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第4話・CASE1:副島遥からの依頼<4>

 大吉の妻、遥は一年前に大吉に殺されている。理由は殺し屋を辞めたい“退場”を遥が申し出たから。大吉は業界の依頼を請け、躊躇なく遥を殺害。これが真田さんの話だ。


 遥は死んだはずだが、業界から派遣された替え玉の女が、遥として大吉の殺害を俺に依頼。理由は大吉が“退場”を申し出たから。大吉自身、殺して欲しいと言っている。妻への贖罪といえば陳腐だが理解しやすい。だが引っかかる。

【なぜ、大吉は見えてもいない死神デュークを見えているフリをしたのか】

 なんのメリットがあるのか?真田さんが言っていた通り「殺して欲しい」という大吉の言葉がウソだとしたら。死神が見える条件は

・俺みたいに死神にとり憑かれている

・死を覚悟したとき

 副島大吉に死神がとり憑いているとするなら、俺にも奴の死神が見えるはずだ。だが、まったく見えなかった。それは大吉も理解しているはずだ。俺に死神がとり憑いていることは、更家課長を通じて業界に広まっているはず。死神が見える条件も、真田さんや他の殺し屋を通じて解析されているはずだ。こんな儲けのネタを業界が放置しておくとは考えられない。

 ということからも、大吉には俺に死神がとりついていることは理解しているはず。かつ、

・俺みたいに死神にとり憑かれている

・死を覚悟したとき

この条件もわかっているはずだ。大吉に死神がとり憑いていないことは、俺にバレるとわかっている。ならば、大吉が死神が見えるフリをしたのは「死を覚悟した」と思わせたいから。いや、死を覚悟したならフラグが俺に見えるとわかっているはず。ならば、この線もないか。スガルは堂々巡りを繰り返した。

 デュークが横でニヤニヤして俺の思考を読み解こうとしている。

 やめろよ、とスガルは言ったがデュークはスガルの額に手を当ててさらに深部の思考を読み解く。思考読みは、信頼関係が築かれていないとできないとデュークはよく言う。

「なにかわかったのか?」

「あのさぁ、大吉ってアレも替え玉ってことはないの?」

「どういうことだ?」

「だってさぁ、あの遥さんの替え玉、アイツフラグ立ってたじゃん。あれはさぁ、末期のガンみたいなヤツだと思うんだよね。フラグの力が強かったから。いわゆる死期が近い系」

「それがどうした?」

 スガルは不愉快そうにデュークに返事をぶつけた。

「でさぁ、それって業界にカネで雇われた使い捨ての替え玉じゃくて、本当の大吉が雇ったんじゃないかな?」

 デュークはヘアアイロンでウェーブを作った髪を気にしながら続けた。

「つまりさぁ、大吉は一年前遥を殺さずに逃がした。だって愛する妻よ。別の仕事で消去した対象を遥と偽って。だって司法解剖もされないんだし、その辺はうまくやるわよ。遥の頭髪や歯、血液なんかは事前に用意したと思うけど。で、今度は大吉の番。生きている遥が自分の替え玉と大吉の替え玉を用意して、

替え玉が替え玉を殺害するように依頼させた」

「随分と飛躍した話だな」

 スガルはコーヒー豆を挽き始めた。下の「あらかわ」で飲んだ方がうまいが、出前をとるわけにもいかない。込み入った話だ。

「替え玉の大吉は、殺されちゃうんだぜ?」

「それは遥さんが替え玉の大吉に説明済みよ。フラグの種程度だから、重症を負うかもだけど死ぬことはないって」

 スガルの手が止まった。

「じゃぁ、なぜデュークが見えるフリを?」

「メッセージよ、遥さんからの」

「どういう?」

「見えていない、神崎スガルは真実が見えていないっていうメッセージ」

「そんな強引なメッセージに気づくかよ」

「あら、知らなかったんだ?」

 デュークが少し小ばかにしたように俺を見る。目が蒼く、美しい。三百歳って、年齢に拘るのは馬鹿げている、デュークを見るといつも思う。

「知らなかったってなんだよ」

「だから、死神が見えないのに見えるフリをするってのは、何倍速にもフラグを育ててしまうペナルティなのよ。知らない?え?ホント?」

「だからどういうこと?」

「替え玉の大吉は写真で見た通りの男で、フラグは見えなかった。写真からでもわかるものだから。だけど、会った替え玉の大吉はフラグの種が出てたでしょ。念のために写真データをもらったでしょ、大吉の。あの写真ファイルのプロパティの奥側調べたら、撮影したのは二週間前。二週間でフラグなしから、種の発芽にはならない。最低でも半年はかかるのよ」

「つまり、あの大吉の替え玉は、ペナルティを受けているってことか?」

「そうよ、見えないのに見えるってフリのせいで、死神の禊からペナルティを受けた。それでもあの替え玉は、カネが欲しかったのね。だから、請けた。本物の遥からの替え玉依頼を」

「真田さんから聞いた話じゃぁ、業界が大吉殺害の依頼をしたって言ってたが、アレは」

「ウソでしょうね」

「何のために?」

「そりゃぁ、スガルが替え玉を殺したら、アンタの評判ダダ下がりよ。開業して間もなくのフリーの殺し屋が、替え玉って気づかずに“消去”したなんて」

 俺は真田さんとの別れ際の会話を思い出していた。「試されてるのよ、いつでも。私たちは」と彼女は言った。


 俺はデュークにふたつ頼みごとをした。それは俺のフラグを育成することにつながる。死神への頼みごとは、早い話寿命と交換だ。デュークは快諾した。

 頼みごとのひとつは、

・副島夫妻の居場所を教えろというもの

 もうひとつは、とっておきの秘策だ。俺のフラグ育成スピードが極端に早まるかもしれないとデュークは警告したが、俺は意に介さなかった。覚悟を決めている俺に、デュークはいつも支えてくれる。今回もそうだった。

 デューク調べでわかった。副島夫妻は京都にいた。青森はブラフだった。俺たちは京都に身を隠していた副島夫妻の元へと向かった。


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