ドルワル王国
ジークさんに抱っこされたまま、少し移動すると、開けた場所にでた。
そこには、1つの馬車と数頭の馬、そしてジークさん達と同様の白いマントに身を包んだ人達がいた。
あちらからもこちらが見えたようで、どよめきが広がっている。
その中から、深緑の腕章のワッペンを肩につけた男性が笑みを浮かべ、飛び出してきた。
(わぁっ)
私は突撃近づいて来る男性に驚く。もちろん、私にではなく、ジークさんに近づこうとしているのだろうが。
現に、飛び出してきた男性は腕を広げ、抱擁の体勢をとって走りよってくる。
「ジーク!ひさしぶ────」
「待て。」
しかし、久しぶりの再開であろうに、ジークさんは右腕で私を1度抱き直し、左腕をだして、待ったをかける。
「ジ、ジーク?」
「アリア様はすぐ後ろにおられる。先にそちらに行ってくれ。」
「あ、あぁ。」
男性は1度しょぼん、とした顔を浮かべたが、すぐに周囲の人達に指令を送り、アリアさん達の方へ向かっていった。
私はその場に残った数名のうち、1人と目が合った。
「ん?ジーク、その子は────」
「お前も行かなくていいのか。」
「え?」
「お前も行かなくていいのか。」
「あ、あぁ……」
やも言わせぬ圧でジークさんは言葉を被せる。
その勢いに負けてか、その男性はおずおずと、先ほどの集団を追いかけていった。
「大丈夫だぞ。」
ジークさんに背中をトントンと叩かれる。
もしや、守ろうとしてくれたのだろうか。
もしそうだとするのならば、ジークさんは、
(────ジークさんは、変わっているんだね……)
私はこの先に少し、不安を感じたのだった。
カタカタと馬車に揺られる。目の前にはアリアさんが座席に座っていた。
先ほどのやり取りのあと、アリアさん達とも合流した集団は、久しぶりの主人と仲間の再開に喜んだ後、アーウェン男爵領に向かって移動していた。
ちなみに今、私は馬車の中に乗っているのだが、見知らぬ子供が主人と同じ馬車に乗るのはやはり無理があったようで、搭乗時に、軽く一悶着があった。
しかし、それもジークさんが先ほどのような強引なやり方で解決してくれた。
「事情はおいおい説明する。」
「アリア様も了承されているだろう。」
「お前らはアリア様が移動で疲れているのいうのに、更に迷惑をかける気か。」
「ささっと配置に行け。」
などと言って、騎士たちを追い返していた。
ジークさんに封殺された、騎士たちはしぶしぶといった様子で引き返していく。
アリアさん達6人は、その様子を苦笑しながら見ていた。
「────そうやってね、3年前、私たちは革命を無事、成功させることが出来たのよ。」
「す、凄い……です。」
馬車のなか、私たちは何をしているかというと、ここ数年の世情について、アリアさんに教えてもらっていた。
アリアさんの話によれば、私達がいる国は、ドルワル王国と言うらしい。
地形的に見て、北方にこの国はある。海に面していて、港では貿易が盛んだそうだ。
気候としては、日本でいうと、春秋冬を繰り返しているらしい。今の時期は春にあたるが、秋冬の時期よりも期間は短く、あと2ヶ月も経たないうちに秋の季節へと移ろうだろう、と言っていた。逆に冬の時期が長そうだ。
そんな気候だからだろう。食糧の生産について、寒さに強いはずの芋が主なこの国は、10年ほど前から寒波で不作が続いているそうだ。
しかし、そんな状況にも関わらず、王族たちは重税をかけ続けた。それは、国の末端であるアーウェン男爵領にも大きな影響を及ぼした。
その事が契機となって、革命が起こったらしい。
今は、どのように戦い勝ったのか、アリアさんは独特なトーク術を加えて話してくれた。結構面白い。
「ケホッケホッ……」
「あら、大丈夫?」
「は、はい。す、すみません……」
そんな回想をしていると、喉のむず痒さに我慢ができず、咳をする。
それを見たアリアさんは眉根を寄せていた。
「う〜ん、ここ数日色々と合ったしね。1度寝て休んでみたらどう?」
「は、はい……」
その提案にコクリと頷く。最近は疲れがたまりやすかった。馬車の椅子は最近の寝床と比べてフカフカで、眠りやすそうだ。
私はもう一度すみませんと言い、横になる。
想像以上に疲れていたのか、私の意識はすぐに眠りへと落ちていった。