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夕餉

「うふふ、ごめんなさ〜いねっ、主人はオリビアさんと話してる〜のっ」


 席についたら、エイダさんはそう言った。

 確かに周りを見渡すとオリビアさんの姿もない。


 ここへはお昼頃に到着したはずだが、相当話し合いが長引いているようだ。


 そう思っていると、エイダさんがパンパンと手を鳴らす。

 すると、私たちが入ってきた扉とは別の所から人々が食事を運んできた。


「今日は、おいしぃご飯を用意したのぉよっ!伯爵領で取れたサリヤの実がたぁ〜んと、使われてるのよぉ〜」


「サリヤ……?」


 自分の目の前に運ばれた料理を見る。パスタのような麺に黒い実がいくつか乗ってる。


「サリヤはね!この屋敷の周りにもあった木々からとれる実なんだ。ちょっとくせはあるけど、美味しいよ!」


「へぇ…」


 ヒューイがそう説明する。少し大きめの実だ。確かに、料理から漂ってくる香りじたいはとても美味しそうだ。


「あぁ、でも生で食べちゃめ〜よ?ちょっと毒があるからねぇ〜。昔、それにハマって死んじゃった人もいるのぉよ?」


「えっ!」


 エイダさんから注意がくる。人が死ぬほどの毒があるとは。エレキドリルと言い、サリアといい、人が食べているものには毒があるものが結構あるようだ。


「うふふ〜、もう加工してあーるから、安心よぉ?たぁ〜んとお食べぇ」


「は、はいっ」


 そう言って運ばれた料理に手をつける。まずはサリヤが入っている、パスタもどきのものからだ。

 フォークに絡ませて口まで運ぶ。


「んっ……」


「美味しい?」


「うん」


 モグモグと口を動かすと、酸味のある味が口に広がった。確かにヒューイが言う通りくせはあるが、美味しい。


「うふふ、前回の収穫はいーつもよりも良いものが採れたからねぇ。こーんど、果樹園に行ってみたらい〜いわっ」


「その時は俺が案内したい!」


「た、楽しみ……」


 エイダさんはニコニコ笑いながら言うとカタンと音を鳴らしながら、ヒューイがそう勢い良く主張してきた。

 私はその言葉に笑顔になったが、それとは逆に、エイダさんは困ったように眉を寄せた。


「あぁ〜ら?ヒューイ、俺じゃなくて僕か私、でしょ?それに食器を鳴らしちゃめ〜でしょ?」


「あっ………お母様、ごめんなさい」


「ふふぅ〜、わかれば〜いいのぉよっ!すぐに謝れていい子ねぇ」


 エイダさんはやんわりと注意し、それに対してヒューイはしょんぼりと謝った。

 そしてエイダさんが許すと、ヒューイも笑顔になる。

 良い親子関係を築けているようだ。


「ところ〜で、あなた達は明日、どぉ〜するの?1週間はここにいるでぇしょ?」


 エイダさんがジークさんの方を向いて聞いてきた。

 それに対してジークさんもフォークを置いて答える。


「そう、ですね。明日の午前は町を見て回れたら良いかと。これから1週間は身辺を整えようと思っています。その中でフェリスの冒険者登録をします。」


「そぉ〜、フレドルに良いお店がなぁいか、聞いたらよいと思うわ〜。フェリスお嬢ちゃんは〜、明日冒険者なるんだぁ〜」


「はっはい」


「まだ小さいからだぁーいじょうぶだと思うけど、試験があったらがぁんばってね?」


「あ、ありがとうございます?」


 突然話を振られて驚きつつも返す。

 そう、明日は冒険者登録をしに行くのだ。

 まだ小さいからという言葉にハテナを浮かべる。

 それにしても、前世で見たアニメのように、荒くれた人達がいるのだろうか。

 そう思っていると、ヒューイから声がかかった。


「午後はおねえちゃんは暇なの?」


「たぶん」


 ちらりとジークさんの方を見ると、ジークさんはコクリと頷いた。

 それを見たヒューイは喜色を顔にうかべてこちらを見る。


「それじゃあ、明日の午後はおれ……えっと僕と探検しようよ!」


「探検?」


 その様子にエイダさんは苦笑いを浮かべる。

 

「うん!この家を見て、庭を見て、えっと、後は湖があるから、そこにも行こ!」


「み、湖?良いの?」


 この部屋に来る前にフレドルさんと話したことを思い出した。確か、湖周辺は進入禁止区域のはずだ。


「うん!湖の奥の方はダメだけど、手前なら───」


「ダメよ」


 そう、自慢げに語っていたヒューイだが、突然のエイダの低い声にビクリと体をはねさせる。


 エイダさんの方を見ると、豊かな表情とは打って変わって、感情の伺えない冷たい顔をしている。


「湖はダメよ」


「で、でもお母様!この前は、」


「ダメよ」


 エイダさんはヒューイに二の次も継がせずに否定していく。

 その姿は先程ヒューイに注意した時とはまるで違う。


 まただ。ピリリとした空気が流れる。エイダさんの放つ圧で、その場は重苦しい空気に包まれた。


「………ごめん、なさい」


「……」


 そのままエイダさんはじっとヒューイを見つめる。しかし、数秒たった後にガラリと空気を元に戻した。


「やぁーん!つよぉく、言い過ぎたわねぇ〜!あなた達もごめんなさぁい!」


 エイダさんはジークさんと私を見てそう言った。

 私はオドオドとはい、と返事をした。

 その後はエイダさんがまた明るい雰囲気で話し始めることで、元の空気に戻った。


(エイダさん、こわぁぁぁあっ!)


 今は少し脳天気な話し方をしているが、お腹に一物を抱えていそうだ。

 ただの人ではない、と思った。


 それにしても、進入禁止区域と言い、エイダさんの様子といい、何か湖にはあるのではないか。


 そう思っているとエイダさんがこちらを見て、意味ありげにニッコリと笑う。


 それにビクッと反応すると、エイダさんは口に手を当ててクスクス笑ったが、すぐにくるりと顔を元の方向に直した。


「ジークちゃんっ!アリアちゃ〜んは、げんきぃ?」


「はい。ご健在です。お忙しくされています。今は────」


 少し脱力してから目の前の料理をつつく傍ら、ジークさんとエイダさんの話を聞く。

 

 しかし、どういうことだろうか。

 ジークさんをちゃん付けするのはまだ分かるが、貴族であるアリアさんまでちゃん呼びとは。


「あらぁ、私の顔に、なぁにかついてるぅ〜?」


「いっいえ!」


 つい、エイダさんの顔を凝視していると、それに気づいたのか、声をかけてくる。


「あっあの、エイダさんとアリアさんって、どういう、ご、ご関係ですか……?」


「………そぉねぇ、ほら、私の目を見てぇ」


 少しの間があったのが気になったが、エイダさんの目を見る。すると、その瞳はアリアさんと同様のアメジストだ。


「アリアさん、と同じ……」


「ピィーンポォーン!アリアちゃんは、私の姪っ子よぉ〜?」


「えっ!」


 そうか、アーウェン男爵家とオーダム伯爵家は親戚だ。

 だが、姪っ子とは、エイダさんの若々しい姿ではアリアさんより少し年上に見えるだけで、そうとは考えられない。


「あらぁ〜!何だか嬉しぃ事考えてそぉ〜!アリアちゃんのぉ母親は私のいもーとよ?髪色は父親似でぇ、めぇはオーダム伯爵家のものなぁのよっ?」


「そ、そうなんですか?」


「ぇえ!それにぃ、性格も普段は父親似だけどぉ、いざって時はぁ、私たちオーダム伯爵家の勝ち気ぃな所があるぅの!」


 可愛いでしょ、とエイダさんはクスクスと笑う。

 

 もっと大元は離れていると思ったが、親戚になったのは最近のようだ。

 だが、アーウェン男爵家ではアリアのお母様を見ていない。

 アリアさん同様、忙しい方なのだろうか。


「アリアさんの、お母様……って、今は何をしている、んですか?」


「……」


 そう思い聞くと、その場がシーンとなる。

 

(な、なんかやらかしちゃった……?)


 しかし、少しの無言の後、ジークさんが答えてくれる。


「……アーウェン男爵夫人は、革命時に、お亡くなりになられた。」


「えっ!……聞いちゃって、す、すみません」


 不味いことを聞いてしてしまった。

 慌てて謝罪すると、エイダさんから声が上がった。


「…まぁあ?知らなかったよぉだし、仕方がないわぁよっ。気にしなぁいでぇ〜」


 そうエイダさんにとりなされる。

 それからまたもやエイダさんの明るい話し方で元の雰囲気に戻る。


 その後も会話を楽しみつつ、夕餉は進んだ。


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