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棚橋衣奈の心労 均衡編  作者: TNネイント
第十四話「事故と反省と学習と」
5/6

14-2.ありのままでいる事も難しい

 学園からの帰り。

 瀬戸さん達と合流するのも、すっかり当たり前のようになった。


 一緒になって乗ったバスの車内では、美夏さんとテレビの事で軽く話したりもしながら、 最寄りのバス停で下車するのを待った。


 この際、遊びに来てもらう約束について、彼女の横にいたテレビのスタッフさんから、取材についての確認があった。

 ただ、家において、私にその辺りの可否を決定する権限はほぼない。

 そのため、母さんにSENNで確認を取った所、「自分は全然いい」という内容の返事があった。

 流れで以前の取材同意の書類についても訊いてみると、「父さんが自身を保護者として署名して局に送ったと言っていた」とか。


 その後、スタッフさんとも話をした結果、私の家にもドキュメンタリーの取材がやってくる事となった。

 それから、私だけでなく、美香さんとその方々を含めた四人で、最寄りのバス停でバスを降りた。

 降りてからはビデオカメラを持った方に、主に前方から彼女と並んで道を歩いている様子を撮影してもらいながら、自宅に到着した。

『事故の恐れはないのか?』と不安になったが……。


 玄関で靴を脱いでリビングに向かうと、母さんの姿が。

 美夏さんからそこへと話しかけたのをきっかけとして、私も含めた三人で軽く雑談をした。

 彼女が以前に姉妹兄弟の話をした時の内容をちゃんと覚えてくれていたのもあって、「姉と兄とはどのような関係だったのか」とか、「父さんはどんな人なのか」とか、踏み込んだ話もしていた。

 その間、私との会話の内容をどうするかについて気にはなったが……二人は楽しそうにしていたので、わざわざ文句を言えなかった。


 母さんとの会話が終われば、麦茶と氷の入ったコップが乗せられたプレートを持って運び、美夏さんと二人で私の部屋へ向かった。

 飲み物は私も彼女も運びたがっていたのだが、母さんの提案で私が運ぶ事になった。

 不満になっていないと良いのだが……。


 そうして二人でやってきた、私の部屋。

 入る際、プレートで両手が塞がっていたので、美夏さんに前方を譲って、ドアを開けて貰った。

 その彼女は私がプレートを置く前に、テーブルの前に座っていた。

 会話が始まったのは、コップをそこに移して、私が彼女と向かい合うようにして座ってからだった。


「大体、話があった通りですね」

「無闇に、とかいきなりそういう気分に、とかならないんです。 そうは思っても、本当に変えようと思ったら、母さんの許可が必要になるので……」

 最初の話は、部屋の外観についてだった。

 この家のほとんどは、週に二回、平日の昼に、母さんか父さんに掃除してくれている。

 稀に私の部屋については私にやらせたりもするが、その際はその際でどちらかが付き添ってくれるし、しっかり教えてくれる。

 ちなみに、これは愛奈と勇も例外ではなく、必ず一人は自分だけでやる事になるため、その場合は代わりとして、道具や洗剤の使い方が書き留められたメモを渡される。


 この話の途中、スタッフの二人も合流して、それからはカメラを向けられながら部屋での時間を過ごす事に。

『私の事まで追いかけ始めたら本筋からズレてしまうのでは』、と不安だった。


「美佐の事、私に相談していいんですよ。 姉にあたる身だという事で、何か抵抗があるのかもしれませんが……」

 その中で彼女が出した話題は、美佐さんについてだった。

 こちらの事も気にかけてくれた。


「そんなつもりはないです。 私がこう思ってた、とか聴いたら、美佐さんはどう思うのかな、とか考えてしまって……」

「きっとあちらとしても、その辺りははっきりと示してくれた方が、まだ安心出来るんじゃないかと思うんです」

「やっぱり……そうなんですかね……?」

 楽しそうにも見える表情を崩さないで話し続ける彼女とは対照的に、私は徐々に不安になっていた。

 美佐さんを怒らせていたというのに、反省も学習もまるで出来ていないではないかと思っていたからだ。


「あちらだって、棚橋さんの事はもっと知りたいはずですから。 教えられる事があるなら、教えておいた方がいいですよ」

「ですよね。 申し訳ないです」

「大丈夫ですよ」

 そんな私に対しても、彼女は優しかった。


「……大丈夫ですよね?」

「……はい」

 その彼女の言葉に対して、私は思わず感傷的な表情をしていたようで、彼女を困惑させてしまった。

 この空気感を誤魔化したい所だが……あからさまだと、逆効果になってしまうという恐れがあった。

 返事の声は小さく、かつ弱々しくなってしまったが、内容そのものには嘘はない。

 これだって「無理をしている」と言われればそれまでのはずなのだが、彼女は変わらず前向きだった。


 これで私も気を良くして、最近読んだり観たりしてきたものについてしばらく話した。

「最近投稿されたリーデレクトロニクスの曲でおすすめのもの」については特に盛り上がり、歌っているキャラ一人につき二曲を紹介した。

 紹介した曲達の中から三曲ほどは、私の端末からMyMove(マイムーブ)のアプリを開いて、一緒に聴いたりもした。

 美夏さんから(すす)められた、『ミセスシックル』というアクションものの、端末からアプリで読むタイプの漫画も面白くて、その作品が掲載されているアプリをインストールしたりもした。


 他にも、瀬戸さん達の家で流行っているゲームの事とか、服装についての意見交換も行って、結局一時間以上は一緒だった。

 十分撮れたのか、途中からカメラマンの方が部屋から去っていた。


「ありがとうございました。 以前も言いましたが、こういう機会ってあまりなかったんですよね」

「楽しかったかどうか、で言ったら……?」

「楽しかったですよ。 ただ、やっぱり遊べる物があった方がいいとは思いました」

 その帰り際。

 飽きもしているかもしれない中でも、彼女が楽しそうに話していた事に対して不安になった。

 賛否どちらも話してくれたのはよかったが、「本当はもっと不満だったのではないか?」等と考えてしまう。


「すみません。 次があったら、出来る限り用意しておきます」

「あれを買ってこいとか、そういう事を迫るつもりはないですよ」

 口頭で陳謝した上で、対応についても話した。

 こちらが聴いた言葉を極端に解釈していたのだろうか、彼女からの返事は苦笑いをしながらになっていた。


 そんな彼女とは玄関を出た先まで一緒に移動して、挨拶と会釈をしてから別れた。


 スタッフさん達も一緒に家から離れるかと思ったが、二人のうち一人は残っていた。

 前々からカメラマンの(かた)と一緒にいた、カジュアルな服装の女性だった。

「四つ子達についての話を訊きたい」と言うので、応じる事に。


 訊かれた事が想像よりも細かい上に数も多く、質問が終わるまでの間もそこそこ時間がかかった。

「分かりません」の一点張りというのも、それはそれで失礼だっただろうし……。

 相手の数こそ全然違うが、まるでぶら下がり取材を受けていたかのようだった。

 一応、母さんにも話は訊いてあるのだとか。

 一体いつ、どこで「使われる」のだろうか……?


 結局、この日も勉強があまり捗らなかった。

 その代わりに時間を使っていたのは、端末に入れた漫画アプリから漫画を読む事。

 美夏さんから勧められていた作品の続きだったり、アプリを操作していた中で目についた作品だったりを読んでいた。


 後者は「サイキック·ラリー」という漫画の事。

 色々あってアメリカ大陸の各地の都市に離散していた能力者の家族が、ギャングやマフィアの妨害を乗り越えながら再結集を目指すという内容だ。

 これもこれでアプリユーザーからも人気の作品のようで、アニメ化も決まっているのだとか。


 それから翌朝までは、普段通りに過ごした。


 今日の通学時のバスでも、車内で見かけた制服姿の人に、自分から挨拶をして回っていた。


「あ、棚橋。 おはよう」

 全く思い当たる所がないという訳でもないが、学年が変わって以来、こちらから名乗るより先にあちらから確認される事が増えた。

 これがネット上で少し騒がせたから……なのかどうかは分からない。


「……おはようございます」

 相変わらず後者だと反応に困り、返事が弱くなってしまう。

 相手もそんな私への反応に困っているというのが、顔を見てすぐに分かるようにはなったが……それが成長だと言えるのかどうかについては微妙な所だ。


 それからいつも通り瀬戸さん達と合流、学園前でバスを下車して通学するのだが、そこでも周りからの視線や反応の変化を感じていた。

 大抵は私と何かあった訳ではないというのに、こちらに挨拶をしてくれるだけでなく、手を振ってくれる人までいた。

 まさか、私にも『春』が来たというのだろうか……?

 横にいた美佐さんにとって、ストレスだったり負荷だったりにはなっていないといいのだが。


 それから、午前の授業。

 今日も体育があったのだが、内容は体育館でのバスケットボール。

 苦手な球技という事で、いつものように「下には(わたし)がいる」と自分から示す事によって、自らのプレーについてネガティブな感情を持っているであろう人を落ち着かせた。

 これ自体は学園に来る前からそうなので、ミスの後の軽い野次や笑い声が聴こえてきたりするのにも慣れている。

 途中、偶然にもスリーポイントシュートを決める事は出来たのだが、それが自分によるものだと分かったのは、同じチームになっていた中の一人に背後から抱きつかれた時だった。

 このハプニングの一種とも言えなくもないような出来事に、周りがどよめいていた。


 その後の昼休みに、弁当を食べ終えてから立ち寄った笠岡くんの席周辺でも、この事が話題になった。

 話の間、場に居合わせていた他の女子達からの視線も私の方に集中したのに対しては、反応に困ってしまった。

 出来事自体は偶然でしかないし、かと言ってそれをいきなり話したら嫌われるかもしれないし……。

 その中の一人でもあった福山さんからは、部活動の見学についても提案されたが、「考えておきます」としか言えなかった。


「了解。 見るだけだったら、許可とかは基本いらないからね。 もし、また興味が出てきたら、体育館に見に来てほしいよ」

 それに対して、彼女は不満になったりといった様子は無かった。


 その後、昼休みに、午後の授業も終わって―――――。

 井原さんと合流したくて、二組教室を出てからは笠岡くん達とは逆の向きへ移動した私。


「何? 拓海の所に向かうつもりだったんだけど?」

「そうなんですね。 それなら、私も一緒に向かいます」

 目的を訊かれたので答えたが、聴いた彼女は内容に呆れて、溜め息をついていた。

 こうなるのも、別におかしくはない。

 彼女に言わせれば「無駄」だろうし……。


 その後は二人で笠岡くんと、彼の側にいた六島さんと合流して、バス停前まで四人で下校した。

 今度はいない事にされたりもせず、割と久々な四人組だけでの会話を楽しんだ。

 ただ、井原さんとしては、私との事についてはあまり触れられたくなかったのか、六島さんから出された話に対して過剰にも思える反応をしていた事もあった。

 もし、本心では本当に嫌な話題だったりしていたら……?

 この合間には、特にこれと言ったトラブルはなかった。



 それから木曜の昼休みまでの間は普段通りに過ごした。

 この日に昼食を食べ終えてから立ち寄ったのは、福山さんの席周辺。

 普段なら、イラストについてのリクエスト募集が行われる日だ。

 彼女にはほとんどそれ目当てで来ていた事が分かっていて、少し恥ずかしくなった。

 その様子を見た彼女は軽く笑っていた。


「君にとっては、きつい言い方になるけど……リクエストをするなら、今のうちだよ」

 その上での彼女からの言葉を聴いて、私は戸惑った。

 絵にしてもらいたいはずのアイデアが浮かばないのだ。

 変な物にしたら彼女の負担も大きくなるが、どうせなら出来る限りの差別化はさせたい。

 それに、リクエストの相場だったり、平均だったりについてもよく分かっていなかった。


『あれは違う』とか『こうでもない』とか考えていると、席周辺には彼女の友人達が集まっていた。

 描いてほしい絵について話せたのは、そうなってからも数分後の事。

「過去の自分の前に笑顔で現れて、片手を差し出す女子高生」にした。

 そこからこのシチュエーションについての談義が始まったのだが、私は引き合いに出されていた作品についてあまり詳しくなかったため、ほとんど相槌を入れるだけになってしまっていた。

 無理に詳しいフリをするよりかは良いのかもしれないが……相手からは、見透かされていても驚かない。

 彼女からは依頼について、「更に注文したいなら土曜日までに言ってほしい」とも伝えられた。

 その日より後に頼まれると、一から描き直さないといけなくなるのだとか。


 それから昼休みが終わってから午後の授業までの間は、これと言った変化はなく―――――。


「こんにちは。 校門まで一緒とか……どうですか?」

 この日に試みたのは、よく知らない相手と一緒に下校する事。

 教室を出たらすぐに戸の横に向かって、一人で通りすがろうとしていたと判断した人を中心に声をかけた。


「棚橋と? 嫌だ」

「すいませんが、急いでるんで」

「なんで……? お断りで」

「これから部活だから……」

 反応は普通で、なかなか横にいられるまでにはありつけない。

 冗談と思われたり、素振りだけで断られたりもしたが、それらも「当然」と言われれば何も言えないような事だ。

 話しかけた後の相手からと思われる独り言の内容が刺さったりもしたが、『そうなるのも無理はない』と解釈して別の人を探した。

「知っている人」から話しかけられたりもしたが、その時は断っていた。


 結局相手は見つかったが……その人は三条(さんじょう)くんという、短めの金髪で人相が普通よりも少し悪い男子だった。

 私の名前は知っていても、どんな人かは良く知らず、「ワンチャンありそうなら」という事で許可を出したそう。

 どうやら彼には彼自身にとっての「ボス」に相当する存在がいるようで、移動中はその人についての自慢話がほとんどだった。

 話は真面目に聴いていたが……本当は気にしない方がいいのだろうか?

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