禁断の想いが闇を呼ぶ!?失われた焼き菓子の想い出
「エルフィール…」
馬車の中で闇に浮かぶ謎の美女が微笑む。
「グリンディアさえいなくなれば、以前のようにオズワルドはアナタの手の内よ…簡単でしょう?」
エルフィールはその言葉に揺さぶられた。
「そ…そんな事…」
「簡単よ…この小瓶をグリンディアの近くで空ければ良いの…」
美女は闇から小さな小瓶を差し出した。その中には不気味な光を放つ黒い液体が揺れている。
「空けると…どうなるの…?」
「グリンディアは遠くにいってしまうわ…それでおしまいよ…」
「遠くへ…?」
その問いに対する答えを聞く前に、馬車の御者の声が響いた。
「エルフィールお嬢様。屋敷に着きました。」
ハッと我に返るエルフィール。気がつくと馬車の中に座っている。さっきの出来事はただの夢だったのか?そう思った矢先、彼女の視線は隣に置かれた小瓶に釘付けになった。
「…夢じゃない…?」
翌朝。エルフィールは重たい足取りで魔法学園に向かった。怪しい小瓶は家に置いてきた。
エルフィールは、いつものように教室の扉を開けた。その瞬間、聞き慣れた声が耳に届く。
「おはよう、エルフィール!」
オズワルドが席から振り返り、いつも通りの優しい笑顔を向けてくる。
「おはよ-…」
彼女の返事はどこか力がなく、声がかすれていた。普段なら気づかないはずの些細な変化も、オズワルドは見逃さない。
「どうしたの?なんだか元気がないみたいだね。」
エルフィールは咄嗟に笑顔を作り、首を振った。
「だ、大丈夫よ。ちょっと…寝不足なだけだから。」
そのとき、背後から元気なグリンディアの声が飛び込んでくる。
「さては徹夜して試験勉強でもしてたじゃな?」
その無邪気な指摘に、エルフィールは苦笑いを浮かべた。
(グリンディアさんだって私の友人には変わりない…あんな得体のしれない小瓶を向けるなんて出来ない…あれは帰ったら処分しよう…)
彼女の心の中で自分に言い聞かせるように思った瞬間だった。
「そ…そうだ!」
オズワルドが突然何かを思い出したように声を上げた。
「久々にエルフィールが好きだった焼き菓子でも焼いて持って来ようか?」
「えっ…本当…?ありがとう…」
その言葉にエルフィールの表情がほころぶ。しかしその次の瞬間、
「オズの作る焼き菓子美味しいよね♪また焼いて欲しいな♪」
グリンディアが無邪気に笑いながら言った。
「はいはい♪いくらでも焼いて差し上げますよ♪」
「今からスイーツ部で作ってよ!」
「まだ授業がありますよ!」
二人の軽口が教室に響き渡る。エルフィールの胸には、再び重たい感情が押し寄せてきた。
(それは…私とオズワルドとの想い出の焼き菓子じゃなかったの…?)
その時だった。
(だから言ったでしょ?エルフィール…グリンディアはアナタにとって邪魔なのよ…)
昨日の美女の声が頭に響く。
(うっ…止めて!!)
(グリンディアの近くで小瓶を空けるの。それだけでいいのよ…それでオズワルドはアナタのものよ…)
違和感を感じ恐る恐るポケットに手を入れると、家に置いてきたはずの小瓶がそこにあった。
(…どうして?確かに置いてきたはずなのに!?)
(アナタの心が小瓶を呼んだのよ…さあ、やるのよ…)
エルフィールは頭を抱えた。
放課後。彼女はフラフラと校内を歩いていた。心ここにあらずの状態で気がつくと、下校に向かうオズワルドとグリンディアが談笑している姿が目に入った。
「オズー!帰ったら焼き菓子焼いてね♪」
「はいはい♪わかってますって♪」
オズワルドがグリンディアに向かって笑顔を向ける。その光景にエルフィールの手は無意識にポケットの中の小瓶を握りしめていた。




