男爵領到着
(フェッリッス〜♪♪フェフェフェリス〜〜♪わったしのなっまえはフェーリースー!)
鼻歌が弾む。
ついに、そう、ついにだ!私も名前を持ったのだ!
散々問題を起こした、私に名前がない状況だが、様々な物事が立て続いたことによって、その事がなぁなぁになってしまっていた。
名前は何度か考えようとした。だが、センスを持ち合わせていない私は、納得出来る名前を考え出せなかった。
そこで1番信頼のおけるジークさんに頼んでみれば、1週間もかけてフェリスという可愛らしい名前をつけてくれた。
その名前の意味もポイントだ。幸福が溢れますように、という意味があるんだと!
名前を得てから1週間弱、私は毎日その喜びを噛み締め、上機嫌に過ごしていた。
馬の上で鼻歌を何度も聞かされたジークさんは、さすがに苦笑いしていたが。
風邪。グリフォン。間者嫌疑事件。そして名前。
多くの出来事が起きた濃い約3週間の旅路の末、私たちは、アーウェン男爵領に到着した。
昼頃アーウェン男爵領に着いた時見えたのは100人以上の大勢の人。
みんながみんな、門の前に待機して、アリアさんの帰還を待っていたようだ。通達が先にあったのだろうか。
遠くに門が見えた時からすでに、歓声が上がっていた。
「アリア様!」
「ご無事でなによりで!」
「おかえりなさーーーい!!」
「にいちゃーん!!」
その歓声の中には騎士たちに対する掛け声も含まれていた。
男爵令嬢が帰還するだけで、ここまで歓迎されるのだろうか。
いや、きっと、ここが普通ではないのだろう。それだけ、アリアさんの影響は大きい。
改めてアリアさんの凄さを実感した時であった。
(これは……そりゃあ、王家も無視できないよね……)
ちなみに私は、轟音とも取れるその歓声に驚愕したが、後ろにジークさんがいたので、ふるえることも無く、無事に門をくぐれたのであった。
「さて、フェリスちゃんとジーク。あなた達はひとまず1週間ほど我がアーウェン家に滞在してもらいますからね?」
「あ、ありがとう、ございます……」
旅路の中で冒険者という今後の方針を決めた訳だが、まずは森の出発当時に決めた目的を果たさねばならない。
体験期間のことはもう良いが、施設の兄弟の2人、リーナとヒューイに合わねば。
ヒューイはアーウェン家の親戚の伯爵家にいるようなので、まずは男爵家にいるというリーナだ。
私は久しぶりに再開できることに興奮しつつ、ジークさんとアリアさん達と共に渡り廊下を歩く。
もちろん、騎士たちの護衛がついている。
(うわぁ、騎士さん達の視線が辛いよぉ……)
ハルビンさんとの騒動で私の過去が複数人にバレた。
そのせいで私には、騎士の人達から憐憫の目と困惑の目が向けられていた。
その視線に汗をたらりと垂らしているうちにも、アリアさんからの説明は続く。
まず、これからアリアさんの父親、つまりアーウェン男爵当主に挨拶をしにいくらしい。今歩いている廊下も、客間に向かっていっているようだ。
そこで挨拶を終えたら、なのだが……
(男爵の前で施設の事情を説明しないといけないなんて……)
自分のたどたどしい言葉で説明しきれるか心配だ。
3年前の救出作戦の事の顛末はアリアさんから旅路の馬車のなかで聞いている。だが、まだ施設で行われていた実験や行為を全て調査しきれていないらしい。
なぜなら立証人があまりにも少ないからだ。
施設の魔術士たちは全員、あの後自決したそうだ。いったい何が彼らをそこまでつき動かしたのか、不思議だ。
そして、子供の生き残りはリーナとヒューイの2人しかいない。
そこで、私はある疑問がふと浮かんだ。
(そういえば何で、2人しか生存者がいないの……?3年前の時は、姉弟たち以外の人間は全員敵だって思っていたから、生存者が2人しかいない事に違和感を感じなかったけど、アリアさんが言うには、騎士たちは子供達を保護しに行ったらしいじゃん……。他の保護されたはずの子達はどうし────)
「ここよ。」
「!」
アリアさんの声に思考を止め、前を見ると、そこには重厚な扉があった。
(で、でっかい……)
喉をコクリとならし、アリアさんのノック音を聞く。すると中からどうぞ、と声が聞こえた。
部屋に入ると、そこに居たのは燕尾服をピッチリと着こなし、日の光を浴びてキラキラとまたたくゴールドの髪をオールバックにまとめた男性がいた。
口元には、かり揃えられたチョビ髭とシワがある。目元はアリアさんとそっくりのタレ目だが、瞳の色はブルーだった。
彼をもし、一言で言うなれば────
(────イケオジっ!)
アリアさんと同様に美形だ。覇気を感じさせる姿勢正しいその立ち姿は本当にカッコ良い。
その見た目は少しだけ、いや虚勢を張るのは止めよう、かなり私の好みだった。
いつも初対面の人に感じる怖いといった気持ちは湧かない。声がアリアさんに似て柔らかかったからだろうか。優しそうだからか。イケメンだからか。それら全部か。
老けてさえいなければ、前世のテレビで活躍していたアイドル並ではないだろうか。私はそんな彼を食い入るように見つめた。
(カッコよ……)
「……りすちゃん……フェリスちゃん、フェリスちゃん!?」
「ハッ!」
「だ、大丈夫?緊張しているの?」
「い、いいえ!」
危ない、ここがどこだか忘れていた。慌てて佇まいを正して頭をさげる。
「おっ、お初にお目にかかりまにゅっ………フェ、フェリス、言います!!」
「フェリス???」
当主以外の全員が、顔にハテナを浮かべる。いつもと違う私の様子に驚いたようだ。それに、
(か、かんだぁぁぁあああ!)
もう私の心臓は爆発寸前だ。いつも感じる恐怖などとは違う勢いで、バクバクと鼓動している。
「ふふふ、これはどうも丁寧にありがとう。私はディラン・アーウェン。アーウェン男爵家当主だ。色々大変だったと聞く。この機会に我が領でくつろいでいってくれ。」
「は、はいっ!」
「かけてくれ」
「はいっ!」
(ディっ、ディラン、アーウェン!)
私は忘れないように心の中で名前を復唱しながら、指し示された椅子に座る。ディランさんは、私に合わせてくれたのか、少しだけ砕けた口調でその後も喋ってくれた。
私はちょっとだけその気遣いにキュンとしてしまう。
「────さて、フェリス嬢。この話はあまりしたくはないと思うが………3年前の事を聞いても良いか?」
「は、はい……」
とうとうこの質問がきた。私は予め、廊下で歩きながら考えておいた事を話す。施設の建物の具合や日々のルーティーン。どんな実験があったかなど、おぼえているだけ洗いざらい、拙い言葉でも言う。
「そうか……苦労したのだな。だが今、ここに君がいてくれただけでも良かった。」
「あ、ありがとう、ございます……」
最後にはそう締めくくられ、いくつかの言葉を交わした後、私たちは客間を出る。
扉が閉じた瞬間、私は緊張を解き、息を吐いた。
「はぁ……」
「つ、疲れた?頑張って話してくれたものね。今日はゆっくり休みましょうね。」
そして、まだ熱が引かない頬に手をそえ、ポツリとつぶやく。
「イケオジ……かっこよかった……」
「え!?そっちなの!?」
何故かアリアさん達が驚いている。
私はもう一度はぁ、吐息をついて、ポッと頬を朱に染めた。
今までずっと隠れていた主人公の内面が表に出てきました。
どうやら恐怖や緊張感を持っていない状態であれば、結構自由な性格をしているようですね。




