出発
「酒はどこだぁ!ぉおい!こいつ!」
────ごめんなさい!ごめんなさい!許してください!!
「うるさぁい!たくっ!」
────いっ!……たぃ……いたぃよぉ……うぅっ、
「養ってもらっている分際で!こいつ」
────ぁっ!ご、ごめんなさい!ごめんなさい!
────なんで、なんで、こんな目に……
(──ああ、これは夢だ。)
いつぞや見た夢。現実じゃない。これは明晰夢だ。
私はそう分析した。怒鳴りつける前世の父親を見る。なぜだか、顔は不鮮明でモザイクがかっているようだが。
(確かこの後は兄弟達が────)
「姉ちゃん」
後ろを降りかえる。
「姉ちゃん」
(────ヒューイ!)
そこには、俯いた黒髪の少年が立っていた。
以前見た時とはまた違った夢の展開に驚く。
呼びかけようとしても、声が出ない。だが、心の中で、私は精一杯叫んでいた。
(ヒューイ!ヒューイ!今度あなたに会いに行くのよ!待っていてね!!)
「姉ちゃん」
少年がやっと顔をあげる。
その顔には父親と同様、なぜかモザイクがかっており、またよく見ると、泣いているようだ。
ポタポタと雫が、少年の顔から流れ落ちていた。
(ヒューイ…………?どうしたの?)
「姉ちゃん────」
景色がボヤける。そんな状況下で、私はヒューイを見逃さないように、精一杯目を凝らした。
「──────助けて」
「ハッ!」
飛び起きる。周りを見渡すと、空は紫色でまだ日が出ていなかった。夜明けの時間帯だ。まだ誰も起きていない。
「ハッ……ハッ……ふぅ……」
びっしょりと汗で濡れた額を拭う。
以前、全く同じことをしたなと思いつつ、空中に作り出した水を口に含み、喉を潤す。はしたないと思ったが、今はコップがないので致し方ない。
ただ、上手く魔法が使えないと思っていたら、体が震えていることに気がついた。風に煽られたせいか、夢のせいか、その両方かは分からない。
「はぁー………」
一息着いた私は、パタリと後ろに倒れ込む。今日はここを出るのだ。体力は温存しておきたい。
私はもう一度寝直した。
「ぅん…………。あと5分………。」
誰かに揺すられている。だが、まだ眠気を感じたので、私はにゃむにゃむと答えた。
「もう、朝だよ………起きて……。」
再三と揺すられた私は、ハッとなり、勢いよく体を起こす。
「起きた……?」
「……おっ、ぉはよう、ございます。」
どうやら、オリビアさんが起こしに来てくれたようだ。
顔に熱が集まるのを感じつつ、私は挨拶をした。
今日の朝は、昨日と違い、少々慌ただしいものとなった。
出発のための準備をしていたのだ。
朝食の後、持ち物を確認し、今日の行動を細かに確認して行く。
主に話を進めたのはキャニーさんだが、カーターさんやライアンさんが、道についての補足をしていく。
どうも、昨日、2人は盗賊がいないか、本当に確認しに行ったらしい。ここから森の外れまで往復したのは大変だっただろう。
そうして、準備を終えた私たちは、とうとう拠点を出発した。
(────バイバイ。)
一応戻ってくる可能性もあるが、私は3年間使用し続けた洞窟と、その付近の場所に、心の中で別れを告げた。
2時間も歩いただろうか。アリアさんを中心に据えて移動していた私たちは、一旦休憩をとることにした。
「はい。お水。」
「ありがとう……ござい、ます」
「凄いわねー。全然息が切れていないじゃない!」
「森……歩く……馴れている、から。」
私はキャニーさんから水筒を受けつつ、話返す。
私は逸る気持ちを抑えられず、移動の間ずっと先頭を歩いていた。
警戒のため、ジークさんとアイザックさんが少し先を歩いていたおかげで、迷うことはない。
「ケホッケホッ……」
「あら、せき?昨日も寝起きざまにくしゃみをしてたし、大丈夫なの?」
「は、はい…」
大丈夫だとは答えたが、ここ数日の睡眠の質の悪化に加え、今朝は汗をかいたまま寝てしまったので、体を冷やしてしまった。
しかし、確かに喉の不調を感じたが、前世では最悪な栄養状態で、今世では施設の実験で、よく体調は崩していたので、大したものではなかった。
何も問題はない。
そのままキャニーさんとの会話をたのしんだら、休憩には充分な時間が経って、再度出発した。
そこから1時間がたち、やっと森を抜ける。
3年、いや、7年振りに私は森を出た。
 




