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今も多くの種族が住まうこの世界では国や種族を代表する期待を背負った者たちがその信念、尊厳、家族を守るために争いを続けていた。


その中でも一騎当千。百戦錬磨。万夫不当と呼ばれた誉れ高き者たちが一同に集まり、駆け巡るその戦場はまさにこの世の地獄と化していた。 

 

各地で実力者は武を繰り広げ鍛え上げた全てをぶつけていく。その戦場なかで最も激化している戦場では今も死闘が繰り広げられていた。


「はぁあああああああああああああああああああ‼」

「うおおおあああああああああああああああああ‼」


咲き誇る大樹が連なるように聳え立ち、多くの屍となりし者が横たわるその深緑の森の中で、躍動するように一人の青年は、誰もが認めた実力者である勇者と交戦していた。

 

 戦いが始まって数日が経過していたが、ようやく戦場は数日に渡る拮抗状態からどちらかに傾こうとする分かれ目に迫っていた。

 この日の戦いで優劣が決まる。ゆえに各地で行われている戦いを一勝でも多く勝ち取った方が有利となる。

 

その為この日は両軍とも士気が高く戦場はより激化していた。

 

中でも国の期待を背おった勇者と同じく、同じ時を過ごしその安住の日々を守るために立ち向かった青年はそれをお互いに理解していた。

 

ここでの戦いはより負けられない。と。


己の手に握られる木剣を振るい叩き付けるかのように地面に撃ち落とすと勇者は一瞬のタイミングを逃さず完璧に近い受け身を取り、衝撃を最小限に抑えながら緑に覆われた地面を転げまわる。


「なんだ。勇者って言うのはそれほど強くねぇンだな」

「くそ、ここでなければお前なんて…………」

 

勇者は奥歯を噛み締め、その力で草原を転げまわった時に掴んだ左手の草花を握り潰し、浴びせられた侮辱の言葉に対してまともに言い返すことが出来なかった。

 

勇者はいつ言われたかを思い出せないほどの屈辱に息を荒げ、その愚かな姿を見下しながら青年はその内に溜まったものを吐き出すかのように言う。


「なんだ。言い訳でもするのか。確かにここは俺に有利な場所だ。だけどな。攻めて来たのはお前たちだろうッ! 俺達はお前たちからしてはただの討伐対象だから無知にも襲い掛かかってきたようだが、ならばその報いを受けても何も言う事はないはずだ」


「黙れ! 貴様らのような存在がいるせいで争いが終わらんのだ! 強者が力を手にいてその力を万民のために発揮することによって平和は訪れる。だが傲慢にもその力を振るい続ければ未来永劫この争いは終わりを迎えることはなく、人々…………いや全生命は常に恐怖にさらされ怯えなければならない! 貴様たちは最早脅威なのだ。だからこそ消え去ってもらうしか方法はないのだ!」


「脅威…………か。そうか。お前たちの中ではすでに俺達はそのような立場になっているのか。無知とは恐ろしいな。だが、こうなった以上そんなことはどうでもいい。熱く語ってもらったけど、勘違いしているようだから行っておくが、俺達だって平和は望んでいるんだよ」


「っ! それならなぜ我らの和平を結ぼうとしなかった! 何度だって我々は手を取ろうとした。それなのに……………」

 

勇者は武器を下げて手を差し伸べたが、ふとその足元を見るとすでに限界を迎えておりその抱えた重さに耐え切れていないように見えた。哀れにも思えた。


この姿に心優しき者は考えを改めるかもしれない。なにかしらの希望が見えたのかもしれない。


だが、俺は違った。それでもなお、考えは揺らぐことはない。なぜならどうしても、何があっても取れるわけがない! 取ってたまるか‼ という硬い意志がある。


ならばそれを何としても守り通す。それが、俺達が出した答えなのだから。


「呆れることを言うな。おまえらはいつも和平といいながらも己たちに利益があることばかりを提示してばかりで俺達古龍の力が欲しいのだけだろ。その結果打診はされたがそれに応じないと言葉を荒げ交渉を打ち切ったのはお前たちじゃないか。その行為は先程貴様が言った傲慢じゃないか?」

 

震えた声で話すその青年の目には怒りが入り交じる鋭い眼光を向けた。


「そんなはずはない! 我々は平等な世界を目指しているだけだ! 誰もが幸せで豊かに暮らせる世界を目指している‼」

「そんな戯言今更誰が信じる‼ ならばなぜ貴様はあいつを殺そうとした‼ あいつは俺と関りがあったせいで全てから追われて今も悲しんでいる。本来ならもっといい手が……………あった。だけどお前たちが全て裏切ったんだろうがッ‼」

「それは―――――――――――――」

 

勇者は思わず一歩足を後退させた。


 幾度となく戦場を駆け巡った勇者であってもその眼光は脅威に感じられたのだ。

 

その時、勇者の背後で轟雷と同時に空気が一瞬凍ったのを感じ言葉を失う。


「どうやら、あっちも終わったようだな。結局、おまえらの実力者とはそれほど期待したものではなかったようだな」

「くそ、ミーシャ。アルドル。お前たちも逝ってしまったというのか……………ぐぅううううあああああああああああああああ‼ 貴様ぁあああああああああああああああ‼」

 

勇者は収めていた剣を振り上げる。


「おせぇよ」

 

勇者が振り上げた剣よりも早く動き、更なる速度で勇者を斬り伏せた。


「ぐっ……………はぁ……………」

 勇者は膝から崩れるが倒れずに踏ん張った。


すぐに切り裂かれたその個所に回復魔法を施すが、想像以上に傷は深く、残っている力では治すまでに絶命することを悟り、その右手から傷口から遠ざけ、満身創痍の身体を奮い立たせた。


「へー。立つのもやっとだと思っていたけど立ち上がれるのか。でもよ、その傷治せるなら早く治した方がいいぜ」

「それは、出来ない」

 

勇者は静かに答え、青年は悟った。


「それでどうする? おまえの残った死力で俺と同士討ちでも狙うか?」

 

無論そんな隙は与えることはないが。

 

すぐにトドメを刺そうとしたその時、予想外の言葉に俺は手を止めた。


「竜族。貴様の名を聞きたい」

 

聞いたところでと思ったが、俺は自然と名を名乗っていた。


「俺の名はトウヤだ。深碧の竜王トウヤ。覚えておけ」

「そうか。ならばトウヤ。いつかお前と必ず手を取り合う日を俺は待っている。必ずな」

 

勇者そう言い残すとその場で膝から崩れるように倒れた。

 

その最後の表情は憎しみや苦悩などとはかけ離れた安らかな表情であった。

 

気を張り巡らせるとすでに他の場所でも勝敗は決したようだ。

 

多くの犠牲と怨嗟を生み出した戦いも、もう終わりを迎えるだろう。


少しでも早く終わらせる為にも、仲間と合流して次の手を考えるためにその場を飛び立とうとする前に、ふとその背後で討ち果てた勇者をもう一度見た。

「そんな日があるといいな。……………………ッ‼」

 

その時、一瞬の光が空を照らし、そこから俺の記憶は途絶えた。


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