試験②
はい、と返事をしつつ歩みながら腰にかかった剣に手をかける。
先程冒険者組合に来る前に買ったものだ。
製品としては小刀だが、身体の小さい私にとっては立派な剣だ。
オネエさんはその剣に気づいたのか、ニヤリと笑い、言う。
「あら?新品?気合入ってるじゃない」
「は、はい……フェリスです、よろしくお願い、します」
先程のウィルさんと同様に挨拶をする。
「ふふ、いつきてもいいわよ」
それに対しオネエさんは木剣を片手でクルクル回しつつ、先程と同じ文言で答えた。
私はその言葉を聞いて、まずは普通に走っりだした。
今回の模擬戦、私は戦闘スタイルの欄で剣士に丸をつけた。だから基本は剣で戦わなければならない。
逆を返せば、剣だけで戦っているように見えれば良いのだ。
魔法を使っているとバレなければいい。
ということで、今回使うのは基本自身の身体強化系の魔法だ。
そんな事を考えつつ、間合いを詰める。
とは言っても、子供の体では走るスピードなどたかが知れているが。
そして自分とオネエさんとの距離を半分ほど走ったら、腕に魔力を流し込み、
────思いっきり剣を投げる。
「はぁっ!?」
ブォンっと音を鳴らして剣が空気をさきながら飛んでいく。
そして、オネエさんが地の声を出しつつ、その剣に目を取られた1秒にも満たない一瞬、私は魔力を足に巡らせて一気に加速した。
オネエさんは瞬きをして視線を戻した時、突然私の動きが早くなったことに瞠目しつつ、反射的に剣をふるった。
「的が外れたわねっ!」
確かに、私が投げた剣を見ると、その軌道はオネエさんの右上を通りそうだ。
(さすが上級冒険者。こんなんじゃ対応してくるね。)
何も持っていない私はオネエさんの剣を無視し、体を下へ滑らせ、オネエさんの足の間をズサーと土の表面をえぐりながらくぐり抜ける。
「ッ!」
体格差が大きいからこそできたことだ。
オネエさんの背後に着いた瞬間、溜め込んだ魔力を下へ押し出して、オネエさんの体を駆け上がっり、遅れて飛んできた剣を掴み取る。
「フッ!」
「オラァッ!!!」
背後に回れたが、オネエさんは腰を捻り、またその勢いを利用して剣を打ち出してきた。
私は自分で振り下ろした剣で迎撃するも、空中にいたため、抵抗もできずに弾き飛ばされてしまう。
何とか宙を飛んでいる間に体勢を整えて地面へと着地し、その流れのまま足を踏み出した。
体格差は辛い。なら足を狙おうと、オネエさんのスネを見つめる。
「それは、愚策よっ!」
その視線を辿って、体勢を整えたオネエさんは上段から剣をふるった。
このままいけば、オネエさんの剣が私にぶつかる。
(まぁ、そりゃあ、そうだよね。)
視線で攻撃する場所を見ていたら、相手がどこを狙っているのかなんて、バレバレだ。
森での狩りの時にも、獲物の目線を辿ることでどこに注意を向けているのか確認していた。
自分の存在がバレては逃げられてしまうからだ。
(だから、これはフェイント。)
私は足を見つつ、足に魔力を巡らせることで、無理矢理オネエさんの剣の間合いのギリギリ手前で止まる。
「うっ!」
その反動で体に負荷がかかったが、耐える。
そして、目の前をオネエさんの木剣が通り過ぎたら、ワンテンポ遅らせて目線は下に固定させつつも、オネエさんの手首目掛けて剣をふるった。
あとコンマで剣ががら空きの手首に到着する。
勝てる、と思ったその瞬間。
「っぶねぇ!!!」
オネエさんの剣がぶれた。
「ッ!」
私が横ナギにふるった剣から、凄まじい衝撃が伝わって、吹き飛ばされる。
少しの浮遊感の後、地面を転がる。
3回転ほどした所で地面に手を付き、体を勢いにのせて起き上がらせた。
(つぎっ──────)
そうして次の攻撃に備えようとしたら、オネエさんはすでに戦闘態勢を解いて、腰に手を当てため息をついていた。
「………えっ」
「あ〜〜〜、やっちまったよぉ」
オネエさんが地声を出しつつ頭をかく。
私は状況が掴みきれなずに目を白黒させたが、オネエさんはそんな私に対して言葉を発する。
「あなた、年齢詐称してないわよね?エルフの血とか混ざってる?」
「いっ、いえ……」
突然の質問に慌てて否定すると、オネエさんはもう一度ため息をついた。
(この世界にエルフとかいるんだ……。)
「今回の試験はここまでね。もちろん合格よ。ランクは……Eかしら。」
「えっ!?ちゅ、中級!?なんでっ」
突然のランクアップだ。先程、オネエさんはFかGと言っていたでは無いか。
「それはね、私に魔力を使わせたからよ」
「ま、魔力……?」
その単語にドキリとする。私が魔法を使ったことがバレたのだろうか。
いや、オネエさんは"私に"と言ったから、自分のことではないはずだ、と自分を落ち着ける。
「えぇ、生物にはみんな、魔力っていうエネルギーを持っているわ。そしてだいたいB級くらいから、自分の体内にある魔力を意識して使うことで、自身の身体能力をあげるようになるのよっ。」
オネエさんが両腕を腰にあてながら、自信満々に言う。
(知ってます、いつも使ってます。)
その様子を何だか気まずい思いで見ながら頷く。
だが、ここで私は無知な子供で無ければならない。
「えっと、頑張れば、私も、使える……?」
「ふははは、今は無理よ。経験積んで行かないとね。無理に使おうとしたら爆発しちゃうわよ?」
オネエさんが大仰に笑う。
どうやら、私が魔法を使ったことはバレていないようだ。
その事に安堵しつつ、先程の質問をする。
「えっと、それとランク、なんの関係が?」
「あぁ、そうそう。つまり、魔力を使える事でBランクとCランクでは大きな壁があるわけ。でも、試験中にそんなもの使えないわ」
「試験、直ぐ、終わっちゃうから?」
「そう!だから魔力は使わないで試験はやっているの。だから実質C級の力で戦っていたわけ。だけど、さっきは私は魔力を使わされた。つまり、あなたの戦闘力はC級を越えてるって訳よ。」
「えっ!」
さすがにそれには驚く。今までの戦闘らしいものといえば森の中での狩りとグリフォンとの戦いだ。
それも、狩りは戦いと言っていいのか分からないし、グリフォンとの戦闘はジークさんやハルビンさんが主体だ。
だから、私自身の強さはあまり分からなかった。
まぁ、先程の模擬戦では、私は魔力を使ったので、素で戦えばすぐに倒されていただろう。
何を隠せ、私は7歳の体だ。体格的にも負けている。
だから、実際の戦闘力は知らないが、魔力を使ったうえなら私は、C以上、B級未満ということか。
「まぁ、いきなりC級だなんて、聞いたことがないからね。経験値も含めてランクが決まるもの。だからEよ。」
「は、はぁ……」
少し目立ちそうだが、冒険者になれるから良いか、と自分を納得させ、お辞儀をする。
「あっ、ありがとう、ございまし、た」
「はーいっ、もう良いわよ。後で冒険者証のペンダントを発行するから、受付でまっててぇ〜」
そう言って、オネエさんが手を振った。
もう一度ありがとうございます、と一言言い、振り返ってオリビアさん達がいる所に向かう。
後々目立たないか心配だが、今はこの喜びをオリビアさん達に伝えたい。
そう思いながら走っていると、ウィルさんが両手を頭に抱えてうずくまっており、ジークさんもどことなく重い雰囲気を発しているのがわかる。
突然どうしたのだろうかと、唯一、無事そうなオリビアさんの声をかける。
「2人、どうしたの?」
「男のプライドと戦っている」
「え?」
2人を見る。
ウィルさんは抱えた腕の隙間から、声が漏れ聞こえてきた。
そっと近づき、耳を寄せる。
「はぁ……年下……おんなの……ランク……下だっ……なさけ……」
途切れ途切れだが、何となく年下の私よりランクが下だったことが悔しかったのだろう、と辺りをつける。
次にジークさんの傍により、じっと見つめると、ジークさんが私の頭に手をポンっと置いて言った。
「俺はDランクだ」
「私より、一個うえ?」
「そうだ。」
意外だ。剣の扱いが上手いジークさんならCランクかBランクにいっていると思っていた。
実際にグリフォンとの戦いの時、ジークさんの戦闘力はハルビンさん達より抜きん出ていた気がする。
すると、オリビアさんがその疑問に答えてくれた。
「フェリス、ジークは指定依頼を受けているから、冒険者としての依頼をほとんどこなせていない。ランクアップもしずらい」
「あっ、そうなんだ。」
そういう事か、と納得する。確かに、アリアさんに個別で雇われているため、他の依頼は受けにくいだろう。
そう思っていると、オリビアさんはニヤリと笑う。
「まぁ、フェリスは実質Cランク。つまりジークはフェリスより一個下」
「えっ!」
確かに、先程のオネエさんの言いようとオリビアさんの考えでいえば、そう言えなくもないが。
チラリとジークを見る。
ジークさんは先程よりも肩を落として、ズーンという音が聞こえるほどに気落ちしていた。
それに対し、オリビアさんは背中をバシバシと叩く。
「気にしない、気にしない!Dランク!」
「おい……」
「あはははは……ふぅ、スッキリした」
「……おい」
散々笑ったあと、オリビアさんは目に溜まった涙を拭い、上に行こうと言って歩き始めた。
それに1人は駆け足で、残り2人はドボドボと歩きながら続く。
ひとまず、試験は終了した。冒険者登録は上手く行きそうだ。




