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 マリーはある日いきなり、レオの妹と仲良くなったと報告してきた。

 カイルリード殿下とレオの妹の行き違いを、解決したと。


 うん。わけがわからない。

 レオは妹が無理矢理、カイルリード殿下の婚約者にされたみたいに言っていた。

 そして政略結婚でしかないから、カイルリード殿下を慕うミルレイア嬢を心配していたけれど。

 マリーに聞けば、幼なじみ同士で両想いだったみたいだ。


 なんだ、幸せな結婚になりそうじゃないか。

 いいことだけど、彼の言った事情とやらが引っかかった。




 とはいえ、マリーにとって初めての、貴族令嬢のお友達だ。

 辺境伯領関係の人間はノーカウントなので、リリアは含めない。


「仲良くなったのなら、遊びに来てもらえばいいんじゃないかな」

 そうマリーに勧めてみた。

 男性を邸に招くのは誤解されそうだけど、同性のお友達ならお招きすればいい。


「ありがとう、ジル兄! ミル様をお誘いしてみます!」

 マリーは喜んでくれた。

 翌日には早速、彼女に伝えたらしい。


 そして今日、レオの妹が来た。


 迎えた公爵家のお嬢様は、王子妃にふさわしい、とても高貴なご令嬢だ。

 それなのに、マリーととても仲良く話してくれている。

 こうやって見ると、マリーまでご令嬢らしく見えるから、不思議だ。


 レオも一緒に、妹さんを送り届けに来た。

 彼の歓待はボクがするからと、マリーたちは部屋へ行く。




「寝室にお料理やお菓子を持ち込むのです!」

 なんだかマリーが変な提案をしているけれど、大丈夫かな。

 レオも少し困惑した顔だ。


「君の妹は、いつもああなのか」

「あー……まあ、大体?」

 変わった提案をすることは、ままある。

 相手が嫌がれば引き下がるから、任せておいてもいいだろう。

 そう説明すると、レオもそうかと頷いた。


「カイル殿下と妹の誤解を、解いてくれたそうだな」

「ボクもよくわからないうちにね。マリーだからね」


 そう、マリーだから。もうそれで片が付く。

 レオは苦笑して、またなるほどと頷いた。


「両片想いと言われたそうだ。ミルだけでなく、カイル殿下もミルを想っているのだと」

「マリーなりに色々と観察して、そう感じたのだろうね。うちの妹、意外と色んなことに気がつくから」

 まあ、気がつかないことも多いけどね。


 カイルリード殿下との噂が収まったせいか、マリーにアプローチをする男子が出てきたらしい。

 でもマリーはまったく気づかず、スルーしているそうだ。

 リリアが近況として報告してくれた。


 レイモン侯爵家の息子は、その中にはいない。

 身体強化で本当に心を折ってしまったのか。よくやったマリー。




 今日、ミルレイア嬢は我が家に泊まるそうだ。

 お泊まり女子会だと、マリーは言っていた。

 また不思議言葉が復活しているなと感じたけれど、別にいいだろう。


 マリーとリリアは、夕食などを部屋で食べるというので、ボクは孤独に食べることになりそうだ。

 ボクが学園に通っていたときは、ずっとそうだった。

 今のこの邸は賑やかだ。


 レオは妹と侍女たちを置いて、公爵邸へ帰った。

 侍女には何かを言い含めていたので、少し心配しているみたいだ。

 何かあれば公爵家へ知らせをなんて言うから、えらく仰々しいなと思った。


 それが、王子妃に向かない理由に関する心配だとは、思ってもいなかった。

 そしてマリーが母のときのように、やらかしてしまうことも。




 翌朝はミルレイア嬢とも顔を合わせて、朝食を一緒に頂いた。

 友人の兄として愛称で呼んで欲しいと言われ、ボクもミル嬢と呼ぶことになった。


 特に違和感もなく、優雅なご令嬢にマリーが影響を受けてくれたらなと、そのときのボクは暢気に思っていた。


 問題が発覚したのは後日、公爵家から盛大な礼状が届いたときだ。


 手紙を開けようとして、ピリッと何かが走った。

 手紙に魔法がかけられている。


 魔法分析は高度な魔法だけれど、ボクは使える。

 たぶん魔力循環の恩恵だ。

 なのでその魔法を分析してみた。


 開封の条件を、限定してある魔法みたいだ。

 恐らくはマロード辺境伯家の者以外には、開封できないようにしてある。


 お泊まりのお礼状にしては厳重だなと思う。

 そのあたりで、嫌な予感がした。

 外の封筒も、表向きはお泊まりのもてなしに対してみたいに見えるけれど。


 我が家の長年の懸念が解消されたことに篤くお礼を。

 そんな言葉が書かれていた。




 嫌な予感が膨らみきって、急ぎでレオに訪ねるための先触れを出す。

 そうして公爵邸に向かえば、レオが苦笑で迎えてくれた。


「規格外の妹を持つ兄は、大変だな」

 ボクの慌てた様子に苦笑していたけれど、彼自身の機嫌はいい。とてもいい。

 だからこそ嫌な予感が消えない。


「長年の懸念って、何だろうか」

「うちの妹は病を抱えていてね」


 膝をついた。

 マリー、やっちゃったのか。

 母のときみたいなことを、やってしまったのか。


「身体が弱く、王子妃になっても子を望めないだろうと思っていた妹が、健康になって戻ってきた」

 やっちゃったかーっ!




「手紙はすべて読んだか?」

「一応、読んだけど」

 膝をつくボクに、レオが手を貸して椅子に座らせてくれる。


 長年の我が家の懸念が解消した。

 何かがあれば必ずご恩返しをいたします。

 秘密は固く守る。

 そんなご大層な言葉が書き連ねてあったのは、読んだ。


「書いてあったとおり、父は全面的にマロード辺境伯家を守ると決めた。恩があるからと。良かったな」

 レオは口元に笑みを浮かべている。

「君とは学園のクラスメイトで、大規模魔獣発生に対する国の対応の裏を、知りたがっていたと報告してある。マロード辺境伯家を守りたがっていることも」


 ボクたちの事情を知り、マリーのしたことで全面的に味方になってくれるそうだ。

 そこはありがたいけれど、頼むよマリー。何やってんのー!


「秘密にする。絶対にだ。安心しろ」

 思わず泣いたボクに、レオが肩を叩いた。


 もう、今だってバレたら神殿に連れて行かれる可能性があるんだよ!

 気をつけてよマリー!

 お兄様に、報告と連絡と相談は密にしてくれないと困るんだよ!




「父の手配した調査でわかったことを、話してもいいだろうか」

 こちらの心中を置いて、レオは話を始める。

「君の叔父は遺体で見つかった。かなり残酷な殺され方をしたようだ」


 叔父の死亡。

 公爵家ならではの情報網で、全力で調べてくれた結果らしい。

 遺体は無残な状態で、むごい殺され方をしたのだろうという話だった。


 恐らくはテレンス公爵家が、用済みになった叔父を殺したのだろうと。

 叔父から持ちかけた話でテレンス公爵家は窮地に立たされている。

 その可能性は非常に高い。


 父と祖父が叔父の話をしていたとき、昔は可愛い弟であり息子であったというような言葉が出ていた。

 これは辺境に報告するのが、気が重い内容だな。

 手紙の報告は、まず事実を淡々と記せばいいから、叔父の死だけを報告すればいいだろうけれど。


 これで永遠に、叔父の口から真相は聞けなくなった。




 レオと話を終え、王都辺境伯邸に帰ったボクは、マリーを待ち構え、問い詰めた。

 やはり母にしたように、魔力を流して、滞る場所に魔力を当て続けたらしい。

 そうしてミル嬢を癒やしてしまった。


「頼むよ。マリーに何かあったら、ボクは……」

 思わず泣き出したら、マリーが慌てた。


 ついうっかり、なんてマリーは言っているけれど。

 身体が悪いなら治したかったとか、言うけれど。


 なんともマリーらしいことだ。

 マリーのそういった考え方は、特別な英知のある存在らしくはない。

 勢いで色々とやらかしてしまう、可愛い妹だ。


 でもボクの妹は、昔からこうだった。

 こういう子だから、一途にみんなを救えたんだ。




 みんなで頑張って生き残ったんだなんて、マリーは言うけれど。

 ボクが手伝ったおかげだとか、家族が強いからとか、色々と言うけれど。

 その中心にあったのは、全部マリーだ。


 マリーに何かあったら、皆が悲しむ。それはわかっていて欲しい。

 ボクが改めて言い聞かせると、神妙な顔で頷いていた。


次回更新は3月21日予定です。

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― 新着の感想 ―
報連相を喋ったマリーなら三方両得とか早起きは三文の徳とか言ってるんだろうな…! 魔力循環させて体力増強も陰陽や漢方の発想で鍼灸治療に近い気がします。察するに妹さんは生理不順で生理痛がめちゃくちゃ重いタ…
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