ゆっさゆっさトントン
────怖い、怖い、怖い、怖い!
久しぶりに大きな痛みを感じる。体重がかけられている背中は、ミシミシと軋む。
「うぅ……」
だが、こういう時こそ落ち着かなければ。施設にいた時だって、大きな痛みはゆっくりと歯を食いしばって耐えればいい。
私は必死に力を込めた歯からもミシミシと音がなるのを聞き取りながら、状況把握に努めようとした。
「──── どこからかの間者やも知れません!」
「!!」
頭上から発せられる大声に、体がビクリと反応した。しかし、恐怖心を呑み込み、会話の内容を振り返る。
────孤児だと偽って
────魔法の使用
────爆発
そうか、確かに、今までの話を振り返ると、私は相当怪しい子供だ。
ただの孤児かと思えばアリアさんとはやけに親密そうで。返答は7歳の子供らしくなく。爆発を起こせて。そして、魔法を使える。
私も、そんな子供がいたら怪しむだろう。
(だけど、それは全ては転生と施設のせいよ!私が好きでやったことじゃないのに!!)
そんな愚痴を心でこぼすが、状況は変わらない。
気づけば、言葉で熱くなったのか、ハルビンさんからかけられる体重の圧が先程よりも増えてきた。
何もかもが理不尽だ。今世で生まれてこの方、苦労しなかったことはない。いや、それは前世からだ。
そう思うと、ブワッと心の底から悲しみ、怒り、悔しみ、恨みなどといった負の感情が沸き立ち、溢れる。口からは勝手に嗚咽がもれた。
「ううぅぅぅ……ぁぁ……」
心のどこかでは、冷静に、冷静にと思う。だが、思考は暴走していく。
いつもそうだ。誰かに頼れると思えば、1人になって、苦しい思いをする。前世では母親から父親のもとに置いていかれ、今世では母親から引き離され、施設で兄弟ができたと思えば1人になる。そうだ、人になんて頼れない。人といれば私は──────
「私がその責任を受け負います。」
しかし突如、そんな思考の中にスっと、落ち着いた声が入り込んできた。
(────え?)
顔を上げる。そこには、ジークさんが立っていた。
「その少女は私が保護し、アリア様に頼み込んで同行させていただきました。何か問題があれば、その責任は私が受け負います。」
「ハルビン。手を離してください。さもなければ、私はこの剣を手にし、抵抗するでしょう。」
「いいえ、私は今、冒険者として雇われいて、騎士では無いので。」
次々と、ジークさんがハルビンさんを言葉で押してゆく。
(────なんで!私と関わっていてもいいことなんてないのに!!)
どうして、自分の身を危険に晒しながらも助けようとしていくのか。
私は、呆気に取られて、あれほど溢れてきた涙を止めていた。
「ありがとうございます。」
ジークさんに気を取られていると、いつの間にか背中にかかっていた重圧が無くなる。
動揺している私を、近づいてきたジークさんは抱えあげた。
そして、ゆっさゆっさトントンと、背中をさすり揺らしてくる。
それはいつぞやのものと変わらなくて。
私を守ってくれようとする動きで。
(────守ってくれるの?頼っていいの?)
ゆっさゆっさトントン。さすってくる手のひらが暖かくて。
「うぅぅ、あぁあぁああああああ」
大きな安心を感じた私は、泣いて、泣いて、泣いて、泣いた。
あんなにもマイペースでKYだったジークが……
かっこいい………!!




