緑-2
緑は大通りに来ると全く話さなくなる。
周りの人、車、店をじーーっと、穴が開く様に見る。
何を見ているのか、誰を見ているのかも分からないが、誰かしら目があっている人がいるのだろう、たまにこちらを奇怪なものを見る様な目で見られる。
正直言ってやめてほしい。
このことを軽ーく、なんでもないように指摘してみたが、緑は困ったような、泣きそうな目でこちらをみて、癖みたいなもので何回止めようと思ってもやめられないのだ、と言った。人と一緒だと出来るだけ相手の目をみて、他は見ないように心がけているが、大通りだと、どうしても気になるらしい。その時何が気になるのか聞いてみたが、周りに何があるのか、だと誤魔化された。また、壁に突き当たる。
彼女にはそういうところがある。彼女の言葉は抽象的すぎるのだ。ふわりとした口調にそれが加わると、まるで雲だ。私は時々そこにラピュタがあるのではないか、と思う。
昔彼女はぽろっと「意味のない行動なんてないんだよ」と言った。そのあと誤魔化すようにくすくすと笑った。私はそれが何を意味するのか、わからない。ただその言葉だけが耳にかじりついている。
私たちの街は落ち着いた町だ。大通りさえ外れば道に草があり、公園があり、お寺があり、小さな緑地がある。通学路しか使わない人にとっては大通りだけが彼らの街であり、無機質で整理されたつまらない都会的な町だ。故に、緑はこの街を知らない。はず。
とん、ととんと歩いていた緑が、いきなり固まった。私も驚き固まった。緑を見ると小道の先を見て、目を爛々と光らせていた。そしてきらりと目を光らせてこちらを向く。口の端が嫌に上がっている。あっこれは、めんどくさいやつだ…
「映画は辞めてあっち行ってみない?」と言った。小道の先には小さな古いお寺があった。
幼い頃に飽きるほど行ったことのあるところだった。
「その先ははただの小さなお寺だよ。」と教えてあげた。
「知ってるよ」
「なんでやねん」
「そやけど知っとるもん。」
「なんで変な方言になっとんねん」
「君もやろ」
「緑につられたんや」
…「「あははははっ」」
2人で一頻り笑った後、緑はニヤッと笑い、
「よしっ!行こう!」
と言って駆け出した。
私はちょっと怒ったように
「私は行くとは言ってないぞー!」と小さくなった緑に怒鳴った。