朝
「ぅん………ふぇっ、ふえっくしょん!」
鼻をすする。目をひらくと、周りははすでに明るかった。
「もぅあさか………」
毛皮をどかしながら、目元をゴシゴシ擦り、起き上がった。
行動の拠点を外に移してから、どうも目覚めが悪い。
寝起きする場所が外になったので、寝ている間はずっと風に当てられる。焚き火を常にして、毛皮にくるまっているとはいえ、あまり良い睡眠が取れていなかった。
「おはよう。」
「ぁ………おはよう、ございます。」
声をかけてきたのはキャニーさんだ。従者のみなさんはすでに起きていて、活動の準備をしていた。
アリアさんは、オリビアさんに揺すられている。
空気の冷たさからも、まだまだ早い時間帯だと思われる。
「朝からくしゃみなんて、大丈夫?レヒト様の御加護があると良いわね!」
「レヒト、様………?」
「あら?知らない?」
キャニーさんから出てきた新しい人物名に、私は首を傾げる。
それを見たキャニーさんが説明をしてくれた。
まず、レヒト様とは神の1柱だそうだ。
そんな神様からの"レヒト様の御加護"とは、主に人々の健康について効果がある。
くしゃみや風邪を引いてしまうのは、悪魔のイタズラのせいで、それから守ってくれるように、レヒト様に人々は加護を乞うようだ。
だから、人がくしゃみをする時は、「レヒト様の御加護がありますように」と言うのが、その人への労りの言葉だそうだ。
とは言っても、この話の元は童話から来たものだそうで、大した意味は無い。
(いいねぇ!久しぶりに異世界っぽい!)
様々なサバイバルと魔法の扱いをこなしてきた私だが、それまでの施設の事で、この世界の文化にはあまり触れてきていない。
初めて言われた言葉と、初めて聞くお話に、私は興奮した。
「あははっ、そんなに目をキラキラさせちゃって!可愛いわね!」
「あぅっ……!」
「あら!ごめんごめん、ふふふ」
一瞬、我を忘れかけた自分を恥ずかしく思い、顔に熱が集まる。
それを見たキャニーさんはニコニコと笑ってきた。
「朝から楽しそうねぇ。何を話しているの?」
「あ!おはようございます!」
「おはよう、ございます。」
すると、寝起きのアリアさんが話しかけてきた。
ちょっと恥ずかしく思いつつも、私はレヒト様の話をたどたどしい言葉でした。
当然、アリアさんは、その話を知っていたのだろうが、興奮ぎみの私はその事を忘れていた。
へぇ、とか、そうねぇ、とか、微笑みながら相槌をしてくれた。
その後、みんなで川まで行き、顔を洗ってからその事に気づき、私は1人で赤面をした。




