愛か闇か揺れる選択!?砕けた小瓶が告げる未来
夕暮れに染まる魔法学園の廊下を、エルフィールはどこか魂が抜けたような様子で歩いていた。瞳は焦点を失い、揺れる髪がほのかな夕日に照らされる。どこへ向かうともなく、ただ足を運ぶ先にいたのは、校庭で談笑するオズワルドとグリンディアだった。
彼女の頭の中には、妖艶な女性の声が響いている。甘く囁くようなその声は、心を侵す闇そのものだった。
(さあ…グリンディアの近くで小瓶を空けるの…憎いグリンディアは消え、オズワルドはアナタの元に戻る…)
エルフィールの手には、黒く輝く小瓶が握られていた。その中には、禍々しい力が詰められているのが、触れるだけで伝わる。
「私は…私は…」
エルフィールは心の中で自問自答を繰り返す。その問いかけに、声はさらに強く命じた。
(やるのよ…エルフィール…オズワルドを取り戻すの…)
「私は…そんなことは…しない…!」
エルフィールは、手にしていた小瓶を思い切り地面に叩きつけた。瓶が割れる音とともに、黒い煙が吹き出す。しかし、その煙は空中で一瞬だけ渦巻くと、何事もなかったかのように跡形もなく消えていった。
(な…なんてことをするの!?エルフィール!アナタはオズワルドが好きだったんでしょう!?)
エルフィールの耳元で声が叫ぶ。だが彼女は毅然とした表情で答えた。
「私は…オズワルドがこの学校で孤立していても、助けてあげなかった…卑怯にも、彼を冷ややかな目で見ている素振りをしていたの…。怖かったのよ、自分が標的になるのが…」
彼女はぎゅっと拳を握り、涙を浮かべながら続けた。
「だから私は彼を好きになる資格なんかないの…。ごめんね、オズワルド…。もっとあなたを大事にできていたら…勇気を出せていたら…でも、せめて…あなたの幸せを祈ることにするわ…」
その言葉に応じるように、不気味な女性の声が次第に穏やかになっていく。
(これが…人間の愛…。なんて美しいものなの…。)
その瞬間、エルフィールを覆っていた闇の因果が霧散し、謎の声の主――美しいが禍々しい気配を纏う美女の姿が一瞬現れて、闇へと消えていった。
エルフィールは肩で息をしながらも、ふらつく体を必死に支え立ち上がった。そして、校庭で楽しげに歩いていくオズワルドとグリンディアの背中を、遠くから静かに見つめた。
一方、その頃――。
ここは闇の世界、冥界と呼ばれる場所。永遠の闇に包まれたこの地には、不気味な古城がそびえている。その一室で、二人の男が厳かな雰囲気の中、椅子に腰掛けていた。
「戻ったわ。」
紫色の長い髪と深紅の瞳を持つ美しい女性、リリスが部屋に入るなり口を開いた。
「ごめん。失敗して小瓶を割られちゃった。」
黒髪で琥珀色の鋭い瞳を持つ男性が、低い声で応じる。
「リリス、何をしている。あの小瓶は王から賜った貴重なものだぞ。」
リリスは肩をすくめ、どこか余裕のある態度で答えた。
「大丈夫。王には私から直接お詫びをするわ。」
対して、青白い肌と重厚な黒い鎧を纏った巨漢の男が苛立ちを隠さず声を上げた。
「くだらない小細工をするからだ。俺が全てを片付けてやる。」
だが、黒髪の男は冷静に制した。
「その少女には、部分的だが王の魔力が宿っている。おいそれと勝てる相手ではない。」
「それに――」
リリスが続ける。
「王はこうも言っていたわ。少女やその周囲の者を、むやみに傷つけることは禁じると。」
「チッ…!」巨漢の男は忌々しげに舌打ちをした。
黒髪の男は静かに目を閉じ考え込む。
(全く…王め…面倒なことを…。)
やがて、部屋の中の闇が揺らぎ始めた。闇の者たちは静かに、しかし確実に新たな行動を起こすため動き出した――。




