地面から謎の巨大な黒い物体!?逃げまどう少女!?
川原から静寂を切り裂くような悲鳴が響き渡った。
「ギャーーー!なんじゃこれはーーー!」
声の主は少女のようだ。その叫びに混ざる少し年上の女性の声が、さらに事態の不穏さを煽る。
オズワルドは小さな山道を歩いていたが、その声を聞くや否や足を止めた。
「困っている人がいるなら助けないと…!」
自分の中で湧き上がる衝動に突き動かされ、心臓が高鳴る中、彼は声の方向へ駆け出した。
河原に着くと、彼の目の前には想像を絶する光景が広がっていた。地面から突き出た巨大な煙状の黒い腕が、まるで生きているかのように動き、ローブ姿の少女を掴もうとしている。
「これはいったい!?」
先ほどの悲鳴の主である少女は、その黒い腕を目の前に呆然としていた。その隣には、眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の女性が立ちすくんでいる。
「アワワワ…グリンディア様!い、一体何を呼び出したんですか!?」
「ワシだってこんなもの知らんわ!」
「危ない!」
状況を見て取ったオズワルドは反射的に叫ぶと、地面から少女を抱きかかえ、巨大な腕の攻撃をかわした。
黒い腕が地面を砕きながら迫ってくる。恐怖が全身を駆け巡る中、必死に逃げる。
「お主…一体なんじゃ!」
「こ、ここら辺の者です! あれ何ですか!?」
「知らーーん!」
互いに余裕のないやり取りを続けながら、オズワルドは足を止めることなく走った。すると、抱きかかえられている少女が唐突に言い出した。
「お主!ワシを肩車せい!」
「えええ…?この体勢から?」
「いいから早くー!」
仕方なくオズワルドは少女を肩車する体勢に移行した。しかし、肩に乗った少女は次の瞬間、体をひねって彼の視界を完全に遮った。
「ちょ、ちょっと何も見えな――」
「しゃ…しゃべるな!これでどうじゃ!」
次の瞬間、オズワルドの後頭部に軽く指が触れるような感覚がした。そして、目の前が見えないはずなのに、奇妙なことに周囲の状況が脳裏に鮮明に浮かび上がる。
「なんだこれ…見えないけど、わかる!」
「よし、そのまま逃げろ!」
少女は何やら呪文を唱え始めた。
「いくぞおおお!特大ファイヤーボールじゃあ!」
肩車されている状態で、彼女の手から巨大な火球が放たれる。背後から強烈な熱と爆音が伝わり、オズワルドは思わず叫んだ。
「うわああ!なんか焼ける匂いがするー!」
「だ…だか…ら…しゃべるな言うとるじゃろ!」
少女の魔法の攻撃が効いたのか、黒い腕の動きが一瞬鈍る。その隙をついて、遠くから眼鏡の女性が指示を飛ばした。
「あの魔法陣!あれを壊せば止まるはずです!」
「魔法陣!?それって――」
「お主、やれ!」
オズワルドは覚悟を決めた。風魔法で足の速度を高め、黒い腕を翻弄しながら魔法陣に接近する。そして勢いをつけて魔法陣の一部を思い切り蹴りつけた。
奇妙な音を立てて黒い腕が消え去ると、あたりに静寂が戻った。
オズワルドは肩車状態の少女をゆっくり地面に降ろし、大きく息をついた。
「はあ…なんなんだこれ…」
「ワシも知らんよ…ってきゃああ!」
慌てて降ろされた少女は叫びつつも、なんとか地面に着地する。
眼鏡の女性が駆け寄り、グリンディアと呼ばれた少女に尋ねた。
「グリンディア様、大丈夫ですか?それにしても、今のは一体何だったんです?」
「ワシにもわからん。ただ村への移動ゲートを作ろうとしただけなのに…」
「移動ゲート…ってなんですか?」
オズワルドは困惑した表情を浮かべたが、二人が無事であることに安堵した。
冷静さを取り戻したオズワルドは、改めて二人の女性に目を向けた。
眼鏡をかけた女性は落ち着いた物腰で、どことなく知的な雰囲気を漂わせている。
一方で、先ほど逆肩車していた少女――グリンディアと呼ばれた彼女は、驚くほどの美少女だった。