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対面

 女性がカクリと顔を落とす。どうやら眠ったようだ。


 やはり魔法は万能とは言わずども、強力だ。

 誘拐された時に使われた魔術を再現してみたが上手くいったようだ。


 それにしても、人と対面してあそこまでテンパってしまうとは。みごとな片言だったし、焦って魔法を使ってしまった。恥ずかしい。


 強制的に眠らせてしまったことを申し訳なく思うが、相手に意識がないことに安堵しつつ、手当にとりかかる。


 その女性を改めて見る。柔らかなゴールドの髪の毛と目じりが下がった様相から、優しそうな人だな。と思った。どうやら背中に怪我をしているようだ。縦に流れた1本の切り傷がある。


 手当といっても、深い知識があるわけではない。私が持つ知識は、前世で多少学んだ勉強と、父親がいない時に見ていたテレビ、それに加え、施設で兄妹達から教わったものだ。それも、子供の知識なので信ぴょう性は低い。


 だから、小学校の頃に保健室の先生がしてくれた手法を思い出し、手当にとりかかる。


 先程取り出した薬草を魔法でだした水にいれ、水圧ですり潰す。それによって出来た簡易消毒液を服をはだけさせてから、女性の背中に振りかける。


 女性は顔をしかめ、うめき声を上げていたが、意識は失ったままだ。


 そうして傷からゴミを洗い流し、治癒魔法をかける。

 この魔法は、今の生活が落ち着くまで、何度も助けられた。


 ただ、魔法がかかっている様子は綺麗でもなんでもない。傷口の細胞に再生を促しているようで、傷口がぶくぶくとうごめく。完全に放送規制モノだ。

 初めて使う時は、物語の聖女が使うような、キラキラとした魔法を想像していたが、もっと現実的なものだった。


「おぇぇ……やっぱり気持ち悪ぃ。」


 そう思いつつ、傷口をうかがう。どうやら傷は塞がったようだ。


(魔法って本当に凄いなぁ)


 その事を昨日に続き再認識する。


 しかしどうしたものか。

 女性は治療を終えた。人と関わりたくない自分は、もうこの場から逃げ出したい気持ちでいる。


 だが、先程手当の時に見たように、女性はだいぶ血を流していた。血色がよくない。

 このまま放置、というのもあまり良くないだろう。


(だけど、洞窟まで連れ帰る?でももし、さっき思ったような施設の追手だったらどうしよう?)


 アリアからすれば、そんな事はありえない!と思うだろうが、人に不信感しかない私は正しい思考回路を持ち合わせていなかった。


 そこで、私は洞窟より300メートルほど離れた所まで女性を運び、近くに巻をくべ、毛皮の毛布を持ってきた。


 ここを、一時の新たな拠点として、女性が回復するまで見守ることにしたのだ。


 女性が眠っている間に洞窟から物品を運んでくる。今日の日課どころではなくなった私は、燻製にしておいたホロホロ鳥の肉をかじり、女性の目覚めを待った。




────アリア・アーウェン────


 


 フルリと体を震わせ目を覚ます。どうやらひと吹きの風に当てられたようだ。


 覚醒し切れていない意識のなか、アリアが周りを見渡すと、すでに夜中であると気づく。


 しかし、それほど寒いという訳ではなく、ほの暖かい。目の前では焚き火が上がっていた。

 ムクリの体を起こすと、毛皮の毛布がかけられていたのが分かった。


(ここは?……今日は、あぁ、敵襲があったんだわ。それから……)


 そこで、今日あった事を振り返っていく。そして最後に1人の少女に出会った事を思い出した。


(そう、そこで少女にあって、それから……確か花の香りがして……)


 アッと睡眠魔術を使われて気を失ったんだと思いだす。実際には睡眠魔法なのだが、そこまでの思考にアリアは行き着かない。


 しかしよく見ると自分は手当がされているようだ。

 ここまでの処置は慣れていなければできない。あの子供はきっと大人を呼んで助けてくれたのだと思われる。


 その後どうしたのだろう、考えにふけっていると、突然背中側の茂みからガサガサと物音がした。


(────なにっ!?)


 慌てて振り返ると、サファイヤの髪の少女が木の影からじっと見つめていた。


 りきんだ体から力が抜けていくのを感じつつ、声をかける。


「君は、昼間の子よね。助けてくれてありがとう。」


「痛いの、いやだ……人助け、あたりまえ……」


 優しい子だなと思い頬が緩む。


「突然で怖かったでしょうに。ごめんなさいね。大人を呼んできてくれたの?」


 少女はふるふると頭を振る。どうやら違うようだ。


「そう……じゃあ、この手当はあなたがしてくれたの?」


 すると少女はこくこくと頷く。その事に驚きつつありがとうと述べる。ただ、その思考は別のところにあった。


────大人を呼ばなかったということは、つまり、この森には少女一人という事ね。でも、なんでこんな奥深くの場所に子供が1人いるのかしら?

────これからどうしよう。私が気を失った場所とは違うようだし、あの場所にたどり着くのも必死だったから、完全に道筋を覚えているわけでもないわ。どうやって帰りましょうか。

────このサファイヤの髪って、ジークが言っていた子じゃ……


 などと様々な疑問が頭の中にうかぶ。うーん、とうなっていると、


「だ、だいじょうぶ?まだ、…い、痛い?」


 と少女が声をかけてきた。


(いけない。助けてくれたのにまた心配させるだなんて)


 ハッとなり、そうアリアは思った。


「大丈夫よ。そういえば、まだ名乗っていなかったわね。私はアリアよ。アリア・アーウェン。今日は助けてくれてありがとう。」


「う、うん……」


 そのまま、少女は下を向き、無言になってしまった。どうしようと焦ってしまう。


「あの、なんで……森、いた…の?」


「あー……それはね、こっわいおじちゃん達に追いかけられちゃってね。」


「ひっ…!」


「あっ!で、でも大丈夫よ。ここには悪いおじちゃんも来れないわ!」


 驚いた少女を慌てて落ち着かせる。どうやら悪いという言葉より"おじちゃん"というワードに反応したようだ。なかなか近寄ってくれないし、人が怖いのだろうか。

 

「えっと……これから、どう、するの?」


「うーん、そうだなぁ、私の仲間が来てくれるまで、待つしかないし……」


「そしたら、ここ……いる……良い、よ」


「ほんと!ありがとう!」


 その提案に歓喜する。子供に頼るのは気が引けるが、無駄に動くのも良くない。先程言ったように、人を待った方が良さそうだ。


 それに。こんな少女が1人森の中にいるだなんて、おかしい。

 こんな場所に少女をほおっておく事ができず、アリアはここでの滞在を決めた。

少々、区切りどころがみつけられず、長くなりました。

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