魔物
────アリア・アーウェン────
コトコト音を鳴らしながら、馬車が揺れる。
今日は、天気も味方をしてくれたのか、暖かい空気に晴れやかな空が澄み渡っている。
目の前で寝息を立てているのは、先日出会い、助けてくれた少女だ。
私と少女が出会ってから、少女は様々な経験をしたようだ。
キャニーに聞いたところ、彼女はクマを倒したらしい。
こんな小さな少女に、そんな大きな力が眠っていることには、本当に驚かされる。
魔法を使えるとはいえ、クマへも人へも、恐怖心は感じただろうに。
そんな状態でも自分の従者を救ってくれた少女への感謝の念と、少女の優しさを感じる。
しかし、それからの出来事も含め、少女には無理をさせていたようだ。
馬車の中だと言うのに、少女は横になるとすぐに寝始めてしまった。
サファイアの髪は綺麗だなぁ、と思いつつ少女の頭をゆっくりと撫でていると、突然馬車が止まった。
「アリア様。急遽お知らせしたいことが。」
「何があったの。」
馬車の窓の外から、騎士のひとりが話しかけてくる。
少々、緊迫した声音から何か問題が起こったのだろう、と当たりをつけつつ、アリアはハッキリと騎士に問うた。
そのアリアの返答に気を引き締めつつ、騎士は答える。
「先遣隊によりますと、この先、魔物がいる可能性があるようです。」
「魔物ですって!?」
「はい。見た目から、グリフォンのようです。ただ、複数の声が聞こえたことから、グリフォンの番かと思われます。」
「………それは、不幸中の幸いね。」
魔物とは、魔力を多く宿した、獣の変異種だ。
ただその個体数は圧倒的に少ない。魔力の扱いの難しさは人間でも動物でも変わらない。大抵の魔物は生まれたその瞬間から、魔力のコントロールを失い、死へ至る。
そんな状況下で生き残った魔物は、1匹1匹強大な力を持ち合わせていた。
しかし、今回確認されたのはグリフォンの番。
その生い立ちから魔物の番自体、珍しいものだが、いないことはない。
普段は獰猛なグリフォンだが、番ともなると、互いを守るためなのか、こちらから刺激さえしなければ、大人しくなる。
今回は、迂回さえすれば、事なきを得れそうだ。
しかし、繁殖されては困るので、後々調査隊と討伐隊を送る必要があるのだが。
「今回は迂回ルートを通りましょう。その他の事は、帰ってから決めるわ。」
「了解しました。」
報告してきた騎士は、伝令をしに、その場を離れる。
アリアはふぅ、と息を着いた。
「幸先が悪いわね……。何も無いと良いのだけれど。」
もし、私がその言葉を聞いたら、こう思うだろう。
アリアさん、それはフラグだよ、と。




