提案
そんないつもよりも賑やかな朝を迎えつつ、朝食の準備にとりかかった。
まともな調理器具はなく、魔法を使えるのは私1人なので、アリアさんの手伝いを受けながら、スープの準備をした。
アリアさんは、キャニーさんやオリビアさんに自分たちがやると言われていたが、
「私がやりたいのよ。」
といって断っていた。
ちなみに従者の人達は、野外でお腹を満たすものは、携行食で良い。といった考えだったようで、まともに料理ができそうになかった。
街の中では、レストランですます、といった具合だ。
真面目そうなオリビアさんも、以外にもそういったことが苦手らしい。
その事も含めて、アリアさんは2人の提案を断ったのかもしれない。
みなさんの意外な面が見れて、何だか私は嬉しかった。
少ししてから完成したスープを配る。
みんなから、ありがとうと次々言われて私は頬が緩むのを感じた。
オリビアさんは受け取ったとき、
「任せ切りで申し訳ないわ。わ、私も、作ろうと思えば作れるけど……。」
と言いつつ顔を赤らめていた。
「なぁにいってんのよ!オリビアの料理はヤバいんだから!」
とキャニーさんは笑いながら言う。それに対してオリビアさんは怒っていた。見栄を張ったのがバレて恥ずかしかったんだろう。
そのやり取りを見て、カーターさんがガバガバと笑う。
(やっぱりくまさん見たい。)
と思っていると、アリアさんが
「ふふ、早くしないとご飯が冷めてしまうわ。頂きましょう。」
と声をかけてきた。その一声を皮切りに朝食を食べ始めた。
皆の会話を聞きながらスープをすすっていると、アリアさんたちが今後どう行動するか、何も分かっていないことを思いついた。
「ぁ………この後、みんな……どうする、ですか?」
「そうねぇ。みんなに見つけてもらえたことだし、1度お家に帰ることになると思うわ。」
アリアさんが答える。詳しくは聞いていないが、従者を従えていることだし、アリアさんは貴族なのだろう。
行動決定権は彼女にあるようだ。
「そ、そっか………。寂しく、なる。」
私のその言葉を聞き、みんなが困ったというような顔をした。
初めは確かに警戒していた人たちだが、やはり1度でも寝食を共にし、話あうと、楽しいものがある。言葉を交わした結果、優しい人達だと言うことも分かった。
しかも私は、こうも人数が多いいと、施設で助け合っていた兄弟達の事を、みんなに重ねていた。
だから、私は寂しさを感じていた。
「その事だが………」
そんなふうに思っていると、ジークさんが口を開いた。
みんなが、アリアさんを差しおえて話始めるジークさんにギョッとする。
しかし、当のアリアさんは、そんなジークを窘めることなく、じっと彼を見つめていた。
「俺たちと一緒にこないか?」
「ぇ………。」
「森で1人というのは大変だ。3年間、無事でやって来れたと思うが、これからだってそうはいかないかもしれない。……だから、俺たちと一緒に、きてくれないか?」
(あぁ、確かにそうね。)
ぼんやりとそうは思ったが、やはりと言うべきか、私は混乱し始めていた。
行く?人がたくさんいる所に?安全なの?
そういえば、彼は3年前のことを何か知っているようだ。
一体どんな施設との関係がジークさんにあるのだろうか。
色々と物事が重なって、忘れかけていたが、その事も気になるし、不安だ。
「ぁっ……ぇっと………でも、、、」
そんな状態で言葉をつまらせると、キャニーさんがキッと、ジークさんを睨んだ。
「ちょっと、あんた!なに勝手なこと言ってんのよ!困らせちゃっているじゃない!だいたいねぇ────」
「キャニー。一旦待ちなさい。」
そんな、私を擁護する言葉にアリアさんは待ったをかける。
この場をどうするべきか。この人たちに着いていくべきか。
私はだんだん、冷静な思考ができなくなってきた。すると、ジークさんは、
「君の気持ちを教えてくれ。」
と声をかけてきた。
それにハッとしつつ、ジークさんを見つめる。
そのおかげで自分が混乱している事に気づき、落ち着きを取り戻した。
「やはり大勢の人がいる場所は怖いか?」
「………はい」
ジークさんのストレートな物言いにキャニーさんがキリキリと歯を鳴らす。だが、アリアさんに窘められたので、我慢をしているようだ。
「もちろん、一緒に行くのだから、安全は俺たちが保証する。」
「………ぇ、」
「1人にしないし、ご飯も、家も準備する。不満があれば、言ってくれ。俺がなんとか解決する。」
「……」
「……ダメか?」
俯き、考える。
先ほど焦ってジークさんを、施設の関係者だと疑ってしまったが、もしそうだとしても、今の話では危害を加えて来るようには思えない。
つまり、今考えるべきは、街に行くべきかどうか、ということだけだ。
(…………怖い)
人がいる村や街にはいつか行くべきなのかもしれないが………。
なかなか、踏み切れない。
「………突然だったな。すまない。」
「ぁ………」
「俺達が出発するまで、考えておいてくれ。」
「………はい。」
迷っている私を見かねたのか、ジークさんがそう返してきた。
自分の決断の遅さが、恥ずかしい。
そう思っていると、突然アリアさんが、演技ががかった声で話し始めた。
初めてきく声音に驚く。
「あ〜〜どうしようかしら。ライアン、私、怖いわぁ〜〜」
「ア、アリア様???どうされたんですか?」
「いやぁねぇ。今日、帰ると思うけど、盗賊がまだいるかもしれないと思うと?まぁ、怖いわぁ!」
怖いだなんて、そんな事は無い。アリアは元、革命軍の1人として、その程度の事では怖がらない。
アリアさんは、手を額に当て、ふぅ、と息を吐く。
そのわざとらしい仕草にみんなが、目をぱちくりとさせた。
「えぇっと、アリア様、どうすれば良いですか?」
「ん〜〜、そうねぇ。残党がいないか、確認して欲しいわ。あぁ!でもそれだとまだ森に滞在しないといけないわね。」
その一声にジークさんは、ハッとする。
ど、どういうことだろうか。
「そういうことだから、今日出発するのは無理そうだわ!申し訳ないのだけれど、もう一日ここにいさせてもらえないかしら!」
アリアさんのその言葉にやっと気づく。
(そうか。アリアさんは、私が考える時間を増やそうとしてくれているんだ!)
本当は違うのかもしれない。
だが、私は了承の旨を伝えた。
大女優アリア。笑
こんなこともするんですね。
今回は、それぞれのキャラクター性を表に出すことを意識してみました。




