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出会い

「酒はどこだぁ!ぉおい!こいつ!」


────ごめんなさい!ごめんなさい!許してください!!


「うるさぁい!たくっ!」


────いっ!……たぃ……いたぃよぉ……うぅっ、


「養ってもらっている分際で!こいつ」


────ぁっ!ご、ごめんなさい!ごめんなさい!


────なんで、なんで、こんな目に……


「それはお姉ちゃんが私たちをおいていったからだよ」

「そーだよ」


────あぁ、あなた達、ごめんなさい、本当に、置いていって、ごめん、な、さぃ…………ぅぅ


「姉ちゃん、痛いよぉ」

「逃がしてやったのに、あなただけいい思いをして、ひどい」


────おねぇちゃん!違うの……違う、違うのよ……ごめんなさい……ぅぁ………


「おい!!逃げるな!!爪が上手く取れんだろぅ!!」


────ぁあ!許してください!!もぅいや!!ごめんなさい!許して、ごめんなさい!!


「黙れ!!」




────なんで、なんでこんな目に

────あぁ、人が、人が

────コワイ





「ハッ!」


 鳥のさえずりが聞こえる。周りを見渡すと、石で囲まれた部屋だった。手元には自製の毛皮の掛け布団がある。


「ハァ……ハァ……ふぅ……」


(……どうやら、朝から酷い夢を見ていたようね。)


 ぐっしょりと濡れた額を拭いながら、調理場へと向かい、コップに水を注ぐ。


 それを一気に飲み干して頬を叩いた。


「よしっ!今日もがんばるわ!!」


 今日という一日がある。いつまでもうじうじとはしていられない。


 起きてすぐにやることと言えばまずは各部屋の掃除。とは言っても道具なんてないから魔法で軽く熱したり、ホコリを外にとばしたりする。


 あらかた片付けが終われば次は森の散策だ。壁に掛けている白い、骨でできた小刀を腰に括りつけ、上着を着て外へと出る。いつもと変化はないか。設置して置いた罠に何か掛かっていないか。食べれるキノコや香草、山菜はないか。などなどチェックしながら歩く。


「あちゃー。今日は収穫なし、かぁ。」


 もしここで食料を確保できれば日用品を作るために材料探しへ行動を切り替えるが、残念なことに何も得られなかった。


 そこでいったん洞窟まで戻り、弓と木の実を持ち出す。その赤い木の実は自分では食べれないが、いくつかの鳥の好物だということが、ここでの生活で分かった。それを撒き、木の上でじっとまつ。そうすれば一日のうちどこかでは鳥を確保することができるだろう。


 しかし、この方法は確実だが暇だ。


「うーん、やっぱり今日はうさぎ探しにしようかなぁ」


 うさぎは今いる洞窟よりかは森の奥まった場所に生息している。

 うさぎは警戒心が強くなかなか取りずらいが、魔法を応用して気配を上手く消せば狩れる。

 先日のホロホロ鳥で食料には余裕がいくぶんかあるので、今日はうさぎを取りに行くことにした。

 私は、鶏肉よりうさぎの方が好きだ。


 ということで、木の根ででこぼこな道を歩く。そろそろ森の歩き方は様になってきただろうか。何も出来なかった時期と比べ、出来ることが確実に増えていることに喜びを感じていた。


(────あれ?)


 うさぎの巣に差し掛かった時だ。空気に血の匂いが混じっていることに気がついた。


 この様ではうさぎも警戒して表には出てこないだろう。無駄足になってしまったようだ。


 その事にプリプリ怒りつつも、匂いの元を慎重に確認しに行く。自分の住んでいる場所の付近の生態系を把握しておかないと、不慮の事故に出くわすかもしれない。


 以前、何も考えずに森を散策していたら、1匹の狼と出くわした。あの時は魔法で追い払ったが、なんともバイオレンスな体験だった。


(ある日森の中、狼さんにであっちゃったよ!!心臓に悪すぎるわ!!)


 その日以降、狼がいた場所の方には近づいていない。おそらく、その奥に狼の生息地があると思われる。行かないったら行かない。冒険心なんていらない。


 そんな回想をしつつ、とうとう血の匂いが濃くなってきたため、木の上に上り、木伝いに移動していく。匂いの発生源はすぐそこだ。


────見つけ………た………。


 見つけた。何が怪我をしているのかわかった。


それは狼の時以上に自分に恐怖をもたらした。


────ひ、ひと!!!!


 自分を長年苦しめてきた、二足歩行のその生き物が今目の前にいるのだ!


 3年前より以前の恐怖が脳内をフラッシュバックしていった。あの日々の様々な痛みが自分の体を覆っているかのようだった。


「ふっ…ふっ…ふっ…ふっ!」


 何とか呼吸を整えていると、その音が聞こえたのだろう。こちらに声をかけてきた。


「誰かいらっしゃるんですか?助けてください!」


 その声にハッとし、よく見直すと、相手は女性で怪我をしているようだ。血の匂いの元は彼女のようだった。


(どうする?助ける?)


────こんな森の深くまで来るだなんて、3年前の追手かもしれない!

────近づいたら殴られるかも!

────魔法の力を利用するために私をとらえに来たのかも!


 ありえない可能性が頭の中をグルグルとする。


「お願い……助けてください!」


 しかし、だ。相手は苦しそうにしている。

それを見捨ておくのか?そんなの、今までのヤツらと同じじゃないのか?


 そう思い直し、不安を呑み込み、私はその人を助けることにした。


 震える体を叱咤して、木から飛び降りる。


────この出会いは明らかに、私の生活に変化をもたらすだろう。

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