試験①
注文された酒を運んでいるウエイトレスの人に聞いて、地下へと向かう。
階段を下りると、扉が開きっぱなしになっていた。
「頑張れ」
「大丈夫だから、頑張って」
「う、うん……」
ジークさんとオリビアさんに応援の言葉を貰いながら中へとはいる。
そこにはテニスコート2つ分はありそうな広場があった。
すでに先程の少年と受付嬢のおネエさんがいた。
「ひろい……」
「よぉぉしっ!これから模擬戦始めるわよぉ〜!」
突然の大きい声にビクッとする。
この人、時々野太い声を出すから圧がすごいんだ。
おネエさんはそのまま話を続ける。
「ルールは簡単!私と戦ってもらうわっ!こう見えて、Bランクで強いから、遠慮入らないわよぉ!」
(こう見えてって、どう見ても、の間違えだよ…)
心の中ではツッコミながらも、隣の少年からはすごい…と言う声が聞こえた。
冒険者の事は前世の知識だよりであまり知らないので、どの程度凄いかは分からない。
一応、今後のために聞いておくことにした。
「び、Bランクって、凄いの?」
「えっ」
「あらぁ、知らないできちゃったの?んじゃあ、先に簡単に冒険者の事を説明しておくわっ!」
世間知らずで悪かったな、と思いつつ説明を受ける。
要約するとこうだ。
冒険者とは、いわゆる何でも屋。
些細なことから、魔物の狩りまで大きな幅の依頼を取り扱っている。
依頼で主なものは害獣の駆除と素材の採集。
基本的には狩人と似たようなものだが、この世界の生物は地球と違って、その体の基礎に魔力と言う強力なエネルギーを持っているため、また、肉の供給という意味でも荒事ができる冒険者は必要な職業だそうだ。
先程言っていたランクの話だが、H、G、F、E、D、C、B、A、Sの8段階に別れていて、世間ではH〜Fは下級、E〜Cは中級、B〜Aは上級、Sは最上級と認識されている。
ほとんどの人が中級どまりでBランク以上はいくつかの街の中に1人いるかどうか、ぐらいの少なさらしい。
「と、まぁこんな感じよ。さて、話を戻すと、上級の私と模擬戦をしてもらって、その結果でランク付けをさせてもらうわぁ。ほとんどはFかGだけどね。あぁ、危ないからって寸止めしようとしなくてもいいわよ。そしたら直ぐに終わっちゃうっ!」
そういいおネエさんはニヤニヤと笑いながら、壁に立てかけてあった木剣をとる。
「武器は普段自分が使っているのでいいわよ!それじゃあ、初めは坊やの方から来なさい!お嬢ちゃんは端っこで見ていて。」
そう言っておネエさんはスタスタと歩きながら私たちと距離をとる。
私は言われたとおり、壁際までより、待機する。
「ウィル・カーターです!よろしくお願いします!」
後ろを振り返ると、少年、もといウィルさんは腰から剣を放って戦闘態勢を取っていた。
「ふふ、いつきてもいいわよ!」
オネエさんが野太い声でそういう。その声を皮切りにウィルさんは走りながら剣をふるった。
「ォオッ!」
それをオネエさんはシャリっと木剣を傾ける事で剣を受け流す。
「ふむふむ、自分の間合いを取るのはいいわね。剣は重めだけど、直線的すぎるっと」
そのままウィルさんの攻撃に対してオネエさんは剣を流し、弾き、いなしていく。
広場にはカンカンカンと言う剣のぶつかる音が響いた。
それから1分ほど打ち合った時、ずっと受けの姿勢だったオネエさんが剣をふるう。
「じゃあ、守りはどうかしらねっ!」
「ッ!」
大ナギだが、そのぶん勢いよく重い剣が打ち出される。それに対してウィルさんは反対側から剣を振るうことで迎撃しようとしたが、勢いに負けて剣が弾かれる。
手には重い衝撃が痺れるように残っているだろう。
そのせいで体勢を崩したウィルさんはステップをすることで後ずさろうとする。だが、オネエさんはその隙を逃さない。
ズンッと音をたてながら足を踏み込んだオネエさんはウィルさんとの間合いを詰めて、下段からウィルさんの剣を振り払った。
不安定な状態だったウィルさんは手から剣を離してしまう。
クルクルと剣は宙をまった。
「ふふ、ここまでのようね」
カランカランッ!とウィルさんの後方で剣が落ちる。
最後に尻もちをついたウィルさんにオネエさんが剣を突きつけることで、模擬戦は終わった。
「全体的に重心は取れていたけど、剣が単調なのと守りは弱いわね。…まだまだ伸びしろがありそうだしGランク!」
「は、はいっ!」
ウィルさんが伸ばされたオネエさんの手を取りながら立ち上がり、勢いよく返事をした。
なるほど、こういう風に試験が行われるのか、とそれを見ながらふむふむと頷き、私はこの後どう戦うか考えていた。
(そのまま戦うと負けそう……。うーん、かと言って技を持っている訳でもないし………あっ、意表をつければいいのかな?そしたら……)
「つぎっ!お嬢ちゃん、おいで!」
うーんうーん、と悩んでいると名前を呼ばれた。
大した案は出なかったが、いくつか思いついたものがある。
それを実行すべく、はい、と返事をしながら私はスタスタとウィルさんと入れ替わった。




