魔法とは
風がゴォオと耳を掠めていく。男に抱かれているとはいえ、赤ん坊の体にくる浮遊感と着地時の重圧もキツかった。
「ヘブゥウオッ」
何だか、赤子ならぬ声を上げてしまっていた。
地面に着いた男はその勢いのまま裏路地へと入っていく。程なくして村を抜け、森に入った男はそのまま用意されていた馬車へと乗り込む。
(へぇ〜〜。私の住んでいるところって結構へんぴなところなのね。ちょっとガッカリ。)
などと、何気に初めて家の外に出た私は思っていたわけだが、その馬車の内部の異様な光景に目を剥いていた。
そこには3人の赤ん坊。2人男の子と1人の女の子が横たわっていた。
(ゆ、誘拐犯!これ、明らかに重大な誘拐だわ!)
その事を再度認識し、不安がこみあげ、勝手に涙が溢れていく。
「…………ふぅ……ぅぇえ………っ」
「あ?なんでこのガキ眠ってねぇんだ?」
堪えきれずに嗚咽を漏らしていると、男が顔の前に手をかざしてきた。
その事を不思議に思いつつ泣いていると、突然、寝室で嗅いだ、あの甘い香りが強くしてきた。
(あ、これって………)
そう思ったとたん、眠気に襲われ、私は気を失った。
─────────現在
ホロホロ鳥の表面をひっくり返しつつ、誘拐後の事を思い出していた。
誘拐された後、気づいた時には、あの憎き施設の中だった。
どうやら私には他の人よりも大量に魔力というエネルギーが備わっており、その活用についての実験の被験者として適応しているため、誘拐されたようだ。私と一緒に馬車に揺られていた子達も、魔力の保有量に優劣はあれど、同様な理由で誘拐されたようだ。
そこでの実験は非人道的だった。魔力を無理矢理に道具に吸われ体調はよく崩れる。体の1部は実験材料として剥ぎとられる。言うことを聞かなければ暴力は当たり前。
しかし、そんな場所でも似た境遇の子供たちで兄妹のように結束していた。実際に年上は姉や兄と呼び、下の子は守ろうと互いにたすけあっていた。施設で完全に我を崩壊せずにいられた理由はそこにある。
最終的には離れ離れになってしまったが。
こんな施設やつらは、近いうちに警察のような機関に捕まえられると思っていた。
しかし、どこからかの支援があったのだろう。あの逃避行がなされるまで4年もかかった。
逃げる時に置き去りにしてしまった兄妹達の事を思い出して、胸が苦しくなってきた。
「……生き抜くためには、必要だったんだ。」
その感情をそうたしなめつつ、そのような思考に行き着いたことに、また嫌悪感を感じる。
(あの子達が犠牲になってもしょうがないって思うなんて………最悪)
料理の手を止めて俯く。どうしてもあの日の事は私の心にトラウマとして根付いていた。
「も〜〜〜!やめやめ!せっかくのホロホロがまずくなる!!」
苦しい日々だったが、施設の実験の結果、得たものもある。それは魔法だ。
ホロホロ鳥を洗った水も、今ホロホロ鳥を焼いている火も、魔法によるものだ。
一般的に世間に浸透しているのは魔術で、それは数式や文字によって引き起こす特性をきめ、何か物質を元に少量の魔力を媒介として、求めた現象を発生させる。
しかし、魔法は違う。魔力と使用者の想像さえあれば、求めた現象を引き起こすことが出来るのだ。それは魔術と比べ、必要なプロセスも費用も圧倒的に少ない。
ただし、魔法を行使するには魔力の扱いが難しすぎる。少しでも必要な魔力の量を見誤ると不発、ないしは爆発を起こす。また、魔力のタメや動かし方など、使用者のスキルによって、引き起こされる現象の威力も変わってくる。
施設ではその魔力を上手く、簡単に、誰でも扱えるように実験をしていたようだ。
私はその実験のなか、数少ない成功例として魔法を上手く使えるようになった。
しかし、流し込まれた魔力が体の中で暴走した結果、上手く魔力の回路を作ることができたようで、偶然の産物として、新たな研究と実験が増えたが。
「あの魔力暴発は痛かったなぁ……うぅ、思い出しただけでぶるっときたぁ」
私はふぅっと息をつき、やっと焼き終えたホロホロ鳥を木の皿の上におき、それを浮かせながら机がある部屋に移動する。
実は木の皿も、机も、他の家具も、森で得た資材を元に全て魔法で作ったものだ。
自分好みの部屋を作れて、毎日気分は上々だ。
「ん〜〜〜〜〜〜!やっぱりこの生活は良いなぁ!!」
自分だけの安息の時間をかみしめつつ、私はホロホロ鳥を楽しんだ。