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逃走

 21歳 アリア・アーウェン


 森の中をひた走る。後ろには男たちのいらだちを含んだ焦り声が飛び交っていた。


(────3年前の革命が、まだ尾を引いているだなんて。)


 3年前、自分が所属する王国、ドルワル王国では革命が起きた。王族達による、倫理観念にそぐわない圧政は長く民を苦しめていた。


 そこで、自分が生まれたアーウェン男爵の一族が筆頭となって、第5王子を中心として、この国のトップを転覆させたのだ。


 結果は成功。それまでの非人道的な制度は廃し、王族たちの悪行を告発して正した。それによって、王国は新たな成長をとげているのである。


 王族たちの行っていた数々の行為には、酷く胸が痛むものばかりであった。


 中には子供たちを使った人体実験もあったのだ。


 ここまで国の中心が腐っており、また被害にあった人々の事を考えても、臣下であった自分達にとっては、悔やみに悔やみきれない。


 そして、そんな革命の貢献者として、名誉貴族として、我が家アーウェン家は、日々力を増していた。


 それをどこかの貴族が目障りに思ったのだろう。領地から王都にいく馬車の道すがら、盗賊を装ってきた者達に襲われた。


(あれは、明らかに統率のとれた動きだったわ。ただの盗賊ではなかった。)


 アリアは貴族の令嬢である。しかし、革命軍の中心であった家紋のものとして、いくつかの修羅場は経験済みだ。胆力がある。


「うっ!」


 何とか声を抑えつつも、転んでしまう。盗賊達に負わされた背中の傷が、ジクジクと傷んでいた。


(騎士たちが逃がしてくれたんですもの!くじけてはいけません!!アリア!!)


 今回の敵は統率力もさることながら、人数も多かった。馬車にそえられた騎士たちだけでは守りきれないと思われ、入り組んだ森の中へと逃がされた。


 男爵家のそばには森があった。そこは昔から子供たちの遊び場として親しまれていたこともあり、アリアは森の中を歩きなれている。


 それだから敵から逃げ切れると思ったのだ。


 実際に敵との距離は離れてきている。このまま逃げ切れれば、こんな時の為にあらかじめ決めておいた地点で、騎士たちと合流して、この危機は脱することができるだろう。


 しかしだ、背中の傷がまたもや悲鳴をあげる。騎士たちの元を離されざるをえないほど、今回の敵は脅威であり、それに負わされた傷もまた、大きかった。


「はっはっはっはっ」


 息が切れ始め、血が足りないためか目眩もしてきた。このままではいけない。どこかで手当をしなければ。


 だが、こんな森の中だ。人も道具もそうあるわけではない。この状態の打開策が思いつかぬまま、アリアは走っていた。


 すると、一刻たった頃か、アリアは人の足跡を見つける。あまり大きなものではなかったが、人がいるという事実にアリアは歓喜した。


 盗賊や敵の追手では無いことを願う。傷の痛みに意識が朦朧としたが、我慢してアリアはその人を探しまわった。


 しかし、思いどおりには行かない。ついに血の不足で立つこともままならなくなり、アリアは木の幹を背に座り混んでしまう。


「うぅ……こんな最後なんて……いやよ……」


 そう呟き、2、3度足を叩く。しかし、足には力が入らない。


 途方に暮れていた時だ。


「ふっ…ふっ…ふっ…ふっ!」


 自分のものでは無い呼吸音が聞こえる。それは獣のそれとは違い、規則的なものであった。


 これ幸いと声をあげる。


「誰かいらっしゃるんですか?助けてください!」


 しかし、反応がない。縋る気持ちで必死に再度声をかけた。


「お願い……助けてください!」


 そこから少したった後、トサッと着地音がした。そちらの方に振り返ると、人がいた。


(こども………?)


 こんな森奧に子供がいるとは。初めは音の主は冒険者か狩人だと思っていたアリアはわずかに驚いた。


 その子供は女の子で、サファイヤのような、深い青色の髪がキラキラとまたたいて、綺麗だ。顔も将来は美しく成長するであろう愛らしさで、つりがちな目のダークピンクな瞳が可愛らしかった。


 一瞬、その姿に息を飲むも、治療が先だと声をかける。


「近くに誰かいる?呼んできてくれないかな?」


 柔らかな声音を意識しつつ、問いかける。しかし、子供はフルフルと顔を振り、少しずつ近づいてきた。

 よく見ると体もわずかに震えているようだ。


「君は、迷子なの?近くに村はない?」


 再度声をあげるが子供はまたもやかぶりを振りながら近づいてくる。


 何も声を発してこない事を疑問に思いつつ、その様子をじっと見ていた。


 すると子供は草を腰に括り付けられたヒモから取りだし、差し出してきた。


「これ、薬草、です。て、手当、する……うしろ、む、向いてくさい…」


 何と、手当とは。その事に驚きつつも子供に全てを任せられない。手当にも、知識が必要だ。そう思い、子供の提案に頭を振る。


「ありがとう。ここからはお姉ちゃんが自分でやるわ、本当にありがとう。」


 そういいつつ、薬草を受け取るための手を差し伸べる。しかし、子供は引かず、手をかざしてきた。


 何をするのだろうか。疑問に思いつつ、見つめていると、突然、甘い匂いがしてきた。


(────これって!)


 これは数年前の革命軍でよく使われていた、睡眠魔術の使用時に発生する香りだ。魔力の保有量が多い者は、レジストできるが、血を失い体に力が入らない今の状態のアリアには抗えない。


 なぜ子供が!とも、いけない!とも思いつつ、アリアの意識は遠のいていく。


(それにしても、サファイヤの髪色って……まさかジークが言っていた……子……じゃ……)


 気を失う間際、アリアはそう思った。



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