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転生と誘拐

 木の枝に乗り、弓の弦を引き絞る。


 地面にばらまかれた木の実をつつく鳥に焦点をあて、息をひそめる。空気がひきしまっていくのをヒシヒシと感じた。


 手を矢尻から離したとたん、パンッと音がなり、矢は鳥へと突き刺さった。


「いぃぃ〜〜〜よしっ!」


 木から飛び降り急いでかけ寄り、鳥を抑えつけて腰にさしていた小刀でとどめをさした。


 その場で血抜きをし、軽く処理をすませてから、私は上機嫌に鼻歌を歌いながら帰路についた。


「今日のごはんはホロホロちょ〜〜〜♪ホロホロポロッとホロホロちょ〜〜〜♪♪」


 5分ほど歩いた後、洞窟にたどり着いた。

 ポトポトと雫がたれていたが、気にせずに中に入る。洞窟と言うよりかは洞穴だろうか。小さな子供である私にとってはどちらにしろ、大きい空間だ。


 入ってすぐに右に曲がり、1つの部屋に入りこんだ私は、とってきた鳥を解体し始めた。

 この部屋は調理場だ。火を扱う時は横に掘っておいた穴から煙をながす。

 この洞窟にはいくつか同様な部屋が連なってある。一つ一つの部屋は、入口こそ小さいが、奥に行くほど大きくなる。1人で暮らすぶんには充分な広さを誇っていた。


 解体したお肉の1部はストックしておいた殺菌作用のある葉につつむ。残りは密閉した石の中でいぶして燻製にしておく。


 その間に夕飯の調理に取り掛かった。そばに置いておいた複数の壺の中からキノコや香草を取りだす。


「ビビデバビデブー♪」


 掛け声に意味は無い。だが、その声を皮切りに周囲には火や水が発生する。

 つまるところの魔法だ。私は水魔法や火魔法を使いながらホロホロ鳥の肉をソテーにしていく。


「はぁ〜〜〜、ここの生活は、ほんっとぉーに充実しているなぁ〜………」


 感慨にふける。手は動かしつつ、あの決死の逃避行を思い出していた。

 数年前、と言ってもカレンダーなどといったものがないから詳しくは分からないが、3年ほど前だろうか。


 「よく生き残れたなぁ……」


 崖から飛び落ちた私は1度、死を覚悟した。しかし2、3度崖に生えた木にバウンドした後、しげみに落ちた。崖の高さもそこそこ、また軽い体重のおかげで勢いもあまりなかったのだろう。何とか重症は追わずにすんだ。


 そこからの数日は、地面に落ちた木の実を食べ漁り、川にいきつき、なんとか今いる洞窟に行き着いた。そのおかげで体を休めることもできた。


 それまでが過酷だっただけに、なんとも幸運が続いたな、と思う。


 そこから徐々に、今現在までの生活基盤を築いていった。


(川の水でお腹を下したり、木の実が見つからなくて餓死しそうになったりって、大変だったなぁ)


 しかし、この世界で身についた魔法のおかげで何とか生き残れた。

 

(ほんと、この世界ってふしぎ。魔法があるなんてさ。)


 こんな力、前世ではなかった。

そう、私は異世界転生をした少女であった。




──────────7年前


「ふぅえ、うぁ、うぁああああああん!!」


「ったく、しょうがないわね。」


 産まれてから半年がたった頃だろう。おぼろげな思考も落ち着いてきたのか、私は前世の記憶を取り戻していた。


(あーーー!恥ずかしい!まさかこんな歳になってから母親におんぶで抱っこだなんて!)


 でもしょうがない。お腹は勝手にすくし、トイレも赤ん坊の体では1人でできない。


 前世の私は齢15歳で死んでしまった。思春期まっただかりの時だった。


 前世では相当ひどい人生を歩んでいたと思う。父親の暴力は当たり前。ご飯は投げつけられた残飯。あまりにも耐えきれない時はコンビニなどから盗みとって食べていた。ハッキリと覚えていないが、死因は暴力か栄養失調だろう。


(でも転生したんだ!今度こそは幸せに生きるわ!)


 とはいっても、父親は1度も見かけず、母親しか世話を見てくれる人はいなかった。その母親もあまり良い親とは言えないだろう。しかし、前世が悲惨なだけに、世話をしてくれる母親がいるというだけで、嬉しかった。


 そう思っていた矢先だ。ある日の夜。窓からのぞく満月がとても綺麗に光り輝いていたのを覚えている。

 私はなかなか寝付けず、寝返りもうてず、かといって泣き騒ぐのも前世の記憶が認めてくれない。


 なにをするというわけでもなく、ボーッとしていると、いつのまにか、独特な甘い匂いが寝室に充満していた。


(初めてかぐ匂いだなぁ。花?の香りかしら)


 その香りの正体を考えていると、突然バタン!と窓が開いた。


(なっ、なに!?)


 突然のことで混乱していると、その窓から黒ローブをまとった、1人の男が入り込んできた。


(これって、ふほうしんにゅうしゃ、だわ!)


「う、うぁぁぁぁあ──────」

「うるせぇぞ、黙ってろぉ!!」


 母親にこのことを知らせるために為に泣こうとすると、男がいきなり怒鳴りつけてきた。思わず声が止まる。


(こわっ!?でもこれで、お母さんは気づくはず…)


 そう思っていたが、部屋の奥で寝ているはずの母親に動きはない。



(なっ!なっ!おかあさん!!ちょっとぉお!!)


 動揺し、私はついに本気で泣きそうになっていると、その男は私はを抱きあげた。そして舌打ちをしたのち、私を抱えたまま入ってきた窓から飛び降りた。


 結果、私は誘拐されてしまった。

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