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現代×魔導 第一章 第三話 魔導生物事件  作者: マグネシウム・リン
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「危ない!」しんがり(殿)を務めていたカナ=指が印を切った。「フラッシュ!」

 単純明快な呪文/恐ろしく効果のある魔導。本気を出せばD型怪異の魔導障壁を遠隔から打ち抜ける魔導のレーザー光線。

 薄暗い地下通路を一瞬、真昼のような光が照らした。

 床に真っ黒に焦げた肉塊×4。じゅうじゅうと音を立てている/しかし臭いは最悪。

「久しぶりに呪文を聞いた。フラッシュ」

「もう、笑わないで!」

 カナ=猛然とポニーテールを振る。左腕の白輪=高位の魔導士を監視するGPS装置が揺れた。

 その横で=会長はニコニコして眺めていた。孫たちを微笑みながら見守る祖父のポジション/見た目の上では大きな歳の差を感じない。

「どうしてイカだと思いますか」

 会長は念動力でイカのような死骸をぶらぶらと浮かべて見せた。

「実はIQ300の天才イカだった、とかじゃないのか」ニシ=皮肉。

「ククク、君は賢いうえにユーモアもある」

「そりゃどうも」

「ただし洞察力が足りない」

「なっ!」

 その後ろ=カナもしたり顔だった。“人の好意に全く気付かない鈍感守銭奴”

「イカの生命の根幹たるセントラルドグマは、他の生命体より複雑です。DNAを中心とするその働きは、どのような環境でも生き抜く魂の本能が強くあります。ゆえに魔導機関のマナ抽出ユニットとして選ばれたのでしょう」

「いや、言っている意味がわからない。日本語で話してくれないか」

「マナへの感応力がある、ということです」

「そんなこと、わかっている。問題はどうやってイカがマナを──」

 そうだ=気づき。人為的に培養した脳もどうやってマナへの感応力を獲得しているのか。

 問題は、イカの魂だかDNAだからマナを抽出できるかどうかじゃない。マナへの感応力があるモノとないモノの違いということになる。

「──マナとは、いったい何なんだ?」

「はて、自分も計りかねますね。それと同じ問を密教の魔導士たちは皆問い続けてきた。まさに天理の根源。自分なりにその仮説はありますが、召喚の魔導士、君自身がたどり着くべき答えですよ」

 もっともらしい理由で避けられる/いらだたしい。

「まあまあ、ふたりとも、落ち着いて。とりあえず、今後の対策を考えましょう」

「そうですね。まだ合衆国代表はまだ帰っていません。いろいろと事情を聴くことにしましょう」

 ふわり=会長の体が浮かんだ。

「自分はこのまま会談の会場に戻ります。あいにく、ふたりを連れて浮かびながら壁や床を通り抜けるのは、うまくできるかどうか自信がないんです。この通路を道なりに進めば上階へ続く階段がありますから。あ、死骸はそのままに。あとで本社の研究班が回収に来ます」

 では=気さくな挨拶を残して、幽霊のように天井を透過して消えた。

 残されたふたり=ニシとカナは顔を見合わせた。

「なんというか」

「つかみどころのない人だね。さ、私たちも戻らなきゃ。ここ、スマホの電波が入らないから。きっとちびっこ隊長や所長から連絡が入っていることだと思うし」

 狭い通路を進む。電力が回復したようで、照明も緊急を知らせる赤から白いLEDライトに切り替わっている。不気味さは消え、単なる粗雑な地下通路だった。

「私、ニシを見ててひやひやしてたんだからね」

「ん、ああ、ごめん」

「本当にわかっているのかしら。会長は、常盤の会長なのよ。そして最強の魔導士でもある。逆鱗に触れたら跡形もなく消されちゃうかもなんだから」

「それは、カナの感想だろ」

「あら、魔導災害の原因を会長や常盤に被せるのも、ニシの感想でしょ」

「ああ。すまん」=ごもっとも。

 キリッと眉を結んで口をとがらせている=そうとう溜まっていた様子。

「私、正直いえば、わからないの。常盤がしようとしていることは」

「よくCMで言ってるじゃないか。『世界に光を灯します 常盤興業』。利益を求めず恩恵をもたらす、って。」

 声音(こわね)も真似てみた。カナがちょっと笑ってくれた気がする。

「そうね。それは事実よ。魔導工学のおかげで、たった20年で100年分は技術が進歩したの。魔導が科学のボトルネックを解消してくれた。きっと近い将来、誰しもがあたり前に豊かな生活を享受できる。常盤の陰謀だとか会長の魂胆とか、そこまではわかんない。でも実際に常盤は世界に貢献しているし、私も、魔導工学の発展に貢献したいの」

 キラキラと=カナは誇らしげに語った。普段の雑用に追われて目の下にクマを浮かべているというのに。

「俺なんかより、ずっと立派だ。常盤は、金払いがいい仕事先くらいにしか思っちゃいないからな」

 その時──目の前でポニーテールが揺れた/カナが勢いよく振り返った。

「そんなことない!」

「そりゃどうも」

「確かにお金にがめついし、やる気なさそうだし、定時前に帰ろうとするし」

「それが俺の職務評価か」

「でもね!」ニシの袖をつまんだ。「そんなことないよ。立派だよ。ニシは」

 カナ=ぎゅっと眉を結んだまま。おでこがきらりと光る。

 しかし/まさか、こんなかわいい顔をするんだっけか。

「あー、その、なんだ。さっさとこんな陰気なところからおさらばしよう。みんなが待っている」

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