オーダム伯爵家
だんだん、低い木々が増えてきた。オーダム伯爵家特有の木らしい。それから少しして門が見えたと思ったら、ガタっと馬車が止まった。
「どうした。」
「は、はいっ!オーダム伯爵家からの使いの方が来まして……」
壁に着いた小窓から顔を出し、ジークさんが御者の人に声をかける。
そう言われ、ジークさんが外に出てみると1人のベストを着こなした男性がいた。
「どうされましたか。」
「お久しぶりです、ジーク様。実は先日━━━━」
それから使いの方が話した内容をまとめると、先日伯爵家でボヤ騒ぎが連日あったそうで、調査のためにヒューイ含めた伯爵家の人達は離れにいるらしい。原因は現在調査中とのこので詳しくは分かっていないが、人為的なものである。
ということで、私たちは離れの建物へ移動するように誘導しに来てくれたそうだ。
(伯爵家が、ボヤ騒ぎ。それが何度も……?)
兵力整備拡大を行った伯爵家がそんな事をみすみす許してしまうのか。
それは不自然な気がする。
ヒューイは無事なのだろうか。
それに━━━━━━
(……いけない。夢のこととか遠視のこととかで、ヒューイに関して神経質になってる。元気にしてるって言ってたし、そこまできにする事じゃないよね……)
私はふぅと息を着いて深く座席に座り直す。
戻ってきたジークさんを乗せて、馬車は進行方向を変えた。
「見えてきたね。」
私はその言葉に反応して窓から外を見た。
遠くに一件の大きな屋敷が木々に囲まてれあった。
(うわぁ……離れって聞いてたのに、でっかいなぁ……)
さすがは伯爵家だ。規模が大きい。
それから少しして屋敷の目の前に到着する。
屋敷の様相を見てみると、青い屋根に白い壁。装飾のなされた窓が規則正しく付いている。
その屋敷の手前にある庭園には色とりどりの花々と噴水が体よく並んでいる。
アーウェン男爵家は堅牢な雰囲気だったが、オーダム伯爵家は華美な感じだ。
これが離れというのだがら、伯爵家の財力は相当に凄いのだろう。
「よくぞいらっしゃいました。」
「少しの間、よろしくお願いします。」
視線を手前に戻すと、そこにはジークさんと老齢のスーツを来た男性がいた。伯爵家の人だろうか。
「はい。長旅、お疲れ様でした。本日からよろしくお願い致します。執事のフレドルと申します。お荷物は他のものに運ばせますので、まずは屋敷の中へどうぞ。」
そう言って綺麗なお辞儀をしたあと、フレドルさんは屋敷へと踵を返し、私たちはそれに付いて行った。
そうして、少し長い道のりを歩く間、私は整備された庭園を見惚れていた。
「お嬢様。お気に召していただけましたか?」
「っ!はい……」
私が食い入るように見ていたのに気づいたからだろうか。フレドルさんが話しかけてきた。
それに驚いて返答すると、フレドルさんは上品に笑い、言葉を続ける。
「こちらは伯爵家自慢の花や木々を並べておりまして。本邸ではより鮮やかな庭園を用意しておりますが、それをお見せできないのは残念です。」
「ここより、綺麗、ですか……?」
「はい、そうですとも。それに加え、本邸の近くには湖もございまして、その湖がとても綺麗なのです。気候が温まった時にはほのかに光っているのですよ。」
「ひかる……?」
蛍のようなものだろうか。豪奢な屋敷に手入れのされた庭園。そのすぐそばには光る湖。
その全貌は、さぞや幻想的なのだろう。
行ってみたい、などと思っていたら離れの扉までたどり着く。
「さて、本日のご予定ですが、オリビア様は後ほどご主人様が時間を取られると仰っておりましたので、客間にてお待ちください。ジーク様とお嬢様は先に宿泊する部屋までご案内致します。夕食の時にオーダム伯爵家一家と会っていただきます。そこにヒューイ様がおられますよ。」
そう言ってフレドルさんは最後に私を見てニコリと微笑む。
(ヒューイが!)
ヒューイという言葉に私はドキッとした。
様々な期待や不安がないまぜに心の中をよぎる。
「では、こちらへどうぞ。」
そう言ってフレドルさんは扉を開けて中へと入っていった。
その時にオリビアさんには扉で待機していた新たな制服を着た青年が一声かけて別の方向へと案内をしていた。
ここからはオリビアさんと別行動か、と思いつつも私は胸が高鳴るのを感じながら、フレドルさんに付いて行った。
案内された部屋に入ると。いくつかの家具が品よくある。荷物はすでに運び込まれていた。
「早く、会いにたい……」
「あと少しの辛抱だ。今はヒューイも忙しい時間だろう。」
フカフカのベットに寝転がりながら言うと、ジークさんがそのつぶやきに返答してきた。
それにしても、まだ幼いヒューイが忙しいとはどういうことか。
私は体制を起きあげ、つい馬車の中で反省したばかりなのに、咎めるように聞いてしまう。
ジークさんは顎に手を添え、ゆっくりと話す。
「忙しい?ヒューイ、何しているの?」
「うーん、ヒューイは伯爵家に養子として引き取られた子だ。今は貴族としての教育を受けているはず。」
「貴族!?」
その言葉に驚いた。私が知っているヒューイは言葉数こそ少ないが、ひとつの所にじっとしていられない子だ。貴族らしくしているイメージなんて思い浮かばない。
「あぁ。聞いたところ、ヒューイは勉学の才があるらしい。あったら驚くと思うぞ。」
私はすでに驚いている。
(もし、ヒューイに頭の良さで追い抜かれていたらどうしよう……私の方が歳上なのに!)
そう言って頭をうーんと悩ませていると、ジークさんは頭を撫でてきた。
それに少し頬を赤らめつつも、私は悩む。
この世界の知識を私はあまり持っていない。最近は言葉を勉強し始めたから、前よりも片言な話し方は治ってきているが、まだたどたどしい。それに、前世では勉強をあまりしてこなかったから、私自身の頭もあまり良くないかもしれない。
(もし、私よりヒューイの頭が良かったらどうしよ……おねえちゃんとしての尊厳がっ!)
最終的には、それを今更考えても意味は無いか。と思い、ベットに寝転んで脱力した。
何より、ヒューイとの再会が楽しみだ。
夕飯時が待ち遠しい。




