闇に囚われる影と夕陽に照らされた誓い
学校が終わり、夕焼けに染まる道を一人歩いて帰る男がいた。彼の名はジェリコという。彼の足取りは重く、その表情には苦々しい思いが滲んでいた。
「くそ…オズワルドめ…」
ジェリコは小声で吐き捨てた。その視線は地面を彷徨いながらも、頭の中には鮮明な光景が浮かんでいた。
「グリンディアさんの従者を…その立場を俺と変われ…」
彼が悔しさを覚えている相手——それはクラスメイトのオズワルドだった。
かつてジェリコは、クラスで最も高い魔力値を持つことで知られており、自然とリーダー格の存在として周囲から一目置かれていた。しかし、ある日の魔法力勝負で、オズワルドに敗れてからというもの、彼の輝きは失われた。
その勝負の賭け——それは、グリンディアの従者となる資格だった。
グリンディア…伝説の魔法使いの子孫として天才の名を欲しいままにする彼女は、誰もが憧れる存在だった。ジェリコにとっても例外ではなく、彼女の隣に立ちたいという思いは、強烈な執念として彼の心を支配していた。
しかし、オズワルドとフレアの白熱した魔法力勝負を目の当たりにして以来、ジェリコは次の挑戦への一歩を踏み出す勇気を失ってしまった。その闘いの迫力に圧倒され、彼は自分の弱さを痛感していた。
「どうしたら…グリンディアさんの傍に行けるのか…」
ジェリコは一人ごとを言いつつ、家へと続く道を歩き続けた。心は重く、解決策の見えない焦燥感が彼を苛んでいた。
その時だった。道の向こうから黒いローブをまとった男が近づいてきた。
「ふひひ…ありがとうな。お前が俺を呼び出してくれたんだ。」
低く不気味な声が、ジェリコの耳に届く。彼は思わず立ち止まり、男を警戒するように睨んだ。
「誰だ、お前は…?」
「俺か?お前の願いを叶える者だよ。」
男は冷たい笑みを浮かべながら答えると、突然ジェリコに向かって手を伸ばした。その手は氷のように冷たく、ジェリコの身体をしっかりと掴んだ。
「やめろ…何をする…!」
ジェリコは必死に抵抗したが、男の力は異様に強かった。次の瞬間、男の身体が黒い霧となってジェリコの体に入り込んでくる。
「や…やめろーーーー!」
闇に包まれるような感覚と共に、ジェリコの意識は途絶えた。
目を覚ました時、ジェリコは地面に倒れていた。
「夢…?こんなところで眠ってしまったのか…?」
周囲を見渡すが、誰もいない。薄暗くなった空の下、静けさだけが支配している。ジェリコは額の汗を拭いながら立ち上がった。
「変な夢を見たな…何か喉が渇いた…ちょうど川があるし、水でも飲むか。」
彼は近くの川へと向かい、川面に顔を近づけた。その時だった。
「な…なんだ、これは…?」
水面に映る自分の顔を見て、ジェリコは驚愕した。
「俺の顔が…オズワルドになっている!?」
目の前に映るのは、自分の顔ではなく、あのオズワルドの顔だった。ジェリコは震える手で頬を触ったが、その感触は紛れもなく自分のものだ。
(これでお前はグリンディアに近づけるぞ…)
頭の中に、不気味な声が響いた。それは、先ほどの黒いローブの男の声だった。
「これで…これで俺は…へへへ…」
ジェリコは笑いながら、操られるように歩き始めた。
一方その頃、夕焼けに染まる田舎道を、オズワルドとグリンディアが歩いていた。いや、正確には歩いているのはオズワルドだけで、グリンディアは彼の腕に抱かれている。
ここはオズワルドの実家へと続く道だ。普段は並んで歩くこの道も、今日は少し違った様子を見せていた。
「こ…こんなの、ワシ恥ずかしいよ…」
グリンディアは顔を赤らめ、恥ずかしそうに小声で抗議した。彼女は今、オズワルドの腕に抱かれ、お姫様抱っこの体勢で運ばれている。
「グリンディア様、申し訳ありませんが、これも安全のためです!」
オズワルドは真剣な顔で前を見据えたまま、しっかりとグリンディアを抱きしめている。彼の足取りは力強く、まるで彼女の軽い体重を全く苦にしていないようだ。
「いつまた闇の者が狙ってくるかわかりませんし、警戒を怠ってはいけません!ですから、どうかしっかり捕まっていてください!」
「う…うん…」
そう言われてしまうと、グリンディアも反論できなかった。彼女は小さくうなずき、少しだけオズワルドの胸に身を寄せる。
(オズはいつになく強引だけど…ちょっと悪くないかも…)
頬を染めながら、グリンディアは心の中で思った。




