違和感
その後、施設までジークは戻った。
しかし、先程の出来事があり、ジークは足の1歩を踏み出すたびに、重い鉛に押しつぶされている気分だった。
もちろん、今回の救出作戦において、被験者である子供達、全員が無事であったという訳では無い。
子供たちの脱走や魔術士たちが彼らを人質にとるなどして、不測の事態が起きてしまったことにより、子供たちの1部はすでに死に絶えてしまっている。
先程のサファイヤの子も、その内の1人とは言える。
しかし、そうだとしても、16歳のジークには、あまりにも重い事だった。
だが、まだまだ任務は終えられていない。
作戦を続行し、1度王都まで保護した子供たちを送り届けねばならないのだ。
施設のそばまで戻ると、先程仲間を突き飛ばした少女が、いまだに抵抗しているのが見えた。その子の見た目は、赤髪にグリーンの瞳で、ドルワル王国ではよく見られる様相をしていた。
「落ち着くんだ!私たちは君たちを保護しに来たんだ!」
「離して!離しなさい!!妹たちを外に出して!!」
「落ち着くんだ!!」
そんな言葉の応酬が、遠くからも聞こえる。
その様子を見ながら、しかし、どうしてここまで抵抗するのだろうか?と、ボンヤリとした脳みそでジークは疑問に思った。
「早く!早くしないと!あの子たちが!!」
少女が発した言葉を聞き、何か違和感を感じる。
「おい、まて、一旦話を聞こう。」
駆け寄り、仲間にそう言う。
「だ、だが……」
仲間が振り返る。その時、腕の拘束が緩んだんだろう。赤髪の少女は腕を振り払い、施設の中へ走り込んで行った。
「しまっ…」
「追いかろ!」
赤髪の少女は施設の壁に空いた穴に入り込み、姿を消す。その穴は大人では通れない。
完全に逃がす前に確保しなければ。
その場でいたメンバーで少女を追いかける。その内1人を、指揮官まで報告しに向かわせる。その間、周囲の騎士たちに捜索するように声をかけながら、探し回っていると、こちらにも伝令が来た。
どうやら、警備の隙を着いて、黒髪の少年が1人、逃げ出してしまったようだ。
その子も合わせ捜索を続ける。
すると、数分も経たないうちに少女たちの行方が分かった。
どうやら、先程と同様に、森の方へ逃げているらしい。
(────どうしてそこまで、外に逃げるんだ!)
と、思う。
それに、少女は、施設の前で何かを伝えようとしていた。
疑問に思いつつも、今起こっている事態に違和感を感じた。
何か重要なものを見落としているかのような、喉に小骨でも引っ掛けたような、そんなささいなむずがゆさ。
すると突然ガゴン、という音が、施設のなかに反響した。
(────なんだ!?)
魔術士たちは全員、取り押さえたはずだ。
もう懸念事項は、2人の少女と少年の脱走の事だけなはず。
それなのに、突然施設全体を揺らしてなった鈍重な音に不気味なものを感じた。
ひとまず、子供たちの安全は騎士たちが守っている。
いま、最優先は2人の確保だ。
そう思い、外に抜け出したジークは2人の子供の姿を捉えた。
その2人は案の定、赤髪の少女と黒髪の少年だったが、2人は逃げもせず、その場に座り込んでいた。
(────どういう状況だ……?)
不可思議な2人の行動に先程感じた違和感が警鐘を鳴らしていた。
ジークはサファイヤの少女のこともあり、子供たちを混乱させないようにゆっくりと、その2人に近づいく。
その2人はどうやら、泣いているようだ。
ほかの子供たちのだろうか、いくつもの誰かの名前を泣きながら言っている。
────それから程なくして。
────その2人を除く子供たちの死亡が報告された。




