言葉の押収
────アリア・アーウェン────
「ピィイィイイイ!!!!!」
朝食をとっていると、突然鳴り響いた甲高い鳴き声が聞こえてきた。
「何事なの!?」
慌てて音がした方を見る。馬車の窓の外にいたのは、
(グリフォン!?)
「アリア様!」
突如現れたグリフォンは、想像よりも小さかった。様々な情報の量に動揺してしていると、騎士たちから声が上がる。
ここで外にでれば、1番近くにいる人間の自分がいの一番にグリフォンに襲われる。今は騎士たちに任せるべきだ。
その声を聞いたアリアは冷静に馬車のなかで待機する事にした。
そうかと思えば突如、
『────ゴォォオオオン!!!』
「きゃっ!!」
突如轟音が鳴り響く。その事で馬車は大きく揺れる。アリアはその衝撃に座席に倒れ込む。
「ば、爆発……?」
馬車の中でカタカタと音がなる。
その揺れに椅子にしがみつきながら、轟音の原因を探る。
しかし、突如起こった爆発は人が起こせるものではない。護衛に来たした騎士たちにはそんな兵器を持ち合わせてはいなかったはずだ。
この威力の爆発は、自然災害か、魔術、魔法でさえなければ────
(────魔法!!!)
少女の事が頭をよぎる。
動揺しきったアリアは、先程の自分が下した決定を忘れて外に飛び出す。
「ケホッケホッ!」
馬車から飛び出した瞬間、景色は白にまみれる。
思いっきり息を吸ってしまったアリアは煙幕を吸い込んでしまう。
咳をして、喉に入り込んだ煙を吐き出していると、煙が薄れ、だんだん景色が鮮明になってきた。するとぼんやりと人影が見えてくる。
目を凝らして、目の前の影を見ると────
「────ハルビン!?」
少女に剣を向ける従者の姿があった。その声に気づいたハルビンはこちらに目を向ける。
「アリア様!ご無事で何よりです!」
「ハルビン!あなたは何をしているの!離しなさい!」
「なりません!危険です!」
「危険じゃあないわ!今すぐ離しなさい!!」
言葉の押収をかわす。だが、ハルビンは一向に引かない。
「この少女は突然爆発を起こしました!昨夜の戦闘でも、高度な魔法を使用していました!」
「話は聞くわ!けれどまずは手を離しなさい!」
「なりません!」
「うぅ……」
下から少女のうめき声が聞こえる。アリアはその声に息を呑んだ。だが、
「この少女は孤児だと偽ってアリア様達に取り入った模様です。ですが、魔法の使用に加え、賢い姿も垣間見えました。それに加え、アリア様の近くで爆発を起こしました!魔法を使って姿を偽った、どこからかの間者やも知れません!」
「ハルビン!!」
そのハルビンの声に騎士たちからは動揺の声が聞こえる。
ハルビンは騎士たちの部隊長。それに加え、革命時の戦歴で騎士たちからの支持も厚い。
そんなハルビンからの言葉の存在は大きい。
騎士たちからの視線の1部には、少女に対する敵意のこもったものが混じり始めた。
(どう切り抜けましょうか……少女の事情を全て話す訳には行かないわ……だけど、説明しないとこの場は切り抜けられそうにない。でも、それだと少女をまた傷つけるかも……!)
「ううぅぅぅ……ぁぁ……」
「!!」
少女の顔から涙が滴り落ちてきた。森から出発する前、守ると決めたばかりなのに、またもや少女に恐怖を覚えさせてしまっているこの状況に、アリアは自責の念にさいなやまれた。
「……ハルビン、その手を即刻離しなさい。さもなければ、重大な命令違反として、あなたを罰せねばなりません。」
「構いません。アリア様のためなれば、どんな罰でも受け入れましょう。」
「っ!」
場が膠着する。アリアは自分を本気で心配している騎士をどうすれば良いのか、遂に分からなくなってしまった。
頭の中で様々な言葉が思い浮かび、消えていく。
しかし、アリアが瞳を揺らしていると、
「私がその責任を受け負います。」
ジークが突然入り込んできた。
「ジ、ジーク……」
「ジーク!お前はアリア様の身を危ぶまないのか!」
「その少女は私が保護し、アリア様に頼み込んで同行させていただきました。何か問題があれば、その責任は私が受け負います。」
「それとこれとでは、話が違う!1度こいつを拘束し、話を聞きださねばならん!」
「ハルビン。手を離してください。さもなければ、私はこの剣を手にし、抵抗するでしょう。」
「!!」
ハルビンがその言葉に瞠目する。ジークは腕の立つ剣士だ。もしこの場で暴れられたら、アリアと騎士たちに及ぼう被害は小さくはない。
その言葉は、ただならぬ緊張感をその場にもたらした。
「お前は……主に牙を向けるっつぅのか……」
「いいえ、私は今、冒険者として雇われいて、騎士では無いので。」
「……」
「もし、その少女が危害をアリア様に、あなた達に加えたら、私の首を討ち取ってくださっても構いません。」
ジークとハルビンが視線をかわす。ハルビンはジークに意思に引く気は無いことを感じた。
「………わかったよ、責任はおめぇが持て。」
「ありがとうございます。」
そうして、ハルビンは少女から手を離した。
ジークは解放された少女を抱えあげ、その背中をさすった。
「うぅぅ、あぁあぁああああああ」
少女の鳴き声が響き渡る。
アリアは一応状況が変わったことに対し、息を吐いた。




