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名前

────ジーク・リンデン────


 最近、少女の様子がよそよそしい。


 食事の時、移動の時、話している時、様々な瞬間にじっとこちらを見つめて来る時があるのだ。


 その度に、


「どうした?」


 と聞くが、


「う、ううん……」


 と少女は頭をブンブン振りかぶる。


 このやり取りを一体何回やったのかジークには分かない。


 夕食の配膳を貰っていると、ほら、今もまたじっとこちらを見ている。


「………どうした。」


「う、ううん……」


 少女は頭を振ると、トテトテとどこかへ言ってしまう。


 ジークはちょっぴり寂しく感じた。


 だが、嫌われている訳では無いようだ。


 少女は誰かと話した後は必ず自分のそばに寄ってくる。不安を感じているのだろうか。


(かわいい……)


 ジークはフンッと鼻息を吹かす。時々ぎゅっとしがみついてくる少女にキュンとしていた。


 しかし、ジークは少女のその行動に、同時に悲しさや悔しさを感じていた。


 このような行動が見られるようになったのはハルビンとの事件があった後からだ。


 あの後、ジークはハルビンに説教をしていた。ハルビンからすれば、ただ威圧を掛けられただけなのだが。


 それでか、本人の良心の呵責でか、ハルビンは少女に対して騎士の最上級の謝罪をしていた。


 しかし、それに対して少女は曖昧な返事しかしていなかった。本心では許しきれていないのだろう。きっとそうだろう。


 ハルビンは最上級の謝罪でも許されないのかと苦しげな顔をしていたが、自業自得だ。


 それにあの事件のせいで、少女には大きな不安や恐怖を感じさせてしまった。施設の経験があるんだ、大人からの理不尽な行動が、どれほど少女を傷つけてしまったのかは計り知れない。


 現に、少女は時々突発的に涙を流す。

 その泣き声を聞く度に、ジークは守りきれなかったという悔しみを感じていた。


 どうすれば少女を救えるのだろうか。これからも魔法の恩恵と障害はある。それにどう対策すれば良いのだろうか。


 ジークはいつも、いつも、少女の事で頭がいっぱいになっていた。


 ジークは夕飯の肉を口にかきこみながら必死に考えていると、パチリとアリザックと目が合った。


 そうだ。こういう、1人で悩んで答えがでないものは、友を頼れば良い。ジークは知っている。


 ジークはアイザックに声をかける。


「後で」


「お、おう……?」


 ジークは説明をするのを忘れていて、アイザックは懐疑的な返事をしたが、すでにジークの頭の中は少女のことでいっぱいだ。


 モグモグと口の中を動かしながら、考える。





「んで、どうしたんだよ……」


 夜中、ジークとアイザックは集団から離れて木々にもたれながら話し始めた。

 ちなみに少女はすでに寝ている。


「最近……突然、彼女が泣いてしまうんだ。」


「……」


「どうしたらいいと思う。」


 アイザックが少しの間押し黙る。その表情は苦しげだ。


「カァー!俺の友人はいつも突然、難しい問題を持ってくるなぁ!」


 突然アイザックが声をあげ、空を仰ぐ。しかし、アイザックは一息ついて、いくつかの質問をしてきた。


「あーえーっと、それはいつからだ?やっぱ、この間の事からか?」


「そうだ。」


「そうか。そんで、お前は嬢ちゃんが泣いている時はどうしてるんだ?」


「背中をさすっている。」


「そ、そうか。お前がねぇ……。えーっとそれ以外、嬢ちゃんに対して、自分から何かしたり聞いたりしたか?」


「………そういえば、何もしてない」


「はぁ!?」


 アイザックに呆れられた。だが、今の少女はものすごく繊細だ。そんな中でどう聞けようか。

 それをアイザックにつたえると、彼は唸ったあと、ハッと顔を上げた。


「う〜ん、確かにそうだな……。って待てよ。お前、馬に乗っている時、ずっと無言なのか!?」


「そうだが?」


「かぁーー!お前を空気読めるやつなんて一瞬でも思ったのは間違いだった!このマイペース野郎が!」


「どうした?」


 突然アイザックが声を荒らげる。それに対してジークはキョトンとした。それを見たアイザックはため息を着く。


「はぁ、それじゃあ嬢ちゃんが気まずいだろうに……っとぉ、だいたいの原因は分かってるだろ?それに何かしねぇと物事は動かねぇ。行動で察しろだなんて、モテねぇ男がするもんよ!」


「俺はモテたいわけじゃないが?」


「たとえだよ!例え!えっとだから、なんか聞き出して、その悩みに1つずつ対応すればいいんじゃねぇか?ほおっておくのも、ただ時間が治してくれる問題じゃねえじゃんか。」


「………確かにそうだな。」


 これから男爵領に着いたあとも、様々な人に出会う。それまでに人に対する恐怖や彼女の悩みを解決した方が良いかもしれない。

 それに加え、問題の中身が中身なだけに、時間が経過すれば治るだなんて、ただ待つ訳にはいかない。


 それなら、早めに聞き出して、こちらが手を打って、少女を安心させよう。


 「それに嬢ちゃんは女の子だぜ!いつまで古い服着させてんだよ。ここは配慮ってもんが────」


 アイザックはそう結論づけ、次に少女に何と話しかけて何と聞き出せばいいか考える。

 気の利いた言葉なんて自分が返せるわけが無い。いくつかの予想される返答に対する返答を頭の中でシュミレートさせた。


「そんで………って聞いてんのかよ!?」


「あ………すまない。」


「………はぁ、今出せんのはこれくらいしか無さそうだ。大丈夫か?」


「あぁ、ありがとう。助かった。」


「あいよ」


 アイザックはまたもや息をつく。しかし、その目には必死に唸りながら考えている、知己の姿があった。

 その姿に、アイザックは内心上手くいくことを願った。





 翌朝。馬の上でジークはさっそく話を切り出した。


「何か不安に思っていることはないか?」


「え?」


「何でもいい。これからの事とか人へのこととか、不安や不満を抱えてないか?」


「不安………」


 少女は突然声をかけられた事に一瞬呆気にとられたようだが、直ぐに俯いた。


 スカートの端をぎゅうぎゅうと握っているのが伺えた。


「時々、お前が辛そうにしているのを見ていると、俺はどうするべきか分からなくなる。だから、不安にさせている何かを解決したい。」


「……」


「何もないか?」


「………これからどうなるんだろうって…魔法の事がバレたから、また何かに自分が誰かに使われるんじゃないかって………不安、なの。」


 少女は幾度か瞳をゆらし、小さな声で答える。


(将来への不安、か……)


 確かに今回、大人数に知られてしまった事で魔法の存在は人々の中で広まるだろう。国からの勧誘もあるだろうし、各家門の権力争いに利用されるかもしれない。


 その状況不安を覚えることは当然だ。


 何か、良い立場はないだろうか。権力に囚われず、自由に行動出来て、ジーク自体も守っていける立場が────


「あっ」


「どう、したの?」


「────冒険者になるのはどうだ?」


「ぼうけんしゃ……?」


 少女がこちらを見上げてくる。少女と目が合ったジークは頷く。


「冒険者は自由な職業だ。国家間の行き来もしやすい。それに高ランクでない限り、指名依頼もされないから縛るものはそうない。それに、」


「それに?」


「俺も冒険者だ。今はアリア様からの指名依頼で護衛をしているが、動きやすい立場にある。……だから、お前を守りやすい。」


「!!」


「どうだ?」


 少女は俯く。ジークはその動きに失敗だったかと思い、少し残念に感じた。


 しかし、よく見ると少女の耳が赤い。顔がにやけているようだ。


 ジークは沈みかけていた心が浮上してきたのを感じた。


「ど、どうだ?」


 ジークは顔を明らめ、再度聞き直す。それに対し、少女は小さく頷いた。


「冒険者、なりたい、かも……」


「考えておいてくれ!」


 ジークは内心でガッツポーズをとった。

 ジークは自分の頬が緩んでいくのを感じた。

 すると、

 

「ジークさん……」


「どうした?」


「私、名前、ないです……」


 突然の言葉に動揺する。なんて返して良いのか分からず、口をパクパクさせた。


「だから……」


「だ、だから?」


「私、ジークさんに、私の名前、決めて欲しい……」


「!!」


 ジークは自分の心臓が強くドクンと波打つのを感じた。

 顔に、無意識に満面な笑みが浮かんできている。ここまで心がわきたつ事なんて、いつぶりだろうか!


 ジークはゆっくりと頷いた。


「……分かった。責任をもって考える。」


「お、お願いします……。」



────そうして、ジークが1週間悩み抜いた結果。


 少女の名前はフェリスに決まった。


 その名には幸福に溢れますように、という願いを込めたそうだ。




 37話にしてようやく主人公の名前が定まりましたね。

 今回はジーク主体の分として、いつもと違った雰囲気で書いてみたのですが、いかがでしたか?

 筆者はちょっとアホっぽいなと思いました笑

 でも戦場では先頭に立って指揮する高い判断力はあるようなんですよね。

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