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棚橋衣奈の心労 均衡編  作者: TNネイント
第十三話「茨の道にも同伴する」
1/3

13-1.どんな色に咲く花でも、茎の色まではほとんど同じだから。

このエピソードは8000文字を目安に書いています。

 もしも、花畑の中で「一つだけ好きな種類の花を飾りにしていい」と言われたとして、「この花の周りに生えている草だけがいい」と言う人は、多くはないだろう。


 綺麗に咲き誇り、水滴や土の粒、虫でさえも舞台の役者のように仕立て上げられる、たくさんの花達を差し置くというのなら、尚更の事だ。


 しかし、その草にも華はあるし、名前や花言葉も存在する。


 それもまた、『不幸にもこの身に生まれてきてしまった』なんて事はないし、その生まれ故に『より綺麗な花を引き立たせるため』だとか、『何かに食べられてもらう』といった役割を固定されている訳でもないのだ。


『心優しい正義の心を持った私によってのみ救済されるべき"可哀想な存在"でなければならない』、なんて事もない。


 皆が皆、誰かの考えに都合の良いように利用されたり、(おおやけ)に晒されたりするためだけに育ってきたという訳でもないのだ。



 ――――――――――



『一番幸せにしたいと思った』―――――。

 私をここまで言ってくれた、笠岡(かさおか)くんの気持ちを反故(ほご)にしてから、約三週間が経過した。


 罪悪感から来る不調からは、彼本人も含めた周りからのフォローもあり、二週間ほどした頃には立ち直りはした。

 それでも、彼が苦しい表情をしていると、不安のあまり視線を逸らしたりしてしまう。


 この間が良い影響を及ぼした、と言っていいのかは分からないが、彼に好意を寄せている女子達との距離を更に縮められた。

 倉敷(くらしき)さんが卒業したが、終業式にも彼女が顔を出していたので、そこで一度会っては連絡先を交換した。

 内藤さんや福山さんとの交流も、より深いものになっていた。


 春休みも、色々と楽しんだりもしている間に、今日で残り二日になった。

 この間に、母さんと父さんと私の三人で、『マイナーチェンジ』についても話し合っていた。

 呼び方は母さんの提案で、自動車の界隈でも使われている用語が元なのだとか。


 そんな両親から、予算として一定のお金を貰ってから向かったのは、改信院(かいしんいん)市内の、黒い看板が大人びていた雰囲気の理髪店。

 そこで理容師さんともやり取りをして、今よりかは短めに切る事になった。


 しばらくして散髪が終わり、その出来上がりを目の前の鏡で確かめた。

 眼鏡とヘアピンは外していたが……このままでも良い気がしていた。

 コンタクトにも抵抗があっての眼鏡だったのだが……。

 それらを戻してから、代金を現金で支払った。


 帰宅してから、両親に出来上がりを見せたところ、どちらも褒めてくれた。


 その後、母さんと(あい)()と私で、髪型について意見を出し合ったりした。

 結果、後ろの髪のみを、一本の中ほどの大きさの三つ編みにする事に。


 これにあわせて、愛奈から「新しい髪型のために」と、白色の無地のリボンのように結ばれた布の付いた黒色のヘアゴムと、四つの細い直線の赤色のヘアピンを貰った。

 ヘアゴムは三つ編みの先の方に、ヘアピンは両目の斜め上に二本を重ねるようにして付けるといいらしい。


「学校だと、派手になってしまうかと……」

「ええー? こうでもしないと地味にならない?」

「ああ……」

 聴いていて不安になった事を確認してみたが、反論には言い返せなかった。



 ――――――――――



 眼鏡で三つ編みとなると、典型になるのは「勉強好き」か「図書委員」辺りになってくる。


 しかし、残念な事……と言っていいのかは分からないが、私はどちらかというと勉強より運動の方が得意だし、学園にも図書室はあるがほとんど利用していない。


 更に言えば、その運動だって普通の人と比べてほんの少し出来るというだけで、何か才能があったりするわけでもない。

 特に球技に関してはただのボール投げ以外軒並み酷い有様だったし、その中でも特にサッカーは苦手だった。


……もしも私の()が悪くなかったら、この辺りの話も変わっていたのだろうか?



 ――――――――――



 それから、母さんに私の髪を編んでもらった。

 思っていたより引っ張られる感じは弱かった。


 出来上がりは直接は確認できなかったが、愛奈から写真をSENNのメッセージで送ってもらった。


「こ、これ……私なんですか?!」

 画像を端末で確かめた時は、顔が驚いていた。

 良い意味で、自分の後ろ姿だと信じられなかったのだ。

 貰っていたアクセサリーの事もあり、「過去の私」にも自慢したくなるくらいの変化になるだろうと確信した。


「そう!」

 改めて二人に確認してみると、どちらも微笑んでいた。

 元気そうに返事をしていたのは母さんの方。

「やってほしいなら言ってほしい」とも、「望むなら何度でもやってあげる」とも言っていた。


「こうやって驚いてる衣奈(えな)を見たの、いつぶりなんだろう?」

 愛奈の方はというと、何か爽やかな感じを出そうとしているようだった。


 軽く話をした所で、私は一度ヘアピンとゴムを持って部屋を出て、廊下でそれらを予め言われてあった通りに髪に取り付けた。


「おお、似合ってるじゃん! ……『ぴかり系アニメ』のキャラっぽいけど」

 緊張しながら戻った先では、二人とも満足そうに反応していた。


「ぴかり系……?」

 愛奈の例えが理解できず、どういう意味なのか訊いた。


「スターズコミックぴかり」という月刊の四コマ漫画雑誌、およびその系列の雑誌で連載されている漫画が原作になっているアニメの事で、まれに似たようなヘアピンの付け方をしているキャラもいたりするらしい。

 この際、ワード自体の説明として、有名だという作品もいくつか教えてもらったが、聴いた事があったかどうかも覚えていない、あるいはそもそも作品名自体が初耳なんて作品も多かった。


 その中で、「一例としてこんなのがいる」という言葉とともに彼女が見せつけてきた端末の画面の画像は、鎖骨あたりまでの長さの黒髪のツインテールに、左右に黄色のヘアピンを交錯させるように付けていた、女子高生らしき衣装のキャラクターのものだった。

 ヘアピンは私のそれと比べれば大きめで、斜めの度合いもあってバツの記号のようにも見えた。


「ポジロジ!」というアニメのメインキャラクターの一人で、名前は「立田(たつた) (うた)」というらしい。

 アニメの放送自体は過去に一期があっただけだが、SNSでは今も熱狂的なファンがいるのだとか。


「いろいろあるんだよ、ぴかりも? 『プラチナム』とか、『エクストリーム』とか、『フリーキック』とか!」

「見た事あるような、ないような……」

 熱くなったのか早口になっていく愛奈に対して、私と母さんは苦笑いしかできなかった。

『ぴかりフリーキック』だけは四コマ雑誌ではないという事はこの時に知った。


 この日は夕飯の話題の内容と寝る前の準備以外、普段とそこまで変わらなかった。

 他の違いとしては、明日をどうしようか悩んで、すぐに寝付けなかったくらいだ。

 入学式は関係ないはずなのに。



 その翌日―――――。

 結局、目覚めてから午前中の間はほぼいつもどおり。

 学園で過ごしていた時間のほとんどが、動画を聴きながらの宿題に変わっただけだった。

 昼になる手前、私服に着替え、母さんに頼んで髪を編んで貰い、ヘアピンやヘアゴムを付けてから、「公園に散歩に行く」という名目で外出した。


 向かったのはこちらも改信院市内の、「みなもと堂」という私の父方の祖父にあたる源三(げんぞう)さんのお店。

 昼食のうどんを食べるためだ。


 営業中の店内は満席というわけではないにしても、そこそこの混みようだった。


 ここで食べたのは、刻みネギとしょうがを気持ち多めにトッピングした、ひやあつのつゆままうどん一玉(ひとたま)

 このお店では、そこにくし切りのレモン一切れも盛り付けてくれる。

 予め皿に一つずつ盛り付けていた、おでんのこんにゃくとちくわと大根もセットだ。

 これで消費税込みでも、会計は千円は行かない。


 麺もおでんもしっかり噛んで味わい、食べ終われば食器をお盆ごと返却口へ持っていった。

 そこから食器を洗っている店員さんの姿が見えたので、そこに向かって左手を軽く振った。

 店を出る時も、厨房の方に向かって作り笑いを見せたりしていた。


 ただ、そうしてすぐに『源三さんがどう思うのか?』などと考えては一人で恥ずかしくなっていた。

 あちらはこちらほど気にしてはいないかもしれないが、次に家族で行ったりした時にどうなるのかと不安になった。


 帰ってきてすぐ、母さんに「嘘をついていた」と言って軽く謝った。

 しかし、本当の行き先については「うどん屋さん」としか言わなかった。



 翌日―――――。


 今日は三年生として迎える始業式。

 髪や新しくなる制服のネクタイについてのものも含めた準備も終えて、通りかかる人という人に何かしらの反応をしながら、最寄りのバス停に向かった。


 そこからバスに乗車して、切符を買ってすぐに向かったのは運転席の方。

 しっかりと挨拶からの一礼を済ませていくと、次に車内にいた他の人達にも、近寄って軽く手を振ったり、首を少し上げ下げしたりといった仕草を見せていた。

 今日の車内は他の学生の保護者だったり、それと思わしき方などもいて、普段よりも混雑気味になっていた。


「ああ……おはよう、棚橋(たなはし)

 美佐(みさ)さん達とは、その途中で合流した。

 今日はドキュメンタリーのスタッフに、彼女以外の姉妹達の父さんもいた。


 その人達と最近の事について雑談をしていた。

 私からは「イメージチェンジ」の事とか、彼女達からは三年では全員バス通学になる事とか。


 また、彼女達の母さんの命日も迫ってきているのだとか。

 例年の四月十六日の未明に、家で黙祷を行うという。

 実はこの日は彼女達の誕生日だったりするのだが、美夏さんからは「そういう日だからといって自分達宛の贈り物はやめてほしい」との事だった。


 プレゼントをめぐっての喧嘩が毎年のように起きていた事と、事実上の親の命日に祝い事を重ねるという事に対する是非(ぜひ)の問題から、亡くなった翌年からは誕生日祝いは自粛しているのだとか。


 美佐さんからも、「バレンタインの際に言い忘れていた事」として、四つ子達宛てに物や手紙を送る際に注意するべき事を教えてくれた。

 複数人が対象の場合は内容をなるべく均等にするとか、四人宛てではない場合は必ず誰かを指定しておくとか。


 バスが学園前に停まり、運賃の支払いを済ませて降車してからは、彼女達とは別行動になった。

 その先でも、私は「見かけた人に対しては何かしらの反応を取る事」を徹底した。


 相手からのもので一番多かったのは同じ反応をされる事で、自分より元気な人だったり、いきなりだったのか困惑していた人も少なくなかった。


 それから向かったのは、予め掲示があると案内されていた校舎の入り口の前。

 そこに特設されていた掲示板に張られていた、校舎内の教室の地図と新学年のクラス分けが書かれた張り紙を、そこそこの人だかりが一喜一憂していた中で確認した。


 私は二組という事になったが、見て目を疑ったのはクラスメイトの面々。

 笠岡くんだけでなく、六島さんに辻さん、福山さんの名前もあった。


 井原さんの名前も探してみた結果、四組の所で見つけた。

 同じクラスには服部さんに、瀬戸さん達の名前もあった。


 この間にも、自分が他の人から話しかけられたりもしていた。

 この瞬間さえもどこかで話題にされるかもしれないと思い込み、笑顔を作ったり、挨拶をしたりしていた。


 こんな事を言ったら気を悪くする人もいたりするのかもしれないが、この学園は女子のレベルが非常に高い。

 私が『相手の事を可愛いと思って接している』からとかではなく、本当に「綺麗」とか「可愛い」といった言葉でしか形容のしようがない人が多いのだ。

 そういう人に話しかけられたりすると、こちらも若干の嬉しささえも感じられる。

 ただ、今まではそれと同時に出てくる緊張や恥ずかしさのほうが強くなってしまっていたのか、あまり言葉や仕草で(しめ)せずにいた。

 私の方から近寄ったり話しかけたりする分には、そんな事はないのだが……これも「癖」があった事による影響なのだろうか。


 軽い雑談になる事もあったし、ほとんどの相手は微笑んでいた。

 面白いと思われていたのだろうか。


 それからは、両親とも合流。

 やはり学園までは家の車で向かっていたようで、帰りにどこに立ち寄るかについても話をした。

 その中で、源三さんのお店についても話題になった。

 昨日も立ち寄っていた、なんて言えなかった。

 私からも意見をあまり出せず、結局一度そこに立ち寄って昼食を食べる事になった。


 それから、体育館で迎えた始業式。

 今年も校長と理事長の挨拶があったのだが、内容は昨年とほとんど変わらず。

 それぞれ昨年度に見ていた映画や本の話、政治語りがほとんどだった。

「学生が大きな功績を」とか、「どこかの部が優秀な成績を」、といった所への言及はほぼないのも一緒だった。

 今年はまだ短めだったが、昨年はこれで二人とも十分(じゅっぷん)ほどの時間を取っていた事に対する不満を口にした人もいたか。


 この途中、隣の席にいた人から「長くない?」という声が聴こえてきた時は反応に困った。

 苦笑いから相槌を打つ程度だったが、それでもその人の気を損ねていないか不安だった。


 今年も、ある意味心臓が試されるような校歌の斉唱は健在だ。

 卒業してからは恋しいもの……になるのか?

 明らかに外れているとか、わざと外しているといった人は少なかった。


 終わってからは三年二組の教室に向かったのだが、この際にわざと一年や二年の教室を通るように遠回りをした。

 そこでもはにかんだり、片手を少し上げて振ったりしたところ、同じような仕草で返してくれた人も何人かいた。


「すみません。 一年の所に顔を見せに行ってて……」

 到着して、入ってすぐに遅れについて口頭で謝ったが、空気感は想像していた以上に苦しい感じとはなっていなかった。

 この直後にもどよめきが聴こえてきて、困惑のあまり笑ってしまった。


 新しくクラスメイトになる人達とも軽く話をして時間を潰した所で、チャイムが鳴った。

 そこから少し経った所で、新しい担任の方が入ってきた。


上島かみしま(かな)」さんという人で、黒いスーツのような服装、暗い紫色の一つ結びの髪、鋭い目つきの青い瞳が特徴的だった。

 この学園には四年程前にやってきたのだとか。

 軽い挨拶と質疑応答が終われば、今度は席の配置を決めるために話し合った。

 私は廊下に一番近い列の、図で見て上から二番目の席になった。

 ここから左斜め後ろが六島さん、そのまた左の席が笠岡くんの席と決まった。


 次に行う事になったのは自己紹介。

 先生が名前の順に呼び出し、呼ばれた人が起立して、一定の時間内に行う方式だった。

 終わって着席してから、私を含めても最低二人は拍手をしていた。


 私は立川(たちかわ)さんという、少し離れた席の女子の後に呼ばれたが……それまでは他の人の事を把握する事に意識が行っていて、どんな話をするかについてはあまり決められていなかった。


 名前を呼ばれたのに反応し、席から起立したのだが―――――。


「ええ……もしかしたら、どこかで私の名前を聴いた事があると思います」

 言い始めた途端、先生の顔が真剣になった。


「棚橋、って言うんですけど……多分もう知ってるので、言うまでもないですよね?」

「最初からやり直してくれませんか? 知らない人もいると思うので」

 緊張もあってあやふやになっていた所に、先生から注意を受けた。


「すみません……」

 その方に口頭で謝ったが、気まずい表情をさせてしまった。

 時間を置くのにつれて、場の空気も不穏になっていった中、作り笑いをしながらやり直した。

 その中で話したのは、「好きなのは他人とのコミュニケーション」とか、「部活動はやっていないのでおすすめがあれば教えてほしい」とか。


「あとは……なるべく多くの、皆さんの心の悩みとかに寄り添える事が出来たらいいな、って。 よろしくお願いします」

 この言葉の後、私は先生の方に軽く頭を下げてから着席した。

 座る瞬間に視線が向かっていた気がしたが、圧力のようなものはあまり感じられなかった。

 終わってからの拍手は私も例外ではなく、数人程から受けていた。

 誰から、というのはあまり見えなかったが、わざわざ直接確認しに行くまでもないだろうし……。


 それからは、オリエンテーションについての説明を受けたり、春休みの宿題を提出したりしていた。


 この日は早めの時間に下校。

 他のクラスの人を待とうともしたが、結局笠岡くんと六島さんとの三人で、校舎を出て親のいた所まで一緒に移動した。

 彼の両親に顔を見せる事にも不安はあったが、いざそうしてみると前に家に遊びに行った時とほとんど表情が変わっていなかった。

 件については彼も「もう伝えてある」とは言っていたが、この際じゃないと聴けない事情というのも無いとは考えられなかった。


 ただ、彼の母さんは、最初に話を聴いた時は「本当に意味が分からなかった」という。

 あの後の彼は家でも落ち込んでいたようで、夕食を呼びかけてもまともに応じてくれなかった程だったとか。


「でも……いつか、そうした事のあったおかげで……笠岡くんはもっと、自分の事を幸せにできるって信じたんです」

 さらなる罪悪感を抱く中、行動に至った理由をその人にも話した。


 その話を聴いていた彼の方に顔を向けてみると、言葉を失ったような表情をしていた。

『あの時』でさえも見られなかった、こちらにはなかなか見せない表情だ。


「あっ……すみません……」

 気分を害したのかと不安になり、一度頭を下げた。


「ほら、はしえなもこう言ってるしさ? 付き合うの、私にしない?」

「……ごめん、今はまだ早いと思う。 他の子からは何をされるか分からないから」

「今更そんな事でビビってるの?! もう!」

 落ち着きを取り戻した彼に、六島さんが食い気味になって話しかけた。

 彼女は彼の答えに納得していないようで、会話の中ではしかめっ面もしていた。


 双方の考えていた事の中に、私から「全くの間違いだ」と言えるような事は無い。

……というか、そもそも私には簡単には言えない。

 そんな中で機嫌を損ねずになだめる、というのも非常に難しい。

 私も含めた、二人の近くにいた人達は、この瞬間は作り笑いしかできなかった。


 そんな重い雰囲気の話も終わって、世間話にも入った所で、私の両親とも合流。


 親同士でも軽く話をしてから、笑顔を作り、手を振ったりもして別れた。

 笠岡くん達も同じような反応をしていたが、これもまた普通の事だ。


 学園周辺の駐車場まで歩いて、水色のワゴンの二列目の左側の席に乗って、予定していた通りにやってきた源三さんのお店。

 そこでも一旦通り過ぎて、店周辺の駐車場に車を停めたのを確認してから降りた。


 昨日より遅めに来たのもあって比較的少なかった人の中、私が食べたのはあつあつの肉うどん一玉。

『不味い』なんて嘘でも言える訳が無い程の美味しさだった。

 両親とはうどんの種類も麺の量も別になったが、二人ともその辺りはあまり気にしない。


 少しの話をしながら食べていて、終われば食器を返却口に置き、店の出口に向かっていた。

 その時に父さんが源三さんに声をかけられ、そこから数分ほど話し合った。


 話題は「父さんは棚橋家をどうしたいのか?」というもので、主に私やこのお店の将来について話した。

 

 母さんも私の事になると早口で話していた中、私は意思について確認された事以外はほとんど聴いているだけだった。


 私の将来について訊かれた際、「先生かタレントがいい」と言ってみたところ、場にいた全員に驚かれた。

 ただ、必要なら可能な限りの支援はするつもりらしい。

 源三さんからは「お前も田島(たじま)で車の部品関連の仕事に()くのかと思った」とも言われた。


 お店の方は……とりあえず「源三さんの身に何かがあれば絶対に父さんに継いでもらう」という事は決まった。

 これに関する書類は後日作って、今の私達の家に持ってくるという。

 また、継ぐ機会に備えて、店舗経営やうどん作りについてもしっかり勉強しておくようにも伝えられた。

 この話の中では、私がお店を手伝う事になる可能性についても触れられていた。

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