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さようなら、明日の私  作者: 東雲時雨
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足場のない不安定なところが好き。例えば屋根の上に座って、足を揺らして、ぼうっと、誰も見たことがない景色を眺めて、あそこに行ってみたいって考えを巡らす。蓋を開けば既知の世界である事は幾度となく経験済みだが、いつまで経ってもこのお菓子な夢は消えない。強く頰を打つ風は何も変えてくれない。もう、二度とあの頃に戻れない。


私は机に腰掛けて窓の外をぼんやりと眺めていた。風がふわりと髪をなびかせ、視界を開く。終わりの見えぬ空の裾、細く並んだビルが地平線を狂わせ白い陽を傷つけていた。


私は何がしたいの。私は何故ここにいるの。………。


はっとした。私は教科書を胸に抱えたまま机に腰掛けていた。


今日は何をするのだっけ、と小首を傾げ、たっぷり10秒考え込み、緑と会う約束をしていたことを思い出した。今日、かえでの前であったことを思い出すと、思わず体がこわばってしまいそうで怖い。


かえでは最近巷で話題の韓流アイドルにお熱で、その中でも??という人が好きなのだそうだった。へぇ〜、そうなんだぁ、と適当に流しながら、かえでのアメリカンジェスチャーを避けていた。話が尽きそうだな、というところで燃料をくべるべく「どんな顔?見たい見たい!」とまさしく蛍光黄色というのにふさわしい声で聞いていた。休み時間はまだあと5分。中途半端な時間を潰すにはちょうどいい。人の価値観を学ぶことも立派な勉強だ。そんな打算からの行動である。実際はあんな傷ひとつない死人のような顔の何が良いのだろう、と思っていた。かえでが左ポケットから取り出したスマホの写真を見ながら、ふんふんと機械的に、正確なタイミングを見計らって頷いていた。かえでは次々と画面をスクロールしてゆき、ようやく満足したのか、ぷつり、と携帯の画面を消した。途端、笑いそびれたお雛様のような顔が、小さな画面に現れた。その顔はじっと私を見つめた後、ニマッと不気味に笑い、口を歪め、私を「ばぁーか。」と嘲笑った。


気がつけば私はかえでの携帯を掴んでいた。視界の右上から、にょきりとかえでが現れ、「どったの?」と心配そうな顔で言った。一拍置いて、私は手を離しながら「なんでもないよ〜」と笑ってみせた。神様、お願いだから、私を責めないで。次は、もっと上手く、目頭の方の筋肉も使って、笑い声も、もっと楽しそうに、笑うから。嘘笑いがいけないのはわかっているから。…社会から爪弾きにされるより、辛くても嘘笑いの方がまだ良い。


ああ、神様なぜ我らをこんなにも複雑に作ったのですか?貴方がやったのですか?……否。

答は、我らの中にある。我らがこんなに複雑なのは我らのせいだ。ああ、こんな命要らなかった。生まれてこなくちゃよかった。死にたい、死にたい。でもこんな弱い私には死ぬ勇気もないから。いや、私は心のどこかで死にたくないと、思っているのだろう。首にナイフを当てられても素直に殺せとは言えないのだろう。それが知能有し人間の定めなのだろう。

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