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決心

────アリア・アーウェン────


 夜も更ける。頭上を見上げると、木々の隙間から、満遍なく瞬いている星々が見えた。


 隣からはすーすーと寝息が聞こえる。頭を下げ、横を見ると、サファイアの髪の毛が焚き火の光を受け、きらきらと揺らめいていた。


 その場に座り、その頭を指先でなでながら、アリアは物思いにふけていた。


 その少女の事をだ。


 今日は色々なことが起きた。それは彼女にとって軽くはない負担をかけただろう。


 それに加え、彼女には気を使わせてしまった。


(おあいこだなんて………こちらが一方的に傷つけてしまったのに………。)


 名前のことも、怯えさせてしまったのも、アリアやジーク達だ。なのに彼女は自分が悪いと思い、謝ってきた。


 ここ数日わかったことだが、彼女は意外にも頑固なところがある。だからもし、謝罪を重ねたとしても、彼女はそれを受け入れないだろう。


 だから、アリアはおあいこという言葉にどうすれば良いのか分からず、困ったような笑顔を浮かべてしまった。


 こちらがしつこくするのもダメだろう、と思い、アリアはその後の彼女との談笑に応じたのだが。


「すみません、今よろしいですか?」


 そんな事を考えていたアリアに声をかける人がいた。


 アリアは聞き覚えのある声に頷き、振り返ると、そこにはジークが立っていた。


 見回りから帰ってきたのだろう。ジークはアイザックに一声かけて、入れ替わるように、焚き火を挟んでアリアの反対側の地面に敷いてある毛皮の上に座った。


 見回りに行ったアイザック以外の者たちは、焚き火より少し離れた所でマントにくるまり寝ていた。今日は少女にだけではなく、自分の従者たちにも色々とあったようだ。


 その光景を尻目に、ジークはアリアに問う。


「………彼女は、3年前の子ですよね……。」


「えぇ、そのようだわ。あなたも彼女の魔法を使う姿を見たわよね。」


「はい………。」


 そのままジークは沈黙してしまう。


 きっと救出作戦の時の事を思い出しているのだろう。

 ただでさえ、見回りの時に冷えた手を、さらに白くなるまでぎゅうぎゅうと握りこんでいた。


 わざわざ話しかけたのに黙り込む行為はどうかと思うが、ジークはマイペースだ。アリアはジークの性格をよく知っているため、彼がまた話し始めるのを待った。


「………彼女には、申し訳ないことをしました。……この3年間、そうとう苦労したと思います。」


「そうねぇ。彼女は本当に凄いと思うわ。」


「…………3年前の作戦の時、彼女を保護しようと追いかけていて。それで彼女の腕を掴んだら、突然爆発がおきて、彼女の腕を離してしまって……崖から落としてしまったんですよ。」


 眉根を寄せながらジークは言う。アリアは突然告げられたその告白に、驚きを隠せなかった。


 あの救出作戦の後。何か思い詰めていると思っていたジークが、突然騎士の脱退を言ってきた。アリアは革命に多大な貢献をしてくれたジークを手放すことが惜しく、ジークの悩みを解決するために彼から様々な事を聞き出した。


 その時はまだ、革命の余波が多く残っていたのだ。


 しかし、様々な修羅場と経験をしたアリアでも、聞き出したジークの悩みをどうすれば良いのか分からなかった。


 だから、アリアは一定期間は、療養の意味も兼ねてジークに自由にさせていたのだが。


 その時にアリアが聞き出したのは、目の前でサファイアの髪の子を死なせてしまったということだけで、崖から落としてしまったという経緯までは知らなかった。


 ジークはかつてないほど、苦しげな顔をしていた。


「あの時に手を離しさえしなければ……俺は、彼女にどう彼女に償えば良いのか分かりません。」


「ぇ、えぇ。」


 だか、今、ジークを慰めようとしても、無駄だろう。


 直感でそう考えたアリアは、動揺をかくし、真剣にその答えを考えた。


「…………そうね。今、彼女は1人森のなか自給自足で生活して、苦労しているわ。でも、だからと言って、無理に街まで彼女を連れ出すのもよくないと思うの。」


 アリアは言葉を間違えないようにと、ゆっくりいう。


 何か思うところもあるだろうが、ジークはアリアの言葉を遮らず、聞きの姿勢に入った。


「今日接してわかったと思うけれど、彼女は人に怯えている。恐らく、施設での経験のせいね。そんな状態で街に行ったとしても、不安を感じるだけで、よくないと思うの。」


「………はい。」


 もとよりそのまま、森に置いていこうという考えはない。

 3年間生き抜いた経験があれど、彼女はまだまだ幼いし、ずっと1人でいるのは、孤独で寂しい。アリアはもし、自分の場合だったらと考えると、とても耐えきれない。と思った。


「………だから、彼女へ何ができるかと言われれば、彼女が不安を感じないよう、1人にならないように、支えてくれる存在が必要だわ。」


 それを聞き、ジークは俯きがちだった顔を上げた。アリアの瞳をじっと見据え、視線を彼女へとずらす。ジークの目には、たくましいと思った。けれども、まだ幼く、脆い。そんなふうに彼女が見えた。


「………俺、彼女を支えたいです。」


 ジークの瞳が揺れる。アリアには、ジークにまだ不安があると、感じていた。


「えぇ。……けれど、きっと大変よ。小さな子供というだけではないわ。彼女の心の傷も治していかないといけない。魔法という強大な力を制御させないといけない。他にもたくさんの苦労があるわ。」


「……」


 言葉を積み重ねる。


「ジーク。その言葉の重さをしっかり捉えるのよ。」


「………」


「……それでも、しっかりと、彼女を支えられる?」


「………はい。」


 アリアの言葉を聞き、より不安を感じたのだろう。しかし数瞬したのち、ジークはハッキリと返答した。


「俺、支えます。できるかできないか、じゃなくて、絶対に支え抜きます。彼女がありったけの幸せを感じるまで。」


 ジークの顔から険が抜ける。その顔つきは、精悍なものへと変わっていた。


「そう、その言葉が聞けて安心だわ。」


「……あの、アリア様。相談に乗ってくださり、ありがとうございます。」


「お役に立てたのなら、何よりよ。まずは、街に連れて行けるよう、あの子を説得しないとね。明日からは大変よ。1つ目のお仕事頑張ってね。」


「はい。」


「さぁ、夜も遅いわ。そろそろ寝ましょ。」


「はい。」


 そのまま一言謝辞を述べ、ジークはみんなが眠っている場所まで移動していった。


 アリアはその少年の背中を見つめる。


 3年前から抜け殻のように、淡々と日々を生きてきた少年。

 少女も大変な思いをしてきたのだろうが、どうかこの機に、少年も救われることをアリアは願った。

大事な部分だと思ったので、結構長めになってしまいました。

ジーク、頑張れっ。

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