少年の後悔
前にアリアからチラッとだけ名前が出ていた少年が、新しい登場人物としてでます。
19歳 ジーク・リンデン
ジークは才ある少年だった。幼い頃から騎士である父の指導を受け、その大人に勝る剣術は、騎士団の中でもトップ争いが出来るほどの腕前であった。
そんな華の道をたどる少年は、父が仕えるアーウェン男爵家の少女、アリアにスカウトされ、3年前の革命軍の先頭を指揮していた。
そもそも、男爵家領地は40年ほど前、ドルワル王国が魔法使いの武力により拡大された領土のうちの一つだ。
そんな背景もあって、国境沿いのアーウェン男爵家は、国境守備のために武力がいる。
王国の端にある貴族領だとしても、騎士団や傭兵などを雇い、高い武力を誇っていた。
そのため、王家といえども、アーウェン男爵領で起きた暴動は無視できない。
様々な王家の不正を告発されたのだから、その事実を揉み消すため、余計に戦闘は過激になっていったのだ。
初めは押され気味であった革命軍だが、それまでの経験と、当時16歳であったジークを含む、優秀な指導者たち。そして、元から王家の行為に不信を抱いていた貴族たちの支援と援軍のおかげで革命が成功した。
しかし、革命の貢献者でもあるジークには1つの悔恨があった。
それは3年前の人体魔力実験における子供たちの、救出作戦の時のことだ。
そこに加わっていたジークは安定して魔術士たちを切り伏せて行った。
こんなに非人道的なことをしてのける魔術士達には大きく怒りを感じる。
襲撃の際に、捉えられていた子供たちは、元いた部屋から逃げ出した。
その事は想定外で、中には子供達を人質にとり、逃げおおせようとする魔術士が出てくるなど、不測な事態にまで陥った。
しかしジークは自分の剣術を最大限にふるっていった。
あらかた魔術士達は取り押さえられた、作戦の終盤。騎士たちは逃げ出した子供たちを保護していった。
魔術士の応戦が激しく、人命救助を1番としていたが、全員の子供を保護しきれていなかったのだ。
ジークは、森に逃げていった子供たちを保護する部隊に加わった。
程なくして、ほとんどの子供は保護できた。
騎士たちが安全を確認し、警護している施設の部屋のひとつに、子供たちが集められた。
しかし、子供の内2人がまだ保護できていない。
ジークは、複数の仲間を連れてそのまま2人を追いかけた。
仲間の内一人が、サファイヤの髪色の女の子の腕を捕まえる。
1人目は確保できたかと安堵仕掛けた時、横から飛び出してきた少女に仲間は押し飛ばされてしまう。
そうしてもう1人の少女と仲間がきりもみしているなか、サファイヤの少女は逃げ出してしまう。
甲冑が重く、その少女との距離は、だんだん離されていく。
これはいかんと思っていたら、少女が転んだ。
これ幸いと、今度は刺激しないようにジークは近づいていった。
「落ち着いて……我々は君たちを保護しにきたんだ」
上がった息を抑え、落ち着いた声を出すように気をつけ、声をかける。
「さぁ、こっちへ来るんだ。」
もう安心だとばかりに腕を広げながら、徐々に歩み寄る。
「もう大丈夫だよ……」
少女はどうやら、混乱しているようだ。目の焦点があっておらず、体は震えている。
自分が少女に恐怖を与えている現状に苦しく感じつつも、再度、王家と魔道士達への怒りを感じた。
ついに、目の前まで追いついたジークは優しく、少女の腕を掴んだ。
「だいじょう、」
しかし、
「いやぁぁぁぁあああああああ!!!」
少女が声をあげたと思ったら、突然爆発が起きた。
その勢いで少女の腕を離してしまう。
「なっ!?」
爆風で吹き飛ばされかけたが、急いで体勢を整える。
振り返り、少女が飛んで行ったであろう方向に駆ると、木々がすぐに開け、崖になっていることに気がついた。
(まっ、まさか──────)
下から何かが木々にぶつかる音がした。
────少女が落ちてしまった!
────少女を、助けられなかった!
────少女を死なせてしまった!
こんな場所からあの小さな体で落ちたら生存は絶望的だ。
万が一、生き延びたとしても、森の中でどうやって生き残ろうと言うのか。
少女を死に追いやってしまった。
その事が、ジークに、深く、深く、悔恨として根付いた。