グリフォンとの戦い
駆け足で移動する。
(やっぱり、さっきの獣かなにか以外の気配が感じられな──────!)
音魔法を展開しながら歩みを進めていると、先程までいた方向から、かすかな鳴き声が聞こえてきた。
その音からはただならぬ圧を感じる。
「なに、これ………。ケホッ」
やはり異常だ。ハルビンさんが危ない。
そして、それとは関係なしに、倦怠感が体を襲った。風邪がぶり返してきたのだろうか。
だが、私は走る速度をよりはやめ、ジークさん達の元へ向かった。
────ハルビン・コックス────
(────クソっ!)
地面に足を踏み込み、横へ移動する。しかし、それでグリフォンの爪の攻撃から逃れられたと思いきや、別の方向から、くちばしが迫ってきた。
「こんのぉっ!!!」
ハルビンは右手にもった剣をひるがえし、そのくちばしを薙ぎ払う。
ハルビンは何とか難を逃れるも、グリフォンは残った衝撃を緩和させるように頭をフルフルとさせ、すぐに体制を整えた。
「グルルルル……」
(ダメージなしかよ……。)
大なぎに振り払ったのにも関わらず、グリフォンのくちばしにはうっすらとしか剣筋が着いていなかった。
改めて魔物の恐ろしさを感じる。
(仲間は呼びたいが、アリア様がいる所までこいつらを連れていくはいかん……。それに2対1はキツイな。)
運悪く、今は煙幕も持ち合わせていないし、今いる場所から大声を出しても、巡回のもの達に声が届くのかも分からない。
むしろ、大声を出したら、相手をより興奮させるかもしれない。
誰か、グリフォンの鳴き声や戦闘音に気づいてくれればいいのだが。
(じょっちゃんに応援を呼ぶよう頼んどければ良かったぜ!)
ないものねだりしても意味はない。この現状をどうにかせねば。
まず、2対1の状況をどうにかしたい。今は、2匹の延長線上にいるようにしているので、攻撃が同時に来ることはないが、移ろい変わる戦局のなかで、ずっと同じ状態を保てる訳では無い。
(最悪の選択だが、森の奥に入るか……)
今いる場所では、遮蔽物があまりない。周りにもっと木々があれば、木を盾にすれば良いし、あの巨体も思うようには動かせないだろう。1体1の状態も作り出せる。
だが森の奥に入ってしまえば、応援が来る可能性がグッと低くなる。1人で撃退するのは無理だ。腕の一本や二本は持っていかれるだろう。
この場から逃げようにも、2匹いる状態では逃げきれないだろうし、アリアの元まで引き連れてしまえば、騎士としては元も子もない。
「────!」
「クッ!」
そんな思考をグルグルと巡らせていると、前方に居たグリフォンが低い体制をとって、突進してきた。
それを横に転がることでよける。
もう1匹が爪を振りかぶって来たが、回転の勢いでそれも避けた。どんどん道から外れた場所に追い出されていく。
(グリフォンの番は大人しいんじゃなかったのかよ!)
先ほど、2匹目に遭遇したとき、まだ手を出していない状態にも関わらず、グリフォンは襲ってきた。
話に聞いていた習性と違ったその行動に、ハルビンは余計に焦りを感じていた。
(落ち着け、俺……。しょうがない、奥にいくしかねぇ!)
ハルビンは森のなかでグリフォンをまき、仲間の元へ向かうことにする。なに、本隊のもとへ行くのではなく、部下1人にでも知らせられれば、伝令させることで増援と同時にアリア達の避難が望める。
グリフォン達をアリアののもとへ近づかせることにハルビンは迷いを感じたが、部隊がなにも知らない状態の方がよりダメだとハルビンは思った。
そこまでの思考にいたったハルビンは、剣を収め、森の奥の方へ走り出す。当然、それをグリフォン達は追いかけてくるが、ハルビンは方角を見失うことだけはしないようにしながら、必死に駆けた。
「キエエエエエエエエエ!!!」
(さっきより興奮してないか!?)
グリフォンの様子が変わったのを感じたが、狙い通り、木々が邪魔をしているようで、グリフォンは思ったように体を動かせないようだ。
ハルビンはその光景に少し安堵しつつ、必死に走った。
グリフォンとの逃走劇が始まって10分もたっただろうか。後ろを振り向くと、後を追いかけてくるグリフォンが1匹に減っていた。
(────よしっ!)
このままいけば、もう1匹も振りまける。
そろそろ頃合だろうと思って仲間の巡回ルートに方向を転換させる。
ハルビンは現状を打破できる可能性を見出した。
だが、そう物事は上手くいかない。
「ピィイィイイイ!」
「まだいるってか!!!」
前方から、新たな鳴き声が聞こえた。3匹目の存在がいるかもしれないことに、汗がぶわっと吹き出す。
ハルビンは現状を把握するために、走りながらも目を凝らす。木々の隙間から茶色の羽毛が見えた。
その体は、先の2匹よりもとても小さい。その鳴き声も2匹よりも甲高い。つまり、
(子供か!!!!)
いくつかの謎が解けた。グリフォンが手も出していないのにも関わらず襲ってきたのも、森の奥へ移動した途端に興奮を増したのも、子供がいたからだ。
子供ではあれども、魔物という脅威は変わらない。だが、現状を大きく変えられる案もあるわけではない。
基本方針は変わらない。ひたすら逃げて、撒いて、仲間に知らせることだけだ。
ハルビンは体力がもつのか心配だったが、めげない。走る足は止めない。
そう思っていると、急に影がさした。
顔を振り上げると、そこにいたのは────
(もう1匹のグリフォン!!!)
先程撒けたと思っていたグリフォンが、空を飛んで追いかけてきたのだ。
そのグリフォンは羽を一扇ぎし、こちらへ勢いよく飛んでくる。ハルビンはその突進の着地地点から飛び退くために足を踏み込み、
「キエエエエエエエエエ!」
体を硬直させる。
(魔力咆哮か!!)
魔力を混ぜることで相手の動きを止める、魔物特有の技だ。
グリフォンの特攻を避けられない。
そしてハルビンは刮目して、
「お待たせしました!!!」
その視界に目の前に入り込んできたジークの後ろ姿を捉えた。
皆様は子供主人公だから、この小説がほのぼの系だと思われましたか?
私もそう思いました。
私はどうやらほのぼ系のではなくドンパチ系にもっていってしまうようです。




