?」

「はい」

「了解。 投稿したら、SENNにもリンクを送るからね」

 軽いやり取りをした後は、そのまま彼女と彼女の友達との会話を聴いていた。

 イラストが先程見せられたものになるまでの経緯の事を中心に、「どの漫画のどこが気に入ったか」とか、「春からのアニメは何を観ているのか」とか、様々な話が聴けた。

 漫画とアニメに関しては、初耳になる作品や人の名前に言葉等が多数出てきて、私が口を挟めば失礼になると思い、相槌を打つ程度しか喋らなかった。

 そういったサブカルチャーの知識量だったり、そこへより多くのリソースを注ごうという意志だったりは、まだまだ彼女やその友人達には遠く及ばない。

 今からそこに追い付こうとするのも違う気はするが、だからといって「私に合わせろ」とか迫るのもそれはそれで違うだろうし……。


 ちなみに、彼女達の間で最も注目されていた「この時期のアニメ」は、「腹黒ハイスペ神埼(かんざき)くん」という作品。

 原作はSNS発の青春ラブコメ漫画で、自分の口もあって何でも出来るかのように誤解されがちだが実はポンコツな「駒沢(こまざわ)さん」が、普段無気力そうですぐ謙遜するが本気にさせると誰にも止められなくなる同級生の「神埼くん」と友達となり、様々なイベントを通じて仲を良くしていくという内容なのだとか。

 この地域でも深夜にはテレビでの放送があるそうで、それを録画したものを視聴している人もいるようだ。


 チャイムと共に会話が終われば、すぐに自身の席に戻って午後の授業へ。

 それも終わっての、下校時の事。


「お前か? 二組の棚橋っていうのは?」

 模範的な……という表現は適切なのかは分からないが、髪の一部分を染めていたり、制服を着崩していたりといった、いかにもな不良とも言えるような様相をしたおおよそ六人ほどの男女のグループが、教室を出てすぐの視界の先にいた。

 その中には三条くんもいたが、彼が言っていた「ボスに相当する人物」がいるのかは分からなかった。


「そうですけど……どうかしましたか?」

 普段のようにして返事をした所、彼らが笑みを浮かべて近付いてきた。

 恐怖さえも感じたが、大声を出せば生徒指導の可能性も出てくる。

……いや、黙っていた方が悪いのだろうか?


「興味はないのか? こっちの側には」

 グループの中の、図体からして明らかに浮いていた男子が、こちらの十数センチほど前まで顔を近付けた上で言ってきたのは、自分達への勧誘だった。


「それは……」

 拒否するわけにもいかず、だからといって簡単について行くのにも抵抗があり、返事には時間がかかった。

 つい最近にも、意志や力について教えてもらったはずなのに。

『やりすぎたりしないのか?』という恐れもあったが、それで他人の言葉を無視する事を正当化出来るかというと、微妙かもしれない。


「ゼロ、って訳でも―――――」

「こんにちは」

 周りに立ちつくす人が増えてきて、どよめきさえも聴こえてきた。

 そんな中で私が思い付いた言葉を発していた所に、やってきたのは三好さんだった。


「おっと……しょうがないな」

 彼女が挨拶したのに対して反応した彼らは、大事になるのを恐れたのか、すぐに私の前から去るように歩いていった。

 その中には、去る前に一度こちらに視線を向けていた人もいた。

 一度会っていた三条くんではなく、彼とはまた別の誰かが。

 


 三好さんへの感情としては、感謝よりも戸惑いや恐怖が勝ってしまい、不自然に笑って手を振る事しか出来なかった。

 その彼女が何を感じたのかは私には分かりかねるが、一度立ち止まり、不思議そうな表情をした後、目をつむりながら私の前を通って行った。

 その際、こちらに向けて軽く左手を振っていた。

 周りもほとんどは彼女に注目していて、「流石(さすが)」等といった声も聴こえてきていた。


 結局この日も、帰りは美夏さん達と一緒になり、すぐに先程の事について気にかけられた。

 絡まれていたグループの中にも彼女達と同じクラスの人がいて、複雑な気持ちになりながら見ていたのだとか。

 彼女達以外にも、井原さん等の何人かとも軽いやり取りはしたものの、相手の事情等から一緒に下校するとまでは至らなかった。


 その後、いつものように家の最寄りのバス停で下車して、彼女達と別れてからも残ったのは、「三好さんとはどんな人なのか?」という疑問だった。

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