6 終末を駆ける少女達/過激
見ていると和風美人のお姉さんは道路脇のトラックに向けて手を伸ばす。すぐに大型車両はまるで重力が消えてしまったかのように空中にふわりと浮き上がった。
そこから残り二頭のフラムメウスの上に勢いよく落下。大虎達をまとめて一撃で仕留めた。
私と唯が呆然と眺めていると、お姉さんは長い黒髪をなびかせて上品に微笑む。
「余計な手出しをしてしまいましたか? 見たところ二人共、魔法省の魔法官で、実力もかなりのもののようですので」
「いえ、助かりました。……お姉さん、すごく強い魔力ですね」
感知しつつ私が言うと、彼女は考え事をするように空を見上げた。
「うーん、少し前まではこれほどではなかったのですが。あ、私の名前は恵田絢と申します」
恵田さんと私達はお互いに簡単な自己紹介をし合った。
どこかのラウンジのママかと思ったら、彼女は私達より一歳上なだけの女子高生だった。上空にワープゲートが出現して以来、ずっと家族と一緒に隠れて生活していたらしい。
家族の中で魔獣に通用する魔法が使えるのは彼女ただ一人。そこで、自ら進んで食料などの物資を確保する危険な役目を担ってきた。けれど昨日、いつものように物資を入手して隠れ家に戻ってみると家族は全員魔獣に……。
「私が必死に守ろうとしてきたものは全て奪われました。もう私も覚悟を決めましたので、最後に一矢報いてやろうとこうして魔獣が集まっている場所に出向いてきたのです。ちなみに、この着物は母が大切にしていたものですので共に復讐に赴こうかと」
と恵田さんは自身の衣装に目を落とした。
彼女の魔力から感じる尋常じゃない力強さの理由が分かったよ。魔力は精神の状態に結構左右されるそうで、怒りや決意などによって一時的に大きく高まると聞いたことがある。
私も奏山さん達のことがあってたぶん似た状態なんだ。だから、恵田さんの気持ちもすごくよく分かる。
「一緒に魔獣達に復讐しましょう!」
私が恵田さんの手を握ってこう言うと、唯は対照的に落ち着いた様子で。
「魔力が高まっているにしても、元の地力がないとここまでにはなりませんね。……つくづく、まだまだ未発掘の力があったのだと痛感させられるわ」
そう、一般人の中にも戦闘魔法に目覚めながらその力をひた隠しにして生きている人がかなりの数でいる。強制はできるはずもないけど、もしもっと人類の力を結集できていたら今みたいにはなってなかったのかな。
いや、まだ間に合うかも!
「恵田さん! 私達と一緒に諸悪の根源を叩きにいきませんか!」
私は、私達が新宿に向かっている理由を恵田さんに話した。
事情を理解した彼女はフフッと微笑む。
「実に魅力的なお誘いですが、そうもいかないようです」
彼女が視線を向けた先から、十数頭のリッペルが群れをなして走ってくるのが見えた。さらにその後ろから他の種類の魔獣達も続々とやって来る。
これを見て取った唯が手の上に雷を作った。
「やっぱりあれだけの魔力を使うとこうなるわよね……。ここは皆で力を合わせましょ」
「それではこの場所に釘付けにされかねませんし、私が引き受けますよ。お二人は諸悪の根源とやらを(いればの話ですが)叩きにいってください」
と恵田さんは道路の中央まで歩いていき、迫りくる魔獣の大群に向き直った。
うーん、甘えちゃっていいんだろうか。魔獣は本当に続々と集まってきてるし、いくら彼女でも一人じゃ危険だと思うんだけど。
私の表情を見て恵田さんは微笑みを返してきた。
「ご心配には及びません。私の魔法で動かせるのは物体だけですが、この着物を操作すれば私自身が高速で飛べます。適当に魔獣を片付けたらすぐに離脱しますから」
「そうですか、じゃあ……、あ、だったらせめて私の魔法を使ってください」
両の眼で恵田さんの姿をしっかりと捉えた私は、彼女と魔力を接続させる。
……あれ、私達の魔力って結構相性がいいかも?
これは効果が期待できる! よし、最大の〈強化レベル5〉発動!
魔力が強化されると恵田さんは驚きの声を上げた。
「まあ! 咲弥さんの強化魔法とはこれほどなのですか! さすがS級……、ふふ、この魔力ならやりたい放題ですね」
彼女が手を振り上げると、私達の立っている道路が小刻みに震動。アスファルトが剥がれ出し、いくつもの石つぶてとなって空中に浮かぶ。
それらは機銃掃射の弾丸のように魔獣の群れに向かって飛んでいった。群れの前方を走っていたリッペル達十数頭がことごとく塵に変わる。
……おお、すごい、徹甲弾すらノーダメージの魔獣達がアスファルトの石つぶてで次々に。
恵田さんは喜々とした表情で銃撃を続けていた。
「ほほほほほ! どんどん来なさい! 魔獣共! こちらの弾はいくらでもありますよ!」
……本当にやりたい放題だ。このお姉さん、やっぱりかなり過激だな。