またもや逃走
(よ、よかったぁぁああ〜〜!!)
もう一度、息をつく。ギリギリ、クマの爪が女性に到着する前に火炎弾が間に合ったようだ。
女性に怪我はない。
それにしても、今の自分は、かつてテレビで見た仮面のライダーの、あのヒーロー達と似ているのでは?と思う。
ピンチな時に駆けつける、可憐で苛烈なヒーロー。
(ライダー、ピンクっ!なんちゃって〜)
どうでもいいかもしれないが、私はピンクが好きだ。
危機を脱したおかげだろう、私は浮かれた気分で、かたわらにいる人達のことを忘れていた。
「あっ!あの!」
「ぁっ!?」
声をかけられてその事を思いだす。
人への恐怖心がぶり返し、茂みの中に急ぎ戻った。
その行為に男性たちは驚く。先程助けた女性が私を制止する声をあげるが、はねあがった心拍数を落ち着かせるのに私は必死だった。
(でも、私が助けてあげた人達なんだから…。怯える必要なんて、ないよね!)
そう自分を鼓舞し、小刀を無意識に握りしめながら、茂みの隙間から男たちを見た。
「だ、だいじょう……ぶ?」
声が震えるのは仕方がない。むしろ、複数の相手に話しかけられた自分を褒めたかった。
「え、えぇ!助けてくれてあ、ありがとう。」
自分の声に女性が答えてくれた。
「あの、なんで……森、いた…の?」
数日前と全く同じ質問をする。またデジャブを感じた。
「人を探しにきたんだ!」
「っ!」
「こ、こらっ!」
今度は男性のうち1人が答えてきた。その声が大きく、体がビクリと反応してしてまった。それに気づいた女性が男性を小突いた。
「ごめんなさいね。……えっと、私たちはね?女の人を探しに来たの。お嬢ちゃん知らない?金色の髪の毛で紫色の目の人よ。こーんな感じの。」
そう言いながら女性は指でグッと両目を垂らした。
ゴールドの髪で紫の瞳。そしてタレ目と言ったらアリアさんのことだろうか。アリアさんの瞳はアメジストのようにキラキラしていて素敵だったなと思いだした。
「しっ、知ってる……アリア、さん……」
「そう!その人よ!」
そう答えると、男性たちと女性は、歓喜の顔を浮かべた。
もしや、アリアさんを捜索しに来た人達であろうか。
「お嬢ちゃん。その人がどこにいるか分かるのか?」
「うん……」
「場所、教えてくれないか?」
「う、うん………」
今度はさっきと違う男性2人が話しかけてきた。
先程のもう一人の男性とのやり取りからか、声は柔らかだ。
「あ、でも………」
「ん?」
私が躊躇っていると、男性から疑問の声が上がった。
確かにクマは撃退した。だから危機はもうないと言える。
しかし私は、女性が介抱していたもう一人の女性がまだ苦しそうにしているのに気がついた。
そのままにすると、傷が膿んでしまうかもしれない。
先程、女性が介抱していたが、クマに襲われている混乱の最中では、しっかりとした手当ができていない。
私はなんと答えれば良いか分からず、たまらずに無言で怪我をした女性の元へ向かう。
男性も女性も、その行動に目を点にしていたが、私は構わず、先日アリアさんに施したものと同じ手当をした。
「じょ、じょうちゃん!?」
「まっ魔法!?」
視線が気になるが、仕方がない。簡易消毒液を作り、傷のうえにかけ、仕上げに治癒魔法をかける。
みんな、少々グロテスクな治癒魔法を見て、顔を引き攣らせていた。
「その、ぁ……か、勝手に……ごめん、なさい。」
しかし、皆が呆然としていたが、私の声を聞き、ハッとした後、感謝の言葉を述べてきた。
「……い、いいえ。助けてくれて、ありがとう。」
その言葉を聞き、ふぅ、と息をつく。
会話の間、うるさかった心臓もなんとか我慢して、会話ができた。
その事に多少の達成感を感じつつ、一段落着いたと判断し、アリアさんまで案内をしようと思った。しかし。
「えっと……あの……アリアさん……場所………」
「君は!!3年前の子かい!?」
今まで黙っていた男性が急に声をあげた。
突然の事で体が大きくはねる。
しかし3年前?もしや、相手は施設の襲撃のことを知っているのだろうか。
────こんな森の深くまで来るだなんて、3年前の追手かもしれない!
いつぞや考えた事を思い出した。
そう思うと、せっかくなだめた心臓がまたもや早鐘を打つ。
「ぁ………うぅ、ご、ごめんなさい!」
それだけを言い残し、たまらなくなった私は走り逃げてしまった。




