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冒険者組合

ジークさんはギィーと音をたてながら扉を開いた。


「うわっ」


 その途端、モワッと酒の匂いが強まり、また冒険者達が騒ぎ立てる音も大きくなった。

 昼間だと言うのに、酒を飲み交わす人達が多いい。

 私は荒くれ者たちの集団に多少の恐怖を覚えてジークさんのズボンをきゅっと握る。


「大丈夫だ。……だが、今日は一段と多いいな」


「そうね」


 ジークさんは私の肩を抱きながら周りをキョロキョロと見る。

 オリビアさんは前を向いたままツカツカと歩きながら返答した。


「おおおお!オリビアちゃんじゃないのぉっ!おひさしぶりねぇっ!」


 そんな私たちに声をかける人がいた。

 声がした方に振り返ると、カウンターから体を乗り上げて手を振っている男性が1人いた。


 ガチガチの体躯にたくましい腕。ワイシャツの胸元を開け、ピンクのベストを着こなし、唇には真っ赤な口紅。そう、つまり


(おネエの人、初めて見た………)


 その声に誘導され近づいてみると、より体の大きさが分かった。私の倍はありそうだ。カウンターの木の枠からギリギリで体を出している。

 いや、木がミチミチ鳴っているから、無理矢理か。


「ひさしぶり」


「お久しぶりよぉ〜!いつの間にここへ?」


「昨日から」


「最近じゃないのぉ〜!今日は何しに?デート?」


「違う」


 オリビアさんと受付嬢?の人との会話を聞く。

 完全に私とジークさんは置いてきぼりだ。


 オリビアさんの服の裾をクイッと引っぱる。


「あ、今日はこの子の冒険者登録をしに来た。」


「ん?」


(あって、オリビアさん、私たちのこと忘れてたね……)


 そう思っていると、カウンターからぬっと受付嬢の人が体を出して、こちらに顔をちかづける。


「ヒッ!」


「やだぁ〜!この子、可愛いじゃない!こんな小さな子が?」


「うん」


 急に大きな顔が近づいてきて驚いて、ジークさんの後ろへと隠れる。

 受付嬢の人は体を元の位置に戻したあと、カウンターの下から紙を取り出した。


「はぁい、これが登録のための用紙。お名前と、あとは質問事項の欄にチェックをつけてけば大丈夫よぉ。あっちの席で同じの書いてる人がいるから、分からないことはその人に聞いてみて〜」


「はっはいっ!」


 その紙とペンを渡される。受付嬢さんが指さしている方を見てみると、15歳くらいの男の子がカリカリと紙に記入していた。


 男の子が座っている席まで行き、隣に座る。

 チラリと伺うと、確かに私と同じ紙を書いていた。


「なに?」


「うっ、ううん」


 少年はその視線に気づいたのかぶっきらぼうに声をかけてきたが、慌てて否定するとすぐに視線を元の位置に戻した。


 少し怖いと思いつつ、自分も紙を書かなければと思い、用紙に記入していく。

 初めは名前。それから職業から希望の依頼、家族への連絡方法、などなどの欄に丸をつけていく。


 しかし、ひとつの欄で手が止まった。


(ふむふむ、戦闘スタイルね……。えっと、森で小刀を使ってたから剣士でいいのかな。狩人の欄はないもんね。他には……魔術師?うーん、これは違う………ん?魔法士?って、これ絶対丸つけじゃダメなやつじゃん!!!)


 魔法が使える事は今までの経験でバレてはいけない類のものだ。

 以前、アリアさんから魔法師は王宮に徴収される、と聞いたことがある。

 もしここで丸でもつけでもしたら、ジークさんと冒険の旅ができず、王宮が命令で戦争にでも駆り出されるかもしれない、と思うとゾッとした。


(他の欄にもこういう地雷あるのかな……)


 自分はこれまでの事でこの世界に関しては非常識だ。

 魔法士の欄のようにチェックを入れてはいけない欄に丸をつけてしまっているかもしれない。


 チラリと隣を見る。彼のをぜひとも参考にしたい。でも、声をかけるのは勇気がいる。

 その迷いで少年のことをじっと見つめてしまった。

 少年は先程と同じようにその視線に気づいてこちらを見てくる。


「なに?」


「あっ……やっ、その、参考に、みっ見せて、欲しい……」


「あぁ、いいよ」


 緊張で多少どもりながらも言うと、少年は意外にもすんなりと紙を渡してくれた。


 ありがとうございます、と一言言った後、自分のと彼のを見比べる。


 余分に丸を付けているのはないが、逆にいくつか足りないものがある。

 それを急いで書き足して少年に返す。


  受け取る時に少年は頬をポリポリとかきながら言った。


「まぁ、一緒に頑張ろうな」


「っ!うん!」


(やっ、優しいやつやん〜!)


 そう思いながらもう一度ありがとうと言い、ジークさんたちが待っているところまで戻る。


 おネエの受付嬢の人にはい、と紙を渡した。

 受付嬢の人はそれに目を通す。


「あら?……まぁ、良いか。はい、受理致しました!」


 一瞬の間が気になったが、大丈夫だったようだ。

 その後、書き終わった少年からも紙を受け取ったおネエの人は私たち二人に地下で待っておくように、と言いスタスタと去っていってしまう。

 その言葉にオリビアさんはキョトンとする。


「ど、どうしたの?」


「あー……フェリス、あなた、試験を受けるのね」


「え?」


「ん?違うの?」


 試験とは、冒険者登録の時にランク付けのために設けられた模擬戦だ。

 だが、私のような子供は書類を書くだけで良い。

 それは薬草取りなどのお小遣い稼ぎをするための子供達への配慮らしい。


 私もそのつもりでいた。


「地下は試験会場。もし冒険者登録だけならここで終わってるはずだよ」


「えっ!」


 どういうことだろうか、確か試験の欄は丸を付けないように避けたはず、と驚いていると、ひとつのことを思い出す。


(あっ!さっきの少年の書き写した時に丸つけちゃったんだ!)


「やっちゃったぁ………」


「………えっと、どんまい。まぁ、あなたなら大丈夫でしょう。」


 うぅ、と声を出すとオリビアさんに頭を撫でられた。


 初めからやらかすなんて、冒険者として幸先が悪い。

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