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現代×魔導 第一章 第三話 魔導生物事件  作者: マグネシウム・リン
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●登場人物●

ニシ:23歳 (最高位)の魔導士。常盤興業の契約社員。天賦は召喚魔導。付術(エンチャント)や魔導陣を駆使した魔導が得意。もっぱら近接戦闘マニア。魔導の発動キーは『高速詠唱』孤児5人と一緒に暮らしている。出身は浜松。両親は健在だが不仲。


カナ:24歳 ニシより年上だが学年は同じ。(最高位)の魔導士。常盤興業の社員。旧東京支部 技術部主任。休日は魔導工学専攻の大学院生。天賦は光の魔導。もっぱら遠距離戦闘マニア。大分出身。神社の養子。


リン:元陸自の常盤興業の社員。詳細な経歴は不明。旧東京支部 保安部 隊長。強化外骨格(APS)を用いた戦闘のエキスパート。見た目は中学生だが2■歳。メインアームはMk.IV(マークフォー)ライフル。左目を覆うような左右非対称(アシメ)の赤い髪がトレードマーク。


リンの部下

ケン:元陸自の常盤興業の社員。リンとは陸自の同期。保安隊の副隊長。

ジュン:元SATのの常盤興業の社員。ケンとツーマンセルを組む事が多い。

テツ:元某国外人部隊の常盤興業の社員。対人戦闘の経験が多い。

ハシ:元陸自の常盤興業の社員。歩くウィキペディア。

ヒロ:元神奈川県警巡査の常盤興業の社員。


カグツチ:ニシが召喚する高次元思念体。自称・神。見た目は身長2mの湘南男。テレビを見るのが好き。


サナ:記憶喪失の少女。たぶん中学生。(最高位)の魔導士。魔法の杖を自作し魔導を練習している。


ルイ:サナの同級生の中学1年生。つややかな黒髪ツインテールがトレードマークのスポーツ少女。


ツカサ:サナの同級生の中学1年生。おとなしい見た目だがBLについては熱い想いがある。


モモ:小学6年生。家族の中では最年長のお母さん役。5年前の潰瘍発生の際、ニシに助けられた。好きなアニメは『Magical★Girl』


ニシの預かっている孤児:ハナ(8歳)、カズキ(8歳)、ユメ(9歳)、ヨシコ(10歳)。5年前の魔導災害で家族を失う。全員、魔導士の素質がある。


会長:常磐興業の会長。(最高位)の魔導士。密教の元メンバー。冷戦終結前にエネルギー会社の常磐を立ち上げた。


カリナ:ネットメディア『マジシャンズ.com』の記者。ニシに興味があるようで……。


●用語●

マナ:実体物と対になるエネルギー。一般的には反物質と認知されている。古代と比較しその総量は少なくなってきたと言われている。


魔導:マナを使った神秘の技。ごく限られた者だけが扱えるが、近代までにほとんど衰退してしまっている。魔導士はマナへの感応力ごとに、緑ー青ー黄ー橙ー白と分けられ住基ネットに登録される。特に(最高位)は犯罪防止のためGPSデバイスの着用が義務付けられている。


常磐興業:冷戦終結直前にできたエネルギー系ベンチャー企業。電力を無尽蔵に取り出せる「魔導セル」や機械的にマナを取り出せる「魔導機関」が主力商品。冷戦終結後、エネルギー革命をもたらした。第3次大戦後は魔導を駆使した放射能除去や都市建設、怪異掃討ための私設部隊も保有する年商5000兆円のコングロマリットに成長した。


潰瘍(かいよう ):5年前発生した原因不明の魔導災害。半径数km~100kmの不可侵領域。その中では魂が溶け出してしまう。さらに危険な怪異も徘徊している。陸上、海上あわせて10箇所で発生。現在は拡大していない模様。


魔導災害:潰瘍発生と、同時に出没するようになった怪異による被害の総称。5年間で1億人以上が犠牲になった。


強化外骨格(APS)兵士の身体能力を補うパワードスーツ。魔導セルにより飛躍的な進歩を遂げた。第3次大戦直前では試験評価段階だったが、怪異との戦闘では基本的な装備となる。


魔導セル:拳ほどの電力発生装置。車から船までありとあらゆるエネルギー源として普及している。


魔導機関:人工的にマナを抽出する装置。電気のみならず水や肥料などを無限に生成することができる。魔導機関の構造は常盤興業の最優先の秘匿事項。


川崎市:常盤興業の関連施設が立ち並ぶことで発展した大都市。新東京に次ぐ3000万人都市。


新横浜港:魔導災害時に謎の爆発で横浜に巨大クレーターが残された。その跡地を利用した国際商業港。多くの施設が常磐の管理下にある。


新東京:伊豆・真鶴岬沖に建設されたメガフロート都市。魔導機関を備え空中に浮いている。政治、行政、金融の本拠地となり世界中から移民を受け入れ続けている。人口は約3500万人。


合衆国:北米3カ国が合併した超大国。国内に2箇所の潰瘍を抱え、カリフォルニア潰瘍は世界最大、最悪の被害を出した。


第3次世界大戦:潰瘍の発生と同時発生した。30分で終結したものの世界各地に多大な被害を残した。


相模湾上陸未遂事件:5年前の魔導災害と第3次大戦の際の、相模湾で陸自強化外骨格(APS)教導隊と米第7艦隊の海兵部隊による戦闘。

 

 挿絵(By みてみん)ひゅうひゅうと風が巻き起こる=服や髪が舞う。左腕に通された白の円環/最高位の魔導士の犯罪を抑止するGPSデバイスがからからと揺れる。

 最高位の魔導士=ニシは、常磐で支給されたカーゴパンツにTシャツという出で立ち。最も動きやすく、洗濯は経費でやってもらえる。頭にはヘッドバンドとウェアラブルカメラ=唯一の不快な点。

 ニシは民家の屋根に着地/跳躍=軽量セメントの屋根瓦を壊さないよう反作用まで魔導で操作する。

 たちまち体が空を舞い、アパートの平らな屋上に着地した。

 高速詠唱。声なき声を唱えた。魔導探知=周囲1kmの魔導を帯びる動体を検知する。

「そこか」 

 脳裏に浮かぶ感覚/視界に浮かび上がるモヤ=標的。

 高く跳躍=前方向に。ぐんぐんと地面が迫る。再び屋根に着地。彼我の距離は跳躍1回分くらい。

 しかし標的=細いシルエットのA型怪異もニシの動きに気づいたように、すばしっこい動きで次から次へと屋根伝いに移動していく。

 ニシ=飛んだ。1つの跳躍で隣の家に移る。弧を描いて逃げるA型怪異を最短距離で追い詰める。

 武器の召喚魔導と投擲という手段もある。しかし的を外して屋根に深々と穴を開けてしまってはこの仕事は赤字。

 高速詠唱。声なき声を唱えた。右手に片刃の短刀を逆手に持って怪異に追いすがる。

 6本足の怪異。かつて子供の時、これに似た生き物の死骸を道路で見たことがある。たしか、イタチと父は言っていた。

 怪異は次の屋根へ飛ぼうとする/そのすぐ背後にニシがいた。逆手に持った短剣で空中を掻いた。空気がゆらぎ、怪異を両断した。

 ニシ=屋根の上で膝立ちのまま。

「おかしいな。2匹いたはずなんだが」

 魔導探知はまだ効いている。1匹を切った/たしかにマナの感覚は弱まった。が、まだ気を許すには早いと、直感が知らせていた。

 ふと、横を見た。眼前数センチに、銛のように変形した6本足の怪異がぴたりと静止していた。

「ここで気を抜くとは、まだまだだな」

「そこにいると分かっていたから、あえてだよ」

「ほう、我に背中を預けていた、と」

「そういうつもりじゃなかったけど。というかどこで覚えたんだよ、そんな言葉。どうせドラマだろ。ここ最近、ずっとテレビを見てばっかりだったろ」

「うむ。よいものだぞ。最近のお気に入りは『ごくせん』なのだが、『ごくせん』を見るよう、勧めたではないか」

 ニシ=ため息。短刀の召喚を解いた。それと同時にアロハに身を包む金髪の大男はA型怪異を片手でねじ切って、消失させた。

「俺は、昔の女優のほうが好きだったんだ。リメイクのは微妙だ」

「微妙。ふむ。面白い言葉だ。童たちも言っていた言葉だ」

「子どもたちには、使わないよう言っておいてくれよ。あまりいい言葉じゃない」

 大男=カグツチは、その風体に似合わず真面目に眉を細めた。

「覚えておこう」

 軽い跳躍=ニシとカグツチは住宅街の細い道に飛び降りた。魔導で羽のようにゆっくりと着地した。

「松井さんに連絡しなきゃ」

 スマートフォンを取り出し、通話履歴からリダイレクトする/同時に魔導でヘッドバンドからウェアラブルカメラを取り外す。1TBの記憶容量が半分ほど埋まっている/電池は魔導セルのため半永久的に使える。

 呼び出しのコール音が5回ほど流れたのと同じくらいに、白い軽バンが電動モーター音を静かに鳴らして現れた。魔導セル特有のピリピリとした感覚を覚えた=もう慣れて何とも思わない。

 運転席=窓の下に大きく「川崎市北区区役所」とデカデカと安っぽいデカールが貼ってある/無駄なことにはお金を使いません=清貧を体で表したかのような公僕(こうぼく)(かがみ)

「お疲れさまですぅ」

 ワイシャツに作業着/場違いなほど腰が低い=鳥獣対策課の松井さんがニコニコな微笑みを携えて運転席から降りた。何を考えているか、掴みどころのない公務員だった。

「よく、ここがわかりましたね」

「ええ。屋根の上をぴょーんぴょーんと飛ぶので、わかりやすかったですぅ」

 となると、スマホで動画を撮られた可能性もある=夜ぐらいにネットで出回る予感。嫌だなぁ。

「今回の怪異は、やたらあちこち飛び回るので。見つけるのに1時間もかかりましたよ」

 松井さんにウェアラブルカメラ=怪異を倒した証明のビデオを渡す。それと引き換えに領収書を差し出した。

「あれ、データを確認しないんですか」

「ニシさん、いつもちゃんと仕事してらっしゃるので、大丈夫ですよ」

 領収書=怪異の駆除依頼をこなして、市から報奨金がもらえる。松井さんからボールペンも受け取り、ニシは名前を記入しようとした。

「6000円? 2匹ですよ」

「あー、その、実はですねぇ。先月から駆除の報奨金額が改定されて、3500円から500円、減額されたんです。市報にも載ってたんですけどねぇ、一応」

 松井さん=なおもニコニコを崩さない。ペン先は一瞬ためらったが、ニシは名前を書いて松井さんに返した。ここで文句を言ったところで何も変わらない。

「では、お疲れさまでしたぁ。また怪異が出たら、いの一番で連絡させていただくのでよろしくおねがいします」

 判を押したような挨拶とお辞儀/長年、公務に携わっている風な男。魔導セルのピリピリとした感覚を残して軽バンは走り去っていった。

「不満だったのか?」

 カグツチは、ニシの手に握られた領収書を上から覗き込んだ。2m近い体躯のせいで手元が大きな影に入った。

「安いんだよ。安い。イノシシ駆除だって一匹1万円も出るのに。確かに、俺たちの元手は0円だよ。ただ、魔導なんて誰でもできることじゃないのに、たった3000円なんて。常磐のほうが払いがいい」

 ニシ=柄にもなく言葉が出てくる。生来の他人を悪く言えない性格&隣の聞き役の大男なら吐露しても問題ないという安心感。

「じゃあ、なぜやっておるのだ」

 至極当然の質問=ニシを冷静にさせた。自称・神/その割に人の心を分かっている。

「まあ、5年前とか、潰瘍が出たときはあちこちで怪異が出現してて、死傷者も結構いたからボランティア感覚でやってたんだ。子どもたちを引き取った後は、ほら、子どもの世話もあるだろ。だから常磐の仕事と市の駆除依頼を半々でやってた。駆除のほうは毎日依頼があるわけじゃないから家の仕事ができるだろ」

「ふむ。だが、常磐に行かないときは随分、暇しているようだが。暇なら我と一緒にテレビを見ればいいものを」

「子どもたちも手間がかからなくなってきたし、モモやサナも小さい子の面倒を見てくれているからだよ」

 ニシ=嘆息/踵を返した。

「松井さんにバイクのところまで送ってもらうよう、頼めばよかったな」

『現代✕魔導』第1章 第3話 魔導生物事件 を手にとっていただきありがとうございました。

今回はニシの精神的な成長を軸に、周囲で正妻戦争が起きています(笑)当人は気づいてないようですが。

(以下にネタバレはありません。)

1話、2話と個別の事件を扱いましたが、3話目からはさまざまな対立軸で物語が展開していきます。ニシの正妻戦争もまたある意味で対立軸ではあります。

常磐興業が魔導技術で社会を発展させた分、陰はどんどんと大きくなっていきます。今回はその一旦が開陳されるストーリーです。

作品内でときどき古い映画をモチーフにすることがあります。今回は「ザ・グリード」(米’98)や「トレマーズ」(米’90)をオマージュする場面もあったと思います。巨大な怪物×銃×マチェットが好きな方は楽しんでいただけたでしょうか。


気になる文体(地の文の書き方)ですが、冲方丁作品のシュピーゲルシリーズやマルドゥックシリーズをリスペクトしたものです。記号を使いスタイリッシュかつテンポよく作品を展開させていきます。記号自体に意味は無いので文字だけを読んでいただけたらと思います。

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