たった一つの守りたいもの。甘くてほろ苦い想い出
あらすじ:学校では「最弱魔法使い」と呼ばれるオズワルド。しかし、ひょんなことから最強の魔法少女グリンディアの従者となり、彼女はその後、オズワルドの家に居候することに。そして今日も、オズワルドとグリンディアの運命が少しずつ交差していく――。
放課後の穏やかな日差しが降り注ぐ校庭で、オズワルドとフローラは立ち話をしていた。
グリンディアがスカーレットと会っている間、彼はフローラと過ごす事が増えていた。
「今日は私の作ったケーキを庭で一緒に食べない?」フローラが微笑んで提案した。
「わぁ♪ 良いですね♪」オズワルドの顔がぱっと明るくなる。
「じゃあ、調理室から持ってくるね♪」フローラは嬉しそうに駆け出して行った。
しばらくして、ケーキを持ったフローラが戻ってきたが、庭に差し掛かった瞬間、足を滑らせてしまった。彼女が持っていたケーキは無情にも地面へと落下し、その拍子にそばにいた男子生徒の靴を汚してしまう。
「きゃ…」フローラが小さく叫ぶと、男子生徒の一人が嫌な顔をしながら口を開いた。
「あーあ、靴が汚れちゃったよ…」とため息混じりに言うと、別の男子生徒も口を挟む。
「あー…クラスで一番魔力値の低いフローラじゃん」
気まずい沈黙が流れ、フローラが俯いたその時、オズワルドがやって来た。
彼は状況を見て、不安そうに言葉をかける。
「…な…なにが起きてるんですか?」
一人の男子生徒がオズワルドに視線を向けて、鼻で笑う。
「たしか、最弱の魔法使いのオズワルド君?」
フローラはその場を離れたくて、オズワルドの腕を引きながら促した。
「オズワルド君、行きましょ…」
だが、男子生徒たちは無視されるのが気に入らないようで、4人で二人を取り囲んだ。
「おいおい、無視するなよー」男子生徒が挑発的に笑う。
「君たちは魔力値の低い者同士で仲良くしてるの?」別の男子生徒が冷やかすように言い放つ。
オズワルドは眉をひそめ、静かに尋ねた。
「…なんのようですか?」
「お邪魔しちゃったかなー? お菓子なんか作ってないで、魔力をつける練習でもした方が良いんじゃないの?」
その言葉と同時に、男子生徒の足がフローラの落としたケーキを無遠慮に踏みつけた。ぐしゃりと音を立ててケーキがつぶれ、男子生徒は楽しげに笑い声を上げる。
「あっはははははは」
オズワルドは拳を握り締め、怒りを抑えつつ言葉を吐き出した。
「魔力値、魔力値って…アナタ達は…どうしていつもそうなんですか…?」
男子生徒は顔をしかめ、鼻で笑った。
「はぁ? この学校じゃ、魔力が低い奴なんて認められないんだよ。」
「ただ…魔力値が低いだけじゃないですか…」オズワルドは深く息をついて続けた。
「たとえ魔力値が低くても、ケーキ作りが上手い人だっているんですよ!!」
男子生徒たちはオズワルドの言葉に呆れたように顔を見合わせる。
「はぁ? 何いってんだお前?」
オズワルドは強い目で男子生徒たちを見据え、声を強めた。
「うるさい!彼女に謝れ!」
その場にいる男子生徒たちは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに嘲るように笑う。
「コイツ…!!こっちは4人だ。やっちまおうぜ!」
彼らがそう言った瞬間、フローラが震えながら叫んだ。
「やめてーーーー!」
結局、オズワルドは持ち前の脅威的な身体能力で4人の男子生徒たちをコテンパンにし、その場で彼らは伸びていた。
喧嘩の騒ぎに教師が駆けつけた時、グリンディアも現れ、現場を見て呆れながらも感心した様子で言った。
「絡んできた上級生4人を一人で返り討ちにするとは…相変わらず強いのか弱いのかわからん奴じゃのう…」
オズワルドはうつむき、肩を落とした。
「すいません…ついカッとなってしまって…」
騒ぎの後、フローラは先生に家まで送られることになり、オズワルドと十分に会話もできないまま別れることになった。
絡んできた男子生徒たちは先に手を出したこともあり、1ヶ月の停学処分を受けることになり、オズワルドも自衛とはいえ喧嘩をしたことで2日間の停学が命じられた。
自室で反省しているオズワルドを見かねて、グリンディアが励ましにやってきた。
「オズ、元気出すのじゃ」
彼女がさりげなく声をかけると、オズワルドは顔を上げた。
「グ…グリンディア様は学校に行かないんですか?」
「オズがいないとつまらないから、ワシも休む!」
オズワルドは申し訳なさそうに頭を下げた。
「もうしわけありません…妙な事になってしまって…」
「いいよ、それにワシもたまにはサボりたかったから。オズと一緒にいるよ♪」
グリンディアは微笑んで、彼を励ますようにそっと寄り添った。
2日間の停学が解け、調理室を訪れたオズワルドだったが、そこにフローラの姿はなかった。
心配になっていると、3日後の放課後、フローラがオズワルドとグリンディアのもとを訪れた。
「今回は…僕のせいで申し訳ありません…」
オズワルドが謝罪すると、フローラはふわりと微笑んだ。
「ううん♪良いの♪今回のことで両親も考え直したいって言ってくれたの♪」
「それって?」
「私…改めてパティシエの学校に行くことになったの。」
「そうですか…良かったじゃないですか!」
フローラは少し照れくさそうに、思い切って口を開いた。
「…ねぇ、それでね…オズワルド君も一緒にパティシエ学校に行かない?」
「えっ…?」
フローラは続けた。
「実はうちって結構なお金持ちで…私の従者として同行するなら費用はウチから出ると思うの。」
オズワルドは少し考え、つぶやくように答えた。
「僕は…この学校が大嫌いだから…一緒に行きたいです…」
その言葉に、グリンディアの顔が強張った。
「オズ…!?」
しかしオズワルドは、苦笑いしながら首を振った。
「でも…こんな学校でも一つだけ、大切で…守りたいものがあるから…僕は行けません…」
「オズ…」グリンディアが小さくつぶやいた。
フローラはグリンディアの方を見て、何かを悟ったように軽く笑った。
「そういうことか。あはは、振られちゃったね♪」
「そ、そんな…!」オズワルドは動揺した。
フローラは少し名残惜しそうに笑顔を浮かべて、
「君ともっと早く友達になれてたら…この学校ももう少し楽しかったかもしれないな♪」
「僕も、もっと前からアナタと知り合えていたら…」
「じゃあね、バイバイ♪ 君のこと、大好きだったよ」
そう言い残して、フローラは静かに去って行った。
フローラの後姿を見送りながら、グリンディアがオズワルドに問いかける。
「お主、あのお姉ちゃんの事結構好きだったろ?」
「そうかもしれませんね…」
「…守りたいものってワシじゃろ?」
「そうですね。僕は…グリンディア様の従者ですから」
(聞きたいのはそういう言葉じゃないんだよなー…)
グリンディアは少し不満げに心の中でつぶやいた。
翌日、オズワルドは家のリビングで新しいお菓子を用意してグリンディアに渡した。
「グリンディア様、新しいお菓子を作ってみました。試してみてください。」
「わぁ!美味しそう♪これはなんていうお菓子なの?」グリンディアが興味津々で聞く。
「シフォンケーキです♪」
その甘くて少しほろ苦いケーキのレシピは、彼女が教えてくれたものだった。




