あー、よしよし
────アリア・アーウェン────
彼女には名前がない。その事には何となくだが勘づいていた。
だが、自分の感情を抑えきれず、名前を聞いたら、少女を傷つけてしまった。
彼女はただでさえ、3年よりも前、施設で過酷な環境にいたと言うのに、その傷をえぐるようなことをしてしまった。
アリアは自責の念で胸がいっぱいだった。その思いで、アリアは、追いかけたくとも少女を追いかけることが出来なかった。
だが、その場に残ってしまったが、自分は食べれる木の実や狩りの仕方を知っている訳では無い。
致し方なしにアリアは日用品作りを始めた。
10分もたっただろうか。
狩りをする彼女のことを考えれば、そんな僅かな時間なんて、たいしたものではない。
しかし、アリアはあんな別れ方をした彼女をただ待つことは出来なかった。
自分のなかにある不安に従って、先程彼女が走り去った方向に移動する。
そうして、いつも彼女が鳥の狩りをしているスポットや、散策コースを歩き回った。
それだけでも、もう1時間もかかる。
そんな道を易々と動きまわる小さな女の子の凄さを、アリアは改めて実感するが、彼女は見つからない。
そこで次にどこへ行けば良いかわからなくなったアリアは自然と、彼女と出会った場所まで足を運んでいた。
そこまでに行くのにまた半刻ほどかかった。
彼女と別れてから、もう1時間半だ。ここまで会えなければ、もとのいつも焚き火をしている地点に戻るべきか、とアリアは思った。
そう思い、引き返そうとすると、遠くから泣き声が反響して聞こえてきた。
(────彼女だわっ!)
そう気づいた瞬間、アリアははじき出されたように走り始めた。
足を進めるたびに、彼女の声はだんだんと大きくなる。
その声の中には自分を呼ぶ声もある。それに驚きつつも、アリアは走る。
なんとか視界に収まるまで、彼女の元へ近づけた。しかし、彼女の名前がないので、とっさにどう声をかければいいのか分からなかった。
しかし、そんなアリアに彼女も気づいた。
腕を必死に伸ばしてくる。
「うっぁっ、アリアさんっ、あぁぁあああ」
「お、落ち着いて!もう大丈夫よ!あー、よしよしよし。」
アリアは少女を抱き込み、あやす。
革命の事でまだ結婚もしておらず、もちろん子供もいないアリアは、それでも、昔母親が弟にしていたように彼女を持ち上げ、ゆさゆさと背中をさすった。
「うぅぅぅ、助けっ、ぅぁああああ」
「えっ!?」
するとなにか。彼女は突然助けを乞うてきたでは無いか。
あの後、何かあったのだと気がついたアリアはその場を離れるべく、元の場所へ彼女をなだめながら戻ろうとする。
すると、突然、
「アリア様!」
自分を乗せた馬車を護衛していた、従者の声がしたのだ。
ちょっと、ブルーズな話が続いていますね。
そろそろ明るい所に持っていきたいです。




