嘘か?まことか?僕が魔王の子孫って本当…?
数百年前――
地球は“魔王”と呼ばれる邪悪な存在に支配されかけていた。強大な魔族の軍勢を率いる魔王に、人類は絶望していたが、勇者たちが立ち上がり、最後の戦いに挑んだ。
「人間ごときが…我に勝てると思うな!!!」
激闘の果て、勇者たちは満身創痍の体で魔王に迫り、一人の勇者が渾身の力を込めて剣を突き立てた。魔王は倒れ、かすかに笑みを浮かべて呟いた。
「見事だ…だが、我が一族がこのまま消えると思うなよ…」
その言葉と共に、魔王は最後の魔力で魔物の卵を遠くへ飛ばし、息絶えた。
魔王は死んだが、彼の血はまだ途絶えていなかった。
現在――
長い月日が経ち、平凡な朝が始まる。
「起きなさい、オズワルド。魔法学校に遅れるわよ」と母親が声をかけた。
オズワルドはぼんやりとした意識の中でベッドから起き上がり、朝が来たことを感じていた。彼の家はパン屋を営んでおり、毎朝、母親は早起きしてパンを焼き、父親はそれを運ぶ。朝食はいつもパンだ。
キッチンに行くと、母親が焼きたてのパンを並べていた。キッチンテーブルに座ったオズワルドに向かって、母親が口を開いた。
「オズワルド。わかってるわよね?あなたは気高き魔王の子孫なのだから…」
その言葉には、期待と不安が滲んでいた。母親はオズワルドに何かを期待しているが、それは彼にとって重荷でしかなかった。
「わかってるよ、母さん…魔王の血族を絶やさないために、伴侶を見つけなさいってことでしょ?」とオズワルドは機械的に返事をした。
新聞を読んでいた父親が静かに口を開いた。
「母さん、オズワルドはまだ学生だよ。好きにさせてやりなさい」
父親の声には、オズワルドへの理解と優しさが感じられたが、母親は少しキレ気味に反論した。
「あなた!!オズワルドの将来のことに関しては、口出ししないでって言ったでしょ!?オズワルドには魔王の血族を守るという大事な使命があるのよ!」
母親の声には狂気じみた執念が感じられ、それがオズワルドにとって恐怖の対象だった。母親の期待に応えられなければ、彼はどうなってしまうのかと恐れていた。
父親は困惑しつつ、「で…ですよねー…オズワルド、頑張りなさい!」と話をそらした。オズワルドはため息をつきながら朝食を終え、魔法学校ギョウダへと急いだ。
――ギョウダは歴史ある名門校で、多くのエリート魔法使いを輩出してきた。
しかし、オズワルドにとって魔法学校は居心地の良い場所ではなかった。彼の魔力値は最低で、誰からも相手にされていなかったからだ。
「おはようございます…」
オズワルドが教室に挨拶をしても、誰も応じない。冷たい空気が教室を支配していた。
小さな声が聞こえた。「ビリケツオズワルド」
その言葉がオズワルドの胸に突き刺さった。彼は魔法学校で孤立していた。魔力値が全てのこの世界では、彼の存在は見えないもの同然だった。
オズワルドはいつも思っていた。
もし学校に友達ができて、なんでもない日々を過ごせたら、どんなに素晴らしいことだろう?友達同士でカードゲームをしたり、川で魚を釣ったり…。
でも、その夢が叶うことなんてあるのだろうか?