いざ街へ
今日は私とジークさん、そしてオリビアさんと朝食をとる。
エイダさんもヒューイも、まだ見ていないオーダム伯爵家ご当主も、朝から忙しいらしく、席にはいない。
「元気がないな」
「大丈夫……?」
そんな状況で3人で豪勢な料理を食べているが、オリビアさんだけが、浮かない顔をしている。
明らかに食の進む速度が遅い。
「昨日、上手くいかなかった……」
「話し合い?」
「うん……」
確かに、昨日は夕飯になってもオリビアさんは顔を出さなかった。
それほど話し合いは難航していたのはわかっていたが。
オリビアさんの落ち込み具合を見れば、話し合いは失敗した事がわかる。
「ご当主、気難しい人?」
「いや、普段は穏やかな人なんだが」
「違うわよ、結構な頑固者だわ……全然取り合ってくれない」
私が聞くと、ジークさんが答えたが、すぐさまそれをオリビアさんが否定する。
それからオリビアさんはベーコンをギゴギコとナイフで力強く切りつけながら、ちくしょう、とつぶやく。
普段はどちらかと言えば穏健なオリビアさんがいらだちを隠せていない。
私が驚いていると、それを見たジークさんはため息をついた。
「その姿、他の人には見られるなよ」
「……もちろんよ」
そう静かな声でオリビアさんは答えたが、手にかかっている力が弱まる様子はない。
相当手強かったのか、相手の態度が悪かったのか、そのどちらもだろうか。
「んぐっ、そう言えば、今日は街にまで降りるのよね。フェリスちゃんは冒険者登録をするの?」
「あぁ」
「はいっ」
オリビアさんが口にほおりこんでいた物を無理やり飲み込み、今日の予定を聞いていた。
私たちが返答すると、そのまま少しうーん、と視線を上へ向けた後、こちらを再度向いてきた。
「私もついて行っていい?」
「えっ」
「それは構わんが、話し合いは良いのか」
「午前は忙しいらしいから、大丈夫だわ」
「そうか」
私と同じことを考えたジークさんが聞くが、午前中はどうやらオリビアさんも暇があるようだ。
一緒にいてくれるのは嬉しい。
そのまま話は続き、オリビアさんも一緒に街へ行くことが決まった。
「荷物はちゃんと持ったか?」
「うん。」
「よぉーし、出発しんこー!」
朝食が終わり、支度が終わった私たちは門の前にいる。
隣を見ると、オリビアさんが腕を空に振り上げている。声こそ大きくはないが、異様のテンションだ。目をキラキラさせる。
「お前、そんなキャラだったか?」
「うっ……気晴らしがしたいの……」
オリビアさんが顔を赤らめながら言う。
そんなオリビアさんの背中をポンポンと叩くと、凄く微妙な顔をしていた。
「はぁ……えっと、行こうか。」
その声に応じて街までの道へ移動した。
それから半刻ほど歩いていくうちに、街の喧騒が聞こえてくる。
その声の大きさに驚く。思わずジークさんの服の裾をぎゅっと掴むと、それに気づいたジークさんが頭を撫でてくる。
「まずはどこへ行くの?」
オリビアさんがそう言ったので私はジークさんの方を見る。ジークさんは片腕を顎に当ててうーん、と考えていた。
「まず、冒険者の旅に必要な用品、バックやタオル、常備薬を買い集める。それからフェリスの自衛用の剣だ。」
「まぁ、そんなところよね」
それから少しして、大通りにある商店や、小道に入った所にある小道具屋など、様々な店に入り、物を買っていく。
途中で出店のスイーツを食べたり、ちょっとした装飾なども見て回ったりした。
今は噴水広場のベンチに座りながら休憩をしている所だ。
「女の子は、こんなに物が必要なのか」
「当たり前でしょ」
「そ、そうか……」
そう言って、ジークさんは手に持ったお菓子を口にほお張り、あらぬ方向を向いてポケーとし始めた。
「ついてきてよかった……まったく、私がいなかったら絶対になにか買い忘れがあったわ……」
そんなジークさんを見て、オリビアさんはやれやれと息を着く。
ジークさんは相変わらずのマイペースぶりだな、と思いながら買い物中に疑問に思ったことをオリビアさんに問いかける。
「オリビアさんも、よく、知ってるね……この街のこと」
出店で買った揚げ菓子のようなものを口に頬張りながら聞く。
「私は、以前ここに住んでたから……」
オリビアさんは咀嚼する口を止め、答えてくれた。
「えっ!そう、なんですか……家族、一緒に?」
そう聞くとオリビアさんはゆっくりと目線を落とし、沈黙した。
(あっ、これ、聞いちゃダメなやつだ……)
昨日の夕餉の時のことを思い出す。
アリアさんのお母様のことを聞いて、場の雰囲気が落ちてしまった時と同じだ。
そう思った私は、慌てて先程の言葉を否定する。
「なっ、何でも、ない……」
しかし、ゆっくりとこっちに視線を戻したオリビアさんはほのかに笑うと、こちらの頭を撫でてくる。
「ううん、大丈夫だよ。……そろそろ次に行こうか。」
そう言ってオリビアさんは立ち上がると、1度ジークさんの頭をはたいてから移動していく。
ジークさんはそれにハッとした後、立ち上がって地面に置いた荷物を持ち上げ、歩き出す。
私はそれに追従した。
結局は何も聞き出せてはいない。オリビアさんがこの街の出身と言うことだけだ。
だが、私にも重苦しい過去があるように、他の人も同様に何か抱えてるとは分かった。
今後は発言に気をつけようと思いながら5分ほど歩き、1つの建物にたどり着く。
その様相からは塗り壁と木から造られているのがわかる。少し建ってから年月がたったのか、ところどころ煤がついている。
だが、中からは昼間だと言うのに、大声で騒ぐ声が聞こえる。
そして、建物全体からは酒の匂いがほのかに香った。
その建物からぶら下がっている看板にはこう書かれていた。
『冒険者組合』
ついに、冒険者登録の時間だ。




