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最終話/第5話・CASE1:副島遥からの依頼<5>

 俺はデュークにふたつ頼みごとをした。それは俺のフラグを育成することにつながる。死神への頼みごとは、早い話寿命と交換だ。デュークは快諾した。

 頼みごとのひとつは、

・副島夫妻の居場所を教えろというもの

 もうひとつは、とっておきの秘策だ。俺のフラグ育成スピードが極端に早まるかもしれないとデュークは警告したが、俺は意に介さなかった。覚悟を決めている俺に、デュークはいつも支えてくれる。今回もそうだった。

 デューク調べでわかった。副島夫妻は京都にいた。青森はブラフだった。俺たちは京都に身を隠していた副島夫妻の元へと向かった。


 新幹線のチケットは一つ。デュークは見えていないから空席どこかに座らせるつもりだった。だが、隣に座りたいと言うもんだから、俺はもう一席分の特急券と乗車券を購入し隣同士Ⅾ・Fで座った。周りからは空席にしか見えていなだろう。俺とデュークは京都に降りた。ホームが狭い、政令都市のわりに、観光都市のわりに、どうにもこうにもコンパクトだ。デューク調べのとおり、俺たちは一路、福知山に向かった。

 大吉の替え玉は、ペナルティは受けるものの本物の遥に言われた通り「デューク」が見えるように振舞わされた。死にはしない、とでも言ったんだろう。そんな保証はどこにもないが。カネ欲しさの替え玉はある意味無敵だ。遥の替え玉も同じだ、カネだ。


 この陳腐な筋書を業界は知らないのか?真田さんは以前トップランカーにもいた殺し屋だ。俺への副島夫妻の調査書はところどころ真実、ところどころウソで書かれている。だから精査が難しい。むしろ信じ込まされる。俺をかく乱するのが、真田さんや業界の目的なのか。

 福知山から山手に向かってタクシーを走らせる。市内はにぎやかだが、一本奥に入ると田舎の佇まいがあちこちうかがえる。山手の奥に進むにつれ道が狭く険しくなる。Uターンができるギリギリまで車を走らせた。

「ココを登るのか?」

 俺はデュークに悪態をついた。

「そうよ」

 デュークは大きく頷いた。当然かのような素振りだ。デュークを見ると、登山スタイルのウェアだった。リュックまで背負ってる。シューズはゴツイ登山シューズ。俺は革靴にスーツだってのに。二時間、デュークのナビに従って山道を進む。かろうじで人一人が通れるほどの道幅に、だれが積んだのか朽ちた石段がいくつも連なる。カーブでその先が見えない。どこまで登ればいいのかわかれば、力の発揮のしようもある。ゴールがどこかわからない状態では、力の温存も難しい。

「なぁ、デュークまだか?」

「もう着いたわよ」

 デュークは素っ気なくいった。

「この山小屋か?」

「そうよ、ここに副島夫妻はいるわ。でもどうするのよ?まさか二人を“消去”するわけでもないでしょうに」

「そのまさか、かもよ」

 俺はデュークにもう一つの頼み・秘策を伝えた。デュークは、「それは、場合によっては失敗するかもしれないし、それにそんな頼みはスガルの寿命を縮める、つまりフラグの育成を早めてしまうかもしれない」と警告した。

「いいんだ。もともと、死んだような命だ」

 俺はどこかで自分の人生を諦めている、そしてどこかで自分の人生に執着している。ゴールの知らない山道を登るように、人生はどこで朽ち果てるかはわからない。だから力の出し惜しみをせずに頑張る。きっと姉ちゃんもそんな風に生きたかっただろうに、スガルは自分の生に実感が持てない代わりに、そこにあったはずの姉の生をなぞることで自分の生きる気力をつなぎ合わせてきた。


 俺は掘っ立て小屋のような山小屋のドアを蹴破った。

「あ~ぁ、そんな雑な」

 デュークは頭を抱えながら、スガルの後ろをついて歩いた。

 俺につづいてデュークが室内に入る、十畳ほどのスペースにソファーとテーブルとチェアが二脚。テーブルの上には飲みかけのコーヒー。間に合わせのような簡易キッチンには遥と大吉が、言葉を失った表情で、スガルの方に振り返った。

「副島夫妻ね、はじめまして神崎スガルです」

 はじめましてが厭味ったらしいと思ったが、多少コケにされたんだ、これくらい言ってもいいだろうと俺はデュークに目配せした。

 二人の頭の上にはフラグが立っていた。大吉は替え玉通り二つだった。遥は実物の方が少し細身だった。大吉がキッチンのナイフを二本投げつけ、その隙に遥がクナイで襲い掛かって来た。これもまた同じ、替え玉から受けた挨拶と全く同じだった。

「銃は剣より強し」

 そういうと、俺は大吉のナイフを避けながら、グロッグ19の引き金を引いた。大吉に命中した。続けざまにもう一度。クナイで襲い掛かかる遥をいなし、瞬時に引き金を引いた。九ミリ弾がマガジンに15発+チャンバーに1発、合計十六発。二人消去するのに、二発あれば充分だ。SATでも使っている扱いやすいハンドガンだ。軽い、なにより持ち運びやすい。

 二人は声も出さずに倒れ込む。フラグが立っていた。

 俺は副島夫妻をわかりやすい形で“消去”

した。そのまま馴染みの処理屋に連絡し、遺体の回収と処分を依頼した。送り先は、決めている。

「ねぇ、これでよかったの?」

 デュークが尋ねる。

「あぁ」

 俺は静かに返事をした。

「でも、それってぜんぶスガルに跳ね返るんだよ」

 俺は静かに手のひらを眺めた、無駄に二人を撃ったのかもしれない。

「だけどな、どうせ業界がかぎつけて、二人は“消去”されるだろ。二人殺し屋を仕留めるてのは、難儀だ。業界側にも死人はでる。なら、俺がやっちまうのがいいんじゃないかってな」

「そんなもんかな」

「そんなもんだよ。ギャラももらえるし」

「って、誰からもらうのよ。本物の遥さんからは貰えっこないわよ」

 処理屋がものの三十分でやって来た。手際よく血を拭き取り、遺体袋に強引に押し込んだ。

「神崎スガルさま、サインをお願いします。送り先はお聴きしたとおりで手配しています」

 処理屋が書類を手渡した。

「あぁ、申し訳ないが、で、これが報酬だ。に加えて、コレが迷惑料」

 処理屋の男はにやりと笑った。薄汚い笑い顔だが、頼もしさがある。処理屋の男は何も言わず、丸山ミートとプリントされた白いバンを走らせる。道なき道をどうやって来たのか?地元のタクシー運転手すらしらない裏道があるのか。処理屋は敵にまわしたくない。

「ねぇ、お金ってどうなるのよ。報酬。私たちの。これじゃぁ処理屋に払った分赤字だよ。交通費も」

 デュークには経理も任せている。責任感が強いのはいいことだが、何かと細かい。女房のようだ。

「報酬は、業界から頂いたよ。前金で一千万。出来高の残金はちょっと無理かもなぁ」

「どういうこと?」

「死神なのにそんなこともわかんないの?」

 俺はデュークを小馬鹿にした。デュークが俺のほっぺたを強くつねった。

「どういうことよ。説明してよ」

「だから、秘策、デュークに頼んだ秘策は」

「それは…心臓の位置が見えるようにしてってやつでしょ。確実に仕留めるために」

 デュークは俺を見上げていった。

「ちがうねぇ、確実に仕留めないようにするためだよ」

 ドンと大きな爆発音がする。簡素な山小屋のがキッチン前のすりガラスが揺れ、割れた。

な、なに?、とデュークが慌てふためく。

「処理屋、うまくやってくれたみたいだな。じゃぁ俺たちもそろそろおいとまするか」

「ねぇ、どういうことよ。説明してよ」

「あぁ、ここじゃなんだから」

 俺はデュークに目配せして、盗聴されているかもしれないと伝えた。

 下山したころにはすっかり日も暮れ、京都市街の小さな旅館で一泊することにした。

 風呂上りのデューク、死神でも風呂が好きってどういう形なんだ。他の人から見たら、透明人間がそこにいるみたいに見えるのか?俺はデュークが見えないということがないからわからない。

「あー、いいお湯だった。内風呂って最高じゃん」

「すっかり観光モードだな」

「でさぁ、さっきの話の続き。説明してよ」

 デュークが珍しく解答編を欲しがる。

「デュークにお願いしたのは、心臓の位置が見える力を俺に与えるってやつだろ」

「うん」

「俺は、あの副島夫妻を助けたかったんだよ。だから心臓を外せるように、この力が必要だったってわけ」

「心臓を外せるって、それもまたスゴイじゃん」

「殺し屋歴長いですから。標的に当てるより外す方が簡単だけどね。動脈もうっすら見えてたから、何とか避けたよ。グロッグ19は38口径、弾丸のサイズは直径9ミリ。まだ狙いやすいが、遥の身体は小さいから難儀したよ」

 デュークは神妙な面持ちで聴いている。

「じゃぁ、あの爆発音は?」

「あれは、処理屋に頼んで、車ごと崖下に落として爆破してもらった」

「じゃぁ、副島夫妻ともに死んだじゃん」

「だからぁ、二人は処理屋が道中に停めてた車に乗り換えて、脱出だ。だから、業界からは前金しかもらえん。遺体の確認ができんからな」

 東京の事務所に戻ると真田から電話がかかってきた。

「その優しさは、ときに、命取りになるわよ」

「まぁ、フラグが立ち切らなきゃ、大丈夫ですから。いざとなれば、デュークが食べてくれますから」

「それはどうかしら。あの娘、案外あなたを独り占めにしたいじゃなくて。死ねば、あの世でもっと一緒にいられるんだし」

 真田さんは電話越しにプレッシャーをかけてきた。

「でも、まぁ、うまくやっておいたから。どんぐり社長にも感謝しなさい」


感謝を強要するあたり、ハラスメントですよなんて言いたいところだが、そんなこと言えばきっと暗殺されちまう。

 副島夫妻を救ったこと、まぁバレるのが早いこと。業界を舐めちゃだめだな。これはどんぐりの情報網だけだといいが。俺は、真田さんがうまく立ち回ってくれたことに感謝して電話を切った。

「スガル―、お客さん来てるよ」

 殺し屋もヒマじゃない。次から次に、誰が誰を殺したいのか。物騒な世の中だ。俺は窓ガラスに映る自分を見た。フラグの先端が頭上に突き出し始めていた。ま、人はいずれ死ぬ。フラグ、上等。

「この案件が終わったら、デュークを温泉にでも連れて行ってやろう」

 そう思った瞬間、俺のフラグがにょきッと大きくなった。

「ちょ、ちょっと、デューーーーク!!!」


おわり

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