変化
森をでて、一刻も経っていない時。みんなで林道を歩いて居ると、ガヤガヤという音が聞こえてきた。
(────人がいるっ!)
思わずそばにいたジークさんの裾をぎゅっと握る。若干心拍数が上がった。
ジークさんは、私が何に反応したのか気がついたのだろう。少しあゆみを遅め、こちらを見てきた。
「……大丈夫だ。アリア様を守る、俺たちの仲間だ。悪い奴らじゃない。」
「……」
その言葉に、コクリと1度頷いたが、湧き出す恐怖心が収まる様子はない。
マントを握っている手に力が入り、目線は足元に縫い付けられた。
しかし、そうやってドボドボと歩いていると、突然、一瞬の浮遊感を感じた後、私は空を見上げていた。
「大丈夫だ。」
背中をトントンとさすられる。
(────まさか私、抱っこされているの!?)
足をバタバタさせるが、空をきる。
そのまさかのようだ。
「わっ、私……抱っこ……歳、ちがっ…!」
「はは、すまんすまん。」
私はもう、抱っこされる歳じゃない、と伝えたのにもかかわらず、ジークさんは下ろしてくれない。
恥ずかしくて、ジークさんの胸元を必死に押し返して抵抗してみたのだが、ビクリともしない。
(前世じゃあ、私は15歳なの!思春期まっただかりよ!)
前世も合わせ、人生初である男性に抱かれる体験に、私はより羞恥心を感じ、顔に熱が集まるのを感じた。
だが、ゆっさゆっさトントンと、歩く振動と背中をリズム良く叩かれる事には、心地の良さを感じていた。
ジークさんは引いてはくれなさそうだ。私は抵抗をやめ、ジークさんの足音を聞きながら、されるがままにした。
すると、ジークさんが話しかけてきた。
「まだ、怖いか?」
「ぁ………」
「大丈夫か?」
そういえば、突然の抱っこで忘れかけていたが、この奥には人がいるんだ。
そう思ったが、先ほどまでの恐怖心も不安も、少しは残っているものの、あまり感じなかった。
「ちょっと………大丈夫、です」
「そうか、それは良かった。」
ゆっさゆっさトントン。
(抱っこって凄いのね……)
そのまま私たちは、他の待機していた騎士たちと合流した。
────アリア・アーウェン────
足に疲労を感じつつ、アリアはあゆみを進める。
周りを見渡すと、右側には木々が、左側には背の低い草がまばらに生えた地面が続く。奥の方には、元いた山とは違う山々が、うっすらと見えた。
そろそろ、合流地点に差し掛かるだろうか。
アリアはそう思い、視線を前に戻すと、1人の少女と少年が先を歩いているのが見えた。
その2人を観察すると、どうやら、突然少年が少女を抱えたようだ。アリアは驚きを感じる。
「あらあら、あのジークがねぇ……」
「ほんと、あのジークが!ですよねぇ…」
そのつぶやきに便乗してきたのは、アイザックだ。
彼はジークの昔からの友人で、救出作戦にも参加していた。彼は騎士団に残ったが、ジークの事を誰よりも心配していたのを、アリアは知っている。
アイザックは頭をポリポリとかきながらアリアの横に並ぶ。
「いやぁ、ここ最近は落ち着いてきたとはいえ、当初の落ち込み具合は凄かったですしね。あいつの性格を考えると、抱っこなんて考えられませんよ。」
「そうねぇ……この機に、ジークも以前の元気を取り戻して欲しいものだわ。」
「いや、あの頃の生意気坊主っぷりは大変ですよ。以前に戻られたら大変ですよ!」
「ふふ、確かに、あの時のイタズラばかりしていたジークは大変だったわ。」
ケラケラとアイザックは笑う。
だが、アリアがアイザックの表情をうかがうと、それは決してジークをバカにしている様子はなかった。
むしろ、少年の変化を心のから喜んでいるようだ。
「……あなたも、肩の荷が降りるんじゃないかしら?」
「え?」
「3年前のジークがした捜索の時は、作戦の隊長のあなたはほれに付いていけなくて悔やんでいたけど、ずっと彼を気にかけていたじゃない。」
「………はい」
「あなたも一息つけるんじゃなくて?」
アイザックがまた頭をポリポリとかく。頬は少し、赤らんでいた。
いつも、飄々としているからか、こういった自分の話をされるのが、気恥しいのだろうか。
アイザックは、それ照れを振り払うように言った。
「……まぁ、彼女の存在が、いい影響を及ぼしてくれるのを願うしかないですね。」
だが、その言葉を、アリアは否定する。
「あらアイザック、それは違うわよ?」
「どういうことですかい?」
「彼女には幸せになってもらいたいってジークが願っているんだもの。彼女が何をしてくれるか、じゃなくて、彼女に何をできるのか。それを考えていかなければならないわ。」
「あぁ……」
「だから、ジークも私達も願うだけじゃなくて、頑張らないとね」
「そう、ですね……」
再び視線を前に戻し、ジークの背中を見つめた。
彼女の存在は様々な変化を、私達にもたらすだろう。
その変化が良いものか、悪いものかは分からない。
だが、ジークの様子を見るに、きっと大丈夫だと、アリアは予感していた。




