嵐の前の静けさ
眠れない。
ココ最近、昼寝を挟んだ生活を続けたせいでか、真夜中でも、私の目はギンギンに覚めていた。
寝そべって、眠気が来るのを待つが、いくら待てども一向に眠れそうになかった。
そのままでいるのもあまり良い気分ではなかったので、私は夜風にあたるため、静かに馬車から降りた。
案の定と言うべきか、ほとんどの人が眠っている。
起きている人は、安全確認のために見回りをしている数人だろう。その人たちが持っているランプの光がユラユラと揺れているのがうかがえた。
「よぉ、じょっちゃん」
「ヒッ!」
後ろから突然話しかけられ、慌ててふりかえる。
そこには、ランプをもった、無精髭をはやしたおじさんが立っていた。
確か名をハルビンさんと言ったか。あの深緑の腕章をつけた、部隊長だと思われる人だ。
「ねぇむれないのぉかぁぁ」
「その、話し方……や、やめて、ください……」
「ははは、すまない。」
ランプの光で下から顔を照らし、ハスキーがかった声もくぐもったように低くしている。
からかっているのだろうか。普通に怖い。
「じょっちゃん、眠れないの?」
「は、はい………昼寝……しすぎた……」
「そっかそっか、でもまだ冷えるから気をつけろよ?まだ風邪は治りきってないんだろ?」
「わかり、ました。」
わしゃわしゃと頭を撫でられる。子供が好きなのだろうか。
そう言いつつも、ハルビンさんは戻れとは言わず、自分の白マントを私に着せ、一緒に歩かないかと誘ってくれた。
まだハルビンさんの人となりは把握できていないが、大丈夫そうだ。怖くはない。
ちなみに私は、森で親に捨てられてしまった孤児の子、ということになっているらしい。
魔法が扱えることなどは騎士たちに知られていない。
騎士たちの事を信頼していないわけではない。だが、どんな所で情報が漏れてしまうかは分からない。
魔法が使えるということは、それほど重大な事なのだ。
きっとそんな事で、ジークさん達が私をおもんかぱってくれたのだろう。
2人で砂利道を歩く。
ハルビンさんは初のエレキナドリルはどうだったかとか、好きな物はないか、とか色々と聞いてきた。他にもキャニーは怒らすと怖いぞ、とか、アイザックはもっと飯を食べるべきだよな、とか、様々な事を話してきた。
「じょっちゃん。1回馬車を降りようとしたらしいじゃねぇか。」
「?はい。」
突然じっと見つめられてハルビンさんはそう言ってきた。何が言いたいのか分からず、首を傾げる。
「あのなぁ、じょっちゃん。もっと俺たちをを頼ってくれよな。子供に気を使われちゃあ、大人の立つ瀬がないんだぜ?」
「………」
「分かったか?」
「………はい」
「良し、いい子だ。」
またもやガシガシと頭を撫でられる。その優しさに顔が頬がゆるんだ。
(しかし、人に頼る、か。)
私はあまり人を頼ってこなかった。それは、前世から森を出るまで、ずっとだ。
前世は父親が酷かった影響で人付き合いが上手くできず、頼れる人がいなかった。
今世では、さすがに赤ん坊の頃は、母親に頼らざるおえなかったが、施設に入り、ある程度成長すると、誰かに頼るのではなく、兄弟たちを守っていかねばならなかった。
だから今の、誰かに助けられながら過ごす日々には戸惑いを感じていたのも確かだ。
その後たっぷり撫でられてから、また歩みを再開する。
ハルビンさんの話は尽きない。キャニーさん程のバズーカートークでは無いが、共に居て、楽しかった。
それから5分程歩いただろうか。私はある違和感を感じていた。
(おかしい、虫の音が全くしない。)
前世のコオロギのように、夜になると音をならす虫はたくさんいる。
今いる場所が砂利道とはいえ、少し道からズレたら、森に入る。虫はそばにいるはずだ。
「あの……待って……ください。」
「どうしたんだい?」
ハルビンさんの手を握り、動きを止める。
それから私は目を閉じて、感覚を研ぎ澄ませていた。
(────音魔法。)
この魔法は、森の狩りにおいて、多いに助けられた。聴覚を強化する魔法だ。どこに鳥の群れがいるのか。近くに大型の動物が潜んでないか。細かな音を聞き分けることで、安全で、獲物がいる場所をいつも突き止めていた。
魔法の事は伏せられているので、本当は使ってはいけないのだが、聴力強化ならバレないだろう。
シンッと、ほぼ無音のなか、ミシィ、ミシィという、かすかな音を聞き取る。
足音だ。だが、人間のものとは違う。それにひとつじゃない。複数いる。
「ハルビンさん……あっち、何か、いる。」
「え?」
私は自分の斜め前、森の奥の方に指をさす。
「それは、何がいるんだ。」
ハルビンさんは私の空気の変化を感じ取ったんだろう。子供だからといって、無下にせず、真剣に聞いてきてくれた。
「何か……分からない。でも、人間、違う。………数匹……いる。」
「………そうか、分かった。私が確認してこよう。おじょっちゃんは、馬車にまで戻っておいてくれ。」
私はそれに素顔にこくりと頷く。
本当は残って、音の主が何か確認をとりたがったが、魔法を使っては行けない現状、子供の私に何ができようか。
ただ、そのまま戻るのではなく、ジークたちにこの事を知らせよう。
嵐の前の静けさと言うべきか、虫の音が全くしないのは異常だ。
何もせずにはいられない。




