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俺は無意識に魔法陣が書かれた台座から立ち上がって逃げようとすると、オルハは台座周辺を取り囲み包囲する。


「さて、おまえの価値はなくなった。今すぐにその場所から降りて私のところに来い。そうすれば貴様はこれ以上足掻く必要はない」


 オルハは俺に向かって命令する。だが、俺の足はすでに恐怖ですくんでしまい立てそうにないのだ。


「オルハ、あれ。しばらくは動けそうにないわね。はやく捕まえて処分しましょう」

 

その姿を察したエクレシアは俺を指さして『あれ』呼ばわりする。ごみよりましかと思ったがこの状況であれば最早どっちでもいい。


「かしこまりました。ですが、困りました。あれがいる場所は聖域でして我々には入る権限がございませんので……」

 

オルハは気まずそうにエクレシアを見る。

 

そう。幸いにも俺がいる場所は聖域なのだ。だからこそ選ばれた者しか立ち入ることが出来ないためこうして引きずり降ろされずに済んでいるのだが、その聖域に立ち入れる者は最悪にもここに一人いる。


「やっぱり私が引きずり下ろすしかないのね……最悪だわ。本当に」

 

心底嫌そうな声でその心情を吐露した。


「お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします」

「はいはい。行ってくるわ」

 

オルハは深々と頭を下げると周りにいた兵士たちも頭を下げる。

 

対してエクレシアは究極に嫌そうにかつん、かつんと靴音を立てて近づいてくる。

 

このままでは殺される。そう思うのは不思議ではなかった。


どうすることも出来ないのかと諦めようとしたその時、奇跡的に恐怖から逃げるための力が体に入ると吠えた。全力で吠えて体を奮い立たせ俺は踏み出す。


「がぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああッッ‼」

「くそっ! やつめ‼」

 

オルハは思わず声を出した。

 

そう。ここは唯一、鋼鉄軍団に囲まれていない場所である装飾が施された窓であった。

 

俺は必死にその場所をめがけて勢いよく走り出した。


「はっはっはっ! ぜぃ! うわぁああああああああああああああああああああああ!」

 

恐怖に浸食されそうながら走り出した俺は荒い呼吸をしながら、おぼつかない今にも倒れてしまいそうなふらふらな足でその場所を目指し、全力でぶち破ると、装飾は粉々に砕け散り、俺はその破片が舞い降りた上に覆いかぶさるように転げ落ちた。

 

幸いにも落ちた場所は芝生の上で、先ほどいた場所が高い場所ではなかったことに感謝する暇もなく俺は逃げ道を探し続けた。 


「ああっ! あああああああっ! あああああああああああああああああ!」

 

見渡す限り壁に囲まれた場所に俺は錯乱した。

 

俺がいた場所は中庭の近くだった為、逃げ道はあるように見えるのだが、どれが正解なのか選ぶことが出来ない。さらに聞こえる軍靴のガシャガシャという音が俺の心臓を締め付ける。

 

俺はこの後どうなる! 捕まればあの様子からして間違いなく死ぬだろう。だが、俺は違う場所から飛ばされた。ならば他にも使い道はあるのかもしれない。そうなれば簡単には死ねないだろう。


「ごほぉ ごはっ! はぁはぁはぁ」

 

近づいて来る恐怖に何も出来ずに俺は立ち止まり、足を地面に絡めとられてしまう。


「あら? 逃げなかったのね。それとも逃げられなかったのかしら」

 

絶望を運ぶ死神はどうやら聖女の皮を被っていたようだ。


死神とは思えないほどの優しい笑みで俺を出迎えたのだが、俺の渇いた口からは何も言葉が出なかった。それは単純に言葉が思いつかないのか、それとも今までに体験した事のない恐怖に、言葉を発せるということを忘れしまったのかもしれない。


「なんだ。逃げないのか。どうせならみっともない姿で我々を更に幻滅させてくれれば執行する側としても気持ちが楽なのだが」

「あら、オルハも騎士長になってから随分と時間が経っているのにまだ躊躇う気持ちがあるの?」

「私も戦場を駆け巡ってきましたが、戦意喪失の相手を斬って高揚するような心は持ち合わせておりませんので、この場合難しいものがあります。申し訳ございません」

「いえいえ。それでこそ騎士よ。野蛮に敵と戦うのは戦士の役目。戦いの中でも矜持をもって戦うのは騎士であるもの。その役目をオルハが全うされているのは姫である私の誇りにも繋がるのよ」

「お褒めの言葉をいただきありがとうございます。しかし、だからと言って逃がすのは言語道断でありますので早急に捕らえるとしましょう」

 

オルハはパチンと指を鳴らすと鎧を纏った兵士が数人俺に向かって走ってくる。

 

すでに逃げ道を失い戦意喪失している俺は、これから待ち受けている恐怖に目の前が真っ暗になりに何かを叫んだ。


「ああああああああああああああああああ‼ あああああああああああっ‼ がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」

 

落ち詰められた獣のように叫び暴れだした俺の姿に兵士たちも足を止めて剣を構えた。


「気にするな! ただ暴れているだけだ。疲れれば自然に諦めるだろう。万が一に備えて警戒を続け包囲しろ!」

 

オルハの指示に兵士は抜き出した剣を構えたまま俺から離れて様子を見ていた。

 

対して俺は半狂人化したように叫び続けた。

 

意識はほとんど無い。だがそれでも本能が呼び起こし叫び続けた。


「があああああああああああああああああああああああああああああ」

 

しかし、叫び続ける哀れな存在を見て、王女は誰にでもわかってしまいそうなぐらいの退屈そうな声音を出す。


「ねぇオルハ。あれ。早く黙らせてくれない。鬱陶しいわ」

「かしこまりました」

 

オルハは腰に携えていた剣を抜こうとするとその手にそっと王女は手を添えた。


「ちょっと待って。オルハ? 今あの男を殺そうとした?」

 

その問いかけにオルハは困ったような表情をした。


「……そうですが」

「やっぱり殺しては駄目よ。いい絶対ダメよ」

 

エクレシアは腕組みをしてオルハに殺さないように命令する。


「かしこまりました。それでは予定通りまずは捕縛でよろしいですか?」

「ええ、それでいいわよ。よくよく考えてみればここで殺してしまえば中庭が汚れてしまうし、せっかく大金を積んで開発して召喚したのに簡単に殺してしまっては無駄もいいところ。せっかくならいろいろと試してみても遅くはないわ」

 

すでにいくつかの候補が思いついているのか、エクレシアは口角を少しだけ上げて先ほどよりも上機嫌であった。

 

そんなことを知らない俺は、ひたすら唸り声や大声を出して威嚇していたが、次第に疲れが出始める。

 

その瞬間を逃さなかったオルハはすぐに捕縛するように号令をかける。


「今だ! 取り押さえろ!」

 

命令を受けて兵士たちは走り出し俺との距離を一気に詰める。


「来るなぁああああああああああ‼」





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