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現代×魔導 第一章 第三話 魔導生物事件  作者: マグネシウム・リン
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ビープ音がパソコンのディスプレイから絶え間なく流れる。イライラ。

 カナが大きく伸びをするとオフィスチェアがギシギシと鳴った。

 腕組み=頭上で。白の円環が揺れた/もうすでに肌と一体になったくらい慣れてしまった異物。

 ぼぅっと=カナは天井を眺める。

 ちょっと休憩しようか。慣れない仕事のせいで妙に頭が火照っている。髪をひとまとめにしてポニーテールに=ちょっと涼しくなった。

 コンプレックスであろう広い額/しかしあえてそれを強調。夏の日差しを反射してぴかりと光った。浅い茶髪&さりげないピアス=新人社会人として精一杯のアバンギャルドを表現している。

 狭いオフィスに1人きり。エアコンは常時フル回転=寒い。サイズ違いの大きすぎるマウンテンパーカーをだらりと着込む。でかでかと常盤興業のエンブレムが飾ってあるので、ニシのように大っぴらに屋外で着ようとも思えず/オフィス専用。

 窓の外からは工事の重機の動く気配がする。どれも無人の魔導機械=静かだが魔導セルの存在ははっきり分かった。

 ビープ音に椅子の軋む音。時計の針の音も聞こえてきそうだった。

「カナ、いるか?」

 オフィスの入口に思わぬ姿=ニシ。

 間抜けな顔を見られたかしら。

 カナは取り繕ってインテリな冷たい顔を作った。

「あれ、今日出勤だったけ? どうしたの?」

「暇だから、遊びに来た。」

「暇? ずいぶん、お気楽なのね」

「あ、カナは忙しかったか? それなら出直すけど」

「別に」

 ニシ=いぶかしげに、

「いや、その眉の動きは、かなり悩んでるときの動きだ」

「なっ!」

 咄嗟(とっさ)に眉とやや広いおでこを両手で隠す。

「リンが言ってた。顔に出やすいタイプだからかわいいって」

 かわいい=条件反射したくなったが、リンの言葉の引用だと自分に言い聞かせる/顔が赤く火照ってないか不安になる。

「ちょっとね。ほんのちょっとよ」

「仕事がないか、尋ねようと思ったんだ。たとえば、出勤のシフトを増やすとか」

「んん? そーゆーの、私は全然構わないけど、すぐには無理よ。総務とかちびっこ隊長とも相談しないと」

 いや、あのちびっこ隊長=リンなら二つ返事で了承するか。

 カナ=いいたい言葉というべき言葉を0.1秒で熟考/判断/結論。

「でも、あなた、忙しいんでしょ」カナの感情を隠すセリフ「常磐(うち)に来るとき以外は、家のこととか、あと何だっけ。怪異の駆除? してるんでしょ」

「家の方はだいぶ楽になったし、怪異だって、ここ1年でどんどん減ってる。もちろん、駆除の報奨も毎月減ってる」

「ふーん、そう、大変ね。総務に伝えておくわ」

 もっと多くニシ会える=歓喜/心拍が早くなる/聞かれないか心配。表情に出ぬよう口角を抑えつつポストイットに走り書き=“ニシ、シフト増、最優先事項”赤の二重丸付き。

「で、カナは何を悩んでいるんだ」

「ちょ、見ないでよ。部外者は閲覧禁止なの」

「いいじゃないか。一応、俺も常磐で働いてる」

 ずいっとニシが体を寄せてくる=すぐとなりでパソコンのディスプレイを覗いている。

 息が詰まっていることに気づいた/呼吸をしよう/ニシの香りがするのだろうか。男の(にお)い=くさそう。でも好奇心は抑えきれず。

 呼吸/緊張する=だが、無臭だった。

「新機軸の魔導機関による付術(エンチャント)実験? 外で工事してたのは、それか」

「ええ。新型の魔導機関を地下の研究室に設置するためのね」

「じゃあ、ここで魔導セルを充填……というか、効果の薄れた付術(エンチャント)を再付与できるのか」

「ううん、魔導セルだけじゃないわ。強化外骨格(APS)の魔導障壁を強化したり、潰瘍の抑制フィールドも、これ1台でコントロールできるようになるの。あるいは、川崎市全体の電力もまかなえるくらいの発電モジュールも動かすことができる」

「ほう、すごいじゃん。で何を悩んでるんだ」

「だーかーらー、悩んでないって。付術(エンチャント)の魔導陣の再設定をしてるの。ほら、川崎ってやたら龍脈が多いし、ここは潰瘍の目の前だし。そのシュミレーションをしてたの」

「このビープ音は?」

「ちょっとだけエラーが出たの」

「ふうん」

 にわかに温かいマナの流れを感じる/自分のじゃない=ニシのだ。こんなに心地よいなんて。ニシの背中に手を伸ばしかけた自分を自重した。

「これでいいんじゃないか」

 ニシの手のひらの上に、キラキラとエメラルド色に輝く魔導陣があった。ゆっくりと自転をしている。ディスプレイ上に、自分が設定した魔導陣と、一見すると同じだった。

「魔導セルの魔導陣は、何度か分解したことがある。どれもこれも、形は違っていても同じ人が作ってるんだな、って思った」

「そんなの、分かるの?」

 常磐(うち)の知的財産を侵害している点は、今は水に流してあげた。

「パターンがあるんだ、どれも。特徴が色がかって見えないか? この、カナが設定した魔導陣はここと、それとここを変えるといい」

 ニシはパソコンのキーボードを魔導で操って押していく。たちまち魔導陣の設定が変わり、新たな魔導陣がテストプログラムに組み込まれた。

 まもなく、聞いたことのないクリアな効果音と緑の文字=succeed が出てきた。

「スクセード……」

「サクシード、だよ。英語が読めないのか?」

「よ、読めるわよ! ちょっと疲れてただけよ」

「へぇ」

 ニシ/すぐ近くで微笑んだ=ドキドキ。ぜんぜん嫌な気がしない。むしろ、もっと見ていたい。

 しかし希望虚しく、ニシはすぐにその場を離れると、机を挟んでどかっと、パイプ椅子に座った。

「ふだん、魔導陣を使ってないとそれがマナの流れを司るって認識でいないからな。しょうがないさ。カナは、あれだろ。かっこいい呪文。フラッシュ、とか」

「あれは! ……子どものとき、それでマナが動いたと思ったから、変えられないのよ」

 恥ずかしい/顔が熱い/赤くなってないか不安。

「分かってるよ。その分、強いだろ。カナのレーザー光線」

「むう、あれは光の神の具現化で───まあいいわ。再設定してくれてありがと」

「カナはリーダーなんだから、人をうまく使わないと。全部1人でやっちゃダメだ。言ってくれたら何でもやるからさ」

 ときどきイジるのに、どうして急にこんなに優しくなるのか。ずるい。もしかして、私に好意を抱いている/男の子は好きな子をいじめるというやつ。

「ありがと。やさしいのね」

 今は、正直になるべきか。

「カナの仕事が早く終われば、俺への仕事も早く回ってくると思って」

 いや、やめよう。撤回撤/憧れの人物=拝金主義のクソ魔導士。

「今の所、ないわね。お金が欲しいって、子どもたちのためでしょ」

「まあな。子どもの服って高いんだよ、意外と。すぐ成長するし、お古は嫌だって言うし。ほら、人が減ったせいで古着が増えただろ。それに今年は海にも行きたいって、みんな毎日言ってる。今週末から学校が夏休みなんだよな。今年こそは、海に行けるよう頑張りたいし」

「もう夏休みの季節なのね。ぜーんぜん、仕事ばかりで気づかなかったわ。でも、みんなで海に行くなんて楽しそうね」

「一緒に住み始めた頃はみんな一言も話さなかったんだ。でも今じゃ、ずっと誰かが話してる」

 なんだろう、この人はきっと根っからのいい人なんだろう。誰かのために身をにする事をいとわない。むしろそれを人生の責務にしてる感じ。ずっとついていくなら、こんな人がいい。でも、彼の瞳に私は映ってない。でも/まだ大丈夫。子どもたちがすっかり手を離れたら、機会はまだある。

「明日、出勤だったわよね」

「ん? ああ。潰瘍の監視ポストの点検交換だったか。第2小隊と」

「実は大きい仕事があるから、期待しててね」

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