恋と魔法と因果の輪舞曲
闇の者に憑依されたジェリコを奇策で退けたオズワルドとグリンディアは、帰り支度を整えていた。
「ジェリコはどうじゃ? 」
オズワルドは少し疲れた様子で頷き、ジェリコを寝かせた方向を指差した。
「はい、ジェリコはベンチに置いてきました。今は普通に眠っているだけみたいですし、問題ないと思います」
グリンディアはふぅと一息つき、肩を回した。
「そうか…しかしアイツはワシのことをあんな風に思っておったとは…まったく、モテる女も辛いわい…」
オズワルドはその言葉に一瞬戸惑いながらも、無理に笑顔を作った。
「そ…そうですね…本当に…」
グリンディアはそんなオズワルドの反応を見て、小さく笑うと話題を変えた。
「それにしても、闇の者を捕らえて少しでも情報が得られたのは収穫じゃったな」
「ええ。『因果からやってくる』と言ってましたね」
と、オズワルドが付け加える。
グリンディアはその言葉を反芻するように口にした。
「そうじゃ。つまり、やつらはいつでも現れるわけじゃない。ワシに対して何らかの強烈な想いを持つ者がいないと、冥界から現世にやってこれないって事じゃろ。」
「冥界なんて場所が実在するなんて…驚きましたよ。」
と、オズワルドが感嘆の声を上げる。
「うむ。それについては後でお祖母様にも色々と聞いてみるつもりじゃ。」
「そうですね…!それが良さそうです。」
と、オズワルドも同意する。
グリンディアは満足げに微笑んだ。
「まあ、ワシの前に簡単に闇の者は現れないってことは分かった。ワシと因果とやらを持つ者なんて、そうそうおらんじゃろ。」
オズワルドは頷きつつも、心の中である人物を思い浮かべた。
(思い当たるとすれば、リシアさんだな。彼女の耳にこの話を入れておこう…)
その時、グリンディアが急に腹を押さえて子どものような声を上げた。
「ワシ、頑張ったらお腹が空いちゃった! オズ、お菓子作ってー!」
オズワルドは笑いながら肩をすくめた。
「わかりましたよ。帰ったら焼きますから」
「やったー! ワシ、チョコクッキーがいい!」
「はいはい、リクエスト了解しましたよ♪」
2人は楽しげに言葉を交わしながら、オズワルドの家へと帰っていった。
一方、ベンチで寝かされていたジェリコは、うっすら目を開けて起き上がった。
「うう…また変な夢見たな…」
彼は額を押さえながら呟き、ぼんやりと空を見上げた。
「夢を見て思ったが…俺は…何やってんだろ…?元々は魔法使いとして名を上げたいのが目標だったのに…随分と変な方向に行ってしまった…」
ジェリコは深く息を吐き、拳を握り締めた。
「これからは魔法の勉強を地道にしっかりして…普通に彼女を作ろう…」
その瞬間、ジェリコの心に絡みついていた因果は、静かに消え去っていった。
その夜。エルフィールは自室のベッドに身を沈めながら、ふと目を閉じていた。脳裏に浮かぶのは、学校での出来事だった。
(オズワルドとグリンディアさんが…学校でキスしていたなんて…)
その光景を思い出すたびに、胸が締め付けられるようだった。
(やっぱりあの2人はそういう関係だったのね…私もなんとなく分かってた…)
エルフィールは以前からオズワルドに淡い好意を抱いていた。しかし、学校での立ち位置を考えれば、自分以外の女性がオズワルドに興味を持つことなどないだろう、とどこか高を括っていた。
だが、オズワルドに大切な人ができたことを知ると、その胸中には嫉妬と後悔の念が渦巻いた。
(グリンディアさんが学校に来てから…全てが変わってしまったわ…)
その想いは次第にグリンディアへの妬みや憎悪へと形を変えていく。
突然、部屋の中に冷ややかな女性の声が響いた。
「可哀想なエルフィール…」
エルフィールは驚いて起き上がった。
「誰!?そこにいるのは誰なの!?」
次の瞬間、謎の美しい女性が背後からエルフィールを抱きしめていた。
「あなた…何者?」
エルフィールが震える声で問いかけると、その女性は微笑んだ。
「私はあなたに呼び出されてきたの…この物語の本当のヒロインはエルフィール…あなただったのよ。」
「な…なんですって…?」
その囁きは、不思議なほどにエルフィールの心に染み入っていく。
「それを後からやってきた、あの女の子が全てを変えてしまったの…」
エルフィールの瞳が揺れる。
「…っく…!」
「私が…力を貸してあげるわ…♪」
女性が優しく囁いた瞬間、エルフィールの体が不思議な力に包まれた。
「う…ああああああ…!」
その声は、深い夜の中へと吸い込まれていった…。




