風邪
「えっくしょん!」
「あらあら……」
風邪を引いた。
目が覚めた時に感じたものは悪寒。
寝る前までは軽い咳だけだったのに、今では喉がガラガラと痛み、頭もボーっとする。
自分の体調管理が出来ないだなんて、恥ずかしい。
「アリアさん……風邪、移る……私、外行く。」
「えっ!だ、ダメよ!」
このままでは迷惑がかかってしまう。そう思った私は、次の休憩のタイミングで外に出ようとしたが、アリアさんには必死に止められてしまった。
むしろ、かいがいしく世話までされてしまう。
私は、抵抗する気力もなく、アリアさんにされるがままになってしまった。
森を出てから4日が経った。森は王都にそこそこ近かったはずだが、国の端のアーウェン男爵家まで、あと2週間で到着するらしい。
私は2、3ヶ月くらいはかかると思っていたから、驚いた。むしろ、迂回ルートを通っているらしく、本来はもっと短い時間で着くようだ。ドルワル王国は意外にも小さいらしい。
ちなみに、国王に招集され、王都に向かっていったはずなのに、大丈夫なのかと聞くと、アリアは陛下なら許してくれるわよ、と言って気にしていなかった。
招集された理由も、大したことがなかったのだろうか。
そんななか、私は馬車の中でずっと休んでいたのにもかかわらず、風邪が治っていなかった。
馬車で必然的に揺られている毎日では疲労が溜まりやすいのか、今回は随分とこじらせてしまっているようだ。
ずっと寝たきりもどうなのかと思うので、昼寝を挟みつつ、起きている間は、アリアさんの話を聞いていた。
休憩時には、キャニーさんやジークさんも来てくれたので、あまり退屈はしなかった。
ちなみにキャニーさんは
「レヒト様の御加護はどおしたのよ!全然働かないじゃない!」
と言っていた。罰当たりでは無いだろうか。
5日目の夕方。
「起きて、ご飯の時間よ。」
アリアさんに揺すられ、私は目を覚ます。
起き上がり窓の外を見ると、空はもう夕暮れだ。
今日の移動はここまでだろう。
「んーんー」
喉の調子を確認すると、だいぶ良くなっていた。
風邪特有の倦怠感も軽くなっている。
アリアさんは体調がいくばか回復した私を見てホッとした後、皆が集まっている所まで連れ出してくれた。
ちなみに料理は騎士団のキャニーさんとオリビアさんを除いた女性達のうち、料理が得意な方がいたらしい。良かった。
円になっている人達の中から、ジークさん達が集まっている場所に行き、地面に座る。
そして、配られた配膳にお礼をいいつつ受け取った。
少々ワイルドな味付けだが、森の生活では味わえなかった食事に、私は舌鼓を打った。
ちなみにアリアさんは馬車のなかで食事をとっていた。
主従の関係をハッキリさせるためなのだそうだ。
お貴族様というのも大変そうだ。
食事も終盤の頃。女性陣の中から声が上がった。
「今日はそれだけじゃないわよ〜〜!」
「道中の森でエレキドリルが取れたのよ!」
(エレキドリル………?)
はじめて聞く単語だ。隣にいたカーターさんによると、とても美味しいフルーツらしい。
甘いものが好きな女性からは特に人気だそうだ。
どんな味なのだろうか。
私は様々な妄想をしながら、配られるのを待った。
「はい、どうぞ。」
「………!?」
手渡されたエレキドリルにギョッとする。それは驚くほど毒々しい紫色で、三角形に尖っていた。
驚いて黙ってしまう。渡してきた女性は不思議そうな顔をした。
「どうしたの?」
「あ、い、いぇ……」
「エレキドリルは喉にもいいのよ。味わって食べてね。」
「あ、ありがとう……ございます……」
上の空で私は返した。女性はニッコリと笑ったあと、他の人にも渡すべく、去っていく。
(これ、森の中でずっと避けていたやつじゃん!)
前にも、このエレキドリルという果物は、何度か森の中で見かけていた。私は森の生活が始まったころ、様々な木の実、キノコに挑戦していたが、さすがにこの見た目のフルーツは食べようとは思えなかった。
周囲の人達を見ると、美味しそうに頬張っている。
この人たちは正気なのかと疑ってしまったが、女性達のなかから「美味しぃ〜〜〜!」と声が上がっていた。
私はゴクリと喉を鳴らし、エレキドリルを見る。
やはり、不味そうだ。いや、食べてはダメそうだ。
だが、好奇心を感じた私は、一思いにエレキドリルにかじりつく。
(うんっま!!何これうんっま!!!)
驚くほど美味しかった。程よい甘さとたっぷりの果汁に口が満たされる。あえて言うなれば、桃の甘さといちごの酸味が程よく混ざった味だ。
その一口目以降、私は勢いよくエレキドリルを食べた。
気づいた時には、てからエレキドリルはなくなっていた。




